続うつ病日記5
昨日は、セロリとベーコンと塩レモンのペペロンチーノに、夫が作ったネギのコンソメスープ、前日スーパーで安く手に入れた不揃いなプチトマトで昼食をとった。昨冬、農家をしながら翻訳や執筆をしているKさんが、収穫したての大量のミカンと刊行されたての本と一緒に、レモンを数個送ってくれた。それを塩漬けにしたものが、今ちょうど食べごろになっている。
昼食後に眠気に襲われたので昼寝をすることにした。ただし、一昨日と違って薬を飲まずに床に就いた。入眠作用がある薬なので、就寝時に服用するのは効果的だが、軽い昼寝には向かないのかもしれないと考えたのだ。結果、15分ほどうつらうつらしたのちに目が覚めた。その後10分ほど瞑想をして身支度をし、家を出た。
「続うつ病日記4」では、ネットが必要ない作業なら公園でするのもいいかもしれないなどと書いたが、外に出てみて、それは大きな間違いだと気づいた。暑い。まだ暑さに身体が慣れていないせいでもあると思うが、こんなに暑い日に野外で作業などできたものではない。大人しく近所の喫茶店に行き、大人しくレモネードを頼んで、『翻訳文学紀行Ⅳ』の校閲を行った。校閲や校正は、なんとなく自宅よりも外でのほうが作業がはかどる気がする。去年も校正作業は、主に非常勤先での授業を終えた後、大学のカフェテリアなどで作業をしていた。レモネードを飲みつつ2時間半ほど作業をした頃に、夫から「そろそろ夕飯の買い出しに行こうと思うけど、一緒に来る?」と連絡があった。うつ病になる前のわたしなら、さらに作業を続けようとしたところだが、昨日は「これ以上根を詰めるべきではない」と判断した。会計をして夫の買い出しに加わる。
帰宅後どっと疲れに襲われた。体内に熱がこもっている感じがする。気温の変化に身体がついてきていないのだろうか。確か去年はこの辺りの時期に熱中症にかかった覚えがある。あの頃は今のアパートに引っ越して初めての夏で、エアコンがなかった。その後すぐにエアコンを導入したが、どのタイミングで冷房を使い始めるべきか考えあぐねている。だってまだ5月だし……。アイスノンを枕にしばらく床にのびていると、夫が、図書館から借りてきた臨床心理学の分厚い入門書を持ってきた。うつ病の項目に目を通して勉強しているという。
「どんな時に抑うつ的な気分になる?」
と、夫は付け焼刃の臨床心理学知識でカウンセリングを始める(効果の程は保証しない)。
「自分が望んでいるほどに仕事ができない時。今日やった作業だって、去年だったらもっとできてたはずなのに」
「でも2月と比べたらずっとできていると思わない?」
「……2月の記憶がほとんどない」
「……え? ことたびさんは2月はほとんど寝込んでいたんだよ? 仕事も家事もほぼできなかったし(つまり、家事はほぼ夫がやっていた)、ほとんど毎日泣いてたし。毎朝、布団から居間のテーブルに出てくるまでがドラマだった。会話だって満足にできるのは午前中くらいで、午後になるととにかく薬を飲ませて布団に誘導する毎日だったよ」
「え……? それ盛ってない!?」
夫は呆れ顔だ。1カ月以上看病した見返りがこれである(もちろん彼がわたしを看病してくれたのは、見返りを求めてのことではないが……)。
しかし、本当に2月のことはほとんど何も思い出せなかった。多分、何も記憶に残らないくらい何もしていなかったのだと思う。思い出せるのは、『彼岸の図書館 ぼくたちの「移住」のかたち』(夕書房、2019年)と『手づくりのアジールーー「土着の知」が生まれるところ』(晶文社、2021年)を蛍光ペン片手に読んだことと、『文藝』春号(河出書房)を読んだこと、『ミクロコスミ』を読み始めたものの全く頭に入ってこなかったことくらいだ。
ちなみに、『手づくりのアジール』については、5月11日(水)20時からオンライン公開収録があり、先日『翻訳文学紀行Ⅲ』の朗読イベントで「メキシコ発見」を朗読してくださったヒトミ☆クバーナさんが出演される。参加無料とのことなので、こちらの収録もぜひチェックしてみてほしい。
「まぁ……辛そうだったから、忘れてる方がいいのかもしれないけどね」
夫は苦笑いしながら過去のLINEをさかのぼり、2月初旬のある夕方にわたしから送られてきたメッセージを発掘する。
わたしは今限りなく上半身が地面に近づいている状態です。寝ます。
この謎のメッセージに、夫はすぐさま「寝て!」という返信をしていた。よくこんな妻と一緒に生活できたな……と、思わず夫を尊敬する。夫の言う通り、この頃と比べればわたしの状態はかなりましだ。大学で1コマ授業をできている時点で奇跡に近い。あの頃全く頭に入ってこなかった『ミクロコスミ』も、毎晩楽しく読むことができている。数か月でなされたこの目覚ましい進歩を確認して、わたしたちは夕飯の支度に取り掛かった。
昨日の夕飯は、豆ごはんに味噌汁、タラと玉ねぎと舞茸のホイル焼き、白ネギのグリル、千切り玉ねぎ。豆ごはんは、おいしさの余りお代わりをした。春だ。もう暑いけど。
食後も疲れはずっしりと残っていたので、入浴して薬を飲んで『ミクロコスミ』を読んで9時前に就寝した。
今朝は7時前起床。朝から軽い頭痛があった。低用量ピル服用初期にあらわれる副作用だと確信した。先月の悪夢のような生理痛と比べたら軽いものである。頭痛薬を飲んで、朝食をとり、普段より念入りにヨガをする。ちなみに今朝は、青汁と豆乳とバナナのスムージ―を飲み、冷蔵庫に保存していた玄米と昨日の残りの豆ごはんを半分ずつと、味噌汁、目玉焼き、不揃いなプチトマトの残りを食べた。そして悩んだ末にカフェイン入りのコーヒーを1杯飲んだ。その後、カフェインレスコーヒーを飲みながらオンラインのドイツ語講読講座を楽しく終わらせた。
昼前に頭痛とほてりが強くなってきたので、漢方薬を飲んだ。そして、アイスノンを頭にのせながら日記を書いた。昼食は夫が作ってくれた、小松菜と舞茸とベーコンの和風パスタ。昼は麺類の出現率が高い。食後はウェルチのソーダ割で乾杯して、わたしは頭痛薬を飲んだ(薬を飲みすぎだろうか……?)。夫も仕事で疲れている様子だったので、洗い物はわたしが担当した。
今日の午後は作業を休みにして、ゆっくり休むことにする。その前に玄米を炊飯器にセットすることにする。