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ブルノ滞在記18 元ルームメイトに会いにオストラヴァへ

今朝は5時に起床。夫にLINEを送ったら、体調を崩してダウンしているという。実家での家事が大変だったのか、昨日買い物の際に雨に降られて身体を冷やしてしまったのか。わたしたち夫婦はそろって身体が弱い。

わたしは、今日はブルノ中央駅を9時過ぎに発車する電車に乗って、元ルームメイト、ペーチャ Péťa が住むオストラヴァ Ostrava に会いに行く。当初は彼女の実家があるロジュノフ・ポト・ラドシュチェン Rožnov pod Radhoštěn を訪問するつもりだったのだが、彼女の両親が風邪をひかれたとのことで、急遽彼女が夫と息子と一緒に住んでいるオストラヴァに行き先を変更した。先日お会いしたブルノ・モラヴィア図書館の館長さんには、「ロジュノフはいいところだね。自然があってきれいで……街にはあんまり何もないけど」と言っていた。率直すぎ。オストラヴァはチェコでは比較的大きな街だが、実はまだ行ったことがない。チェコ有数の工業地帯で、かつては「灰色の町」と呼ばれていた。今もその印象は変わっていないと思う。オストラヴァ出身の知り合いは、地元で白いTシャツを着ると夕方には灰色になっているという話をしていた。あるいは、大阪に来た家族が、「日本は空気がきれいね!」と言ったという話も。もちろん大阪の空気はお世辞にもきれいだとは言えないから、オストラヴァの空気汚染は相当のものだったのだろう。今はまた状況が変わっているとは思うけれど。

ペーチャはわたしの2度目のチェコ長期留学の後半に、同じシェアアパートに住んでいた女性だ。会った瞬間に、彼女とは意気投合できると思った。彼女は美大を卒業したイラストレーターだ。優しくてオープンな性格で、柔らかな響きがあるとても上品なチェコ語を話す。一緒に暮らしていた頃は、ズリーン Zlín にある造形大学(?)で講師をしたり、友人が出すCDのジャケットデザインを手掛けたり、手作りマーケットに自作の絵本やポストカードを販売しに行ったりと、あっちこっち忙しそうに飛び回っていた。

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特に、彼女のおじいさんが作った動物の童話に彼女が挿絵をつけて出版した本は本当に可愛らしい。絵本と言うには読み物が多く、内容も充実している。何より、文章も絵も、動物たちの描写が生き生きとしている。この作品の中では、人間と動物の境界はごくごく薄い。もし4月以降仕事に余裕が生まれたら、本当に彼女の絵本を全訳してみようかな、と思う。きつい方言で書かれているので(それも味わいの一つなのだが)、かなり骨が折れるだろうけれど。

彼女と一緒に住んでいた頃に、わたしは当時関係がうまく行っていなかった恋人と別れた。そしてその数ヶ月後、彼女も失恋を経験した。お互いに恋愛についてたくさん語って、たくさん泣いた。「わたしって、恋愛をすると、相手に尽くしちゃうのよね……」と言う彼女に、共感した。ヨーロッパの女性は日本の女性よりも自立していて、はっきり自己主張するという話があるけれど、やっぱり恋愛関係の根本的なところはあまり違わないのかもしれない。わたしたちは失恋友達だ。帰国後も「最近は恋愛の方はどう?」なんてやりとりを絵葉書を介して行っていた。

そんな彼女も、その後新たな恋人と出会って昨年結婚・出産した。パートナーと一緒に撮った、ちょっと笑えるけれどとても可愛いマタニティフォトを送ってくれた。臨月のように見えたから、あの直後に生まれたと想像すると、子どもさんは今1歳過ぎくらいだろうか? 一昨日メッセージのやりとりをしていたら、赤ちゃんを抱き続けたせいで腕の筋が炎症を起こしたとのことで、腕を吊っていた。全治6週間だという。彼女はものすごく身体の線が細い。まるで少女のような出立だ。パソコンのデータを探っていたら、帰国直後に描いた彼女の絵が出てきた。

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確か、ロジュノフから段ボールいっぱいのさくらんぼをプラハに持って帰ってきてくれた時のことだ。その後桜桃をコンポートにしてくれた。あの頃の彼女はまさにこんな出立だった。彼女の腕は筆を持つためのものではあっても、数キロの赤ちゃんを抱き続けられる腕にはとてもみえない。

わたしは子育て以上にやりたいことがあるし、何より日本で子育てできるほどの経済的余裕はない。だから子どもを持つつもりはないが、子育てって大変だなぁ……と思うし、子育てをしている人を手伝いたいという気持ちはすごくある。今回はできるだけ彼女のお手伝いをしてあげることにしようと思う。


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