ブックレビュー ロバート・マッキー著『ストーリー』(13)第3部 ストーリー設計の原則 重大局面、クライマックス、解決
投稿の間隔が空いてしまい、申し訳ありません。
『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』のレビュー第十四回を投稿します。
(各回をまとめたマガジンはこちらです。)
※ こちらのレビューは、非常に内容が濃い本書を私なりにまとめた「概要」です。
興味をお持ちになった方は、ご購入の上、本レビューを副読本的にお読みになることをお勧めします。
第3部 ストーリー設計の原則
13 重大局面、クライマックス、解決
【重大局面】
「契機事件」、「段階的な混乱」を経て進んできたストーリーの「三つ目の要素」が「重大局面」だと著者は述べています。
ここに至るまでにも主人公はストーリー内でさまざまな決断をしているはずですが、「重大局面」においては、何としても手にしたいものを得られるかどうかの分かれ目となる「究極の決断」を迫られます。
【重大局面の配置】
上記のどちらにもあてはまらない「重大局面」のシーンも存在する、と著者は述べています。
それは、契機事件の後にすぐ「究極の決断」が来る作品で、例としては『007』シリーズ。
「ジェームズ・ボンドが、与えられた任務を受ける」というのが決断であり、その後は、アクションに継ぐアクションのクライマックスシーンが長く続きます。
【重大局面の設計】
「究極の決断がある場所でおこなわれ、ストーリー・クライマックスがのちに別の場所で生じる作品」の例としては、『クレイマー・クレイマー』が挙げられています。
裁判で、元妻に息子の親権を奪われた主人公は、第三幕の冒頭、弁護士から「控訴をすれば勝ち目はある」と告げられます。
ですがそのためには、息子を証言台に立たせて、両親のどちらと暮らしたいかを選ばせなければなりません。
主人公は、そんなことをすれば息子の心に生涯消えない傷が残ると考え、苦悩の末、「それはできない」と答えます。
これが彼の「究極の決断」です。
クライマックスは別の場所、セントラル・パークで息子と散歩をするシーンです。
主人公は息子に、「もう一緒には暮らせない」と涙まじりに語ります。
【クライマックス】
クライマックスという言葉からは、映像的に派手なシーンを思い浮かべる人もいると思いますが、そうとは限らないのだと著者は言います。
例えば『普通の人々』のクライマックスは、「夫と静かに話していた妻が、立ち上がり、荷物をまとめて出ていく」というシーンです。
映像的には決して「壮大なスペクタクル!」といった場面ではないですが、「家族の絆が失われ、決して元に戻ることはない」という価値要素の大きな転換が起きています。
それと同時に、妻の「家を出ていく」という行動には、「妻との関係に苦しんでいた息子が救われる」というプラスの面もあり、せつないアイロニーを帯びています。
観客は作品を観ている間に自然と「ハッピーエンドになりそうだな」「悲しい結末になりそうだな」といった予想を立てています。
その予想の通りにストーリーを終わらせることは難しくありません。
例えば登場人物を全員死なせてしまえば、ともかく「悲しい結末」にはなります。
ですが、それだけで観客が満足するわけではないと、ウィリアム・ゴールドマンも、アリストテレスも述べているのです。
ひと言でいえば「必然的かつ予想外」、言い換えるなら「説得力と満足感、それと同時に驚きがある結末」こそが観客を満足させるということなのでしょう。
当然書き手にとっては「とにかく悲しい結末」や「何はともあれハッピーエンド」を書くことよりもはるかに難易度が上がります。
【解決】
「解決」の三つの使い方のうち一番目として、著者は「サブプロットのクライマックスを『解決』としてストーリーの最後に配置する」という方法を挙げています。
ただしこの場合、メインプロットのクライマックスはすでに終わっているため、観客が「解決」のパートを蛇足だと感じる可能性があります。
この問題をうまく回避している作品として、著者は『あきれたあきれた大作戦』を紹介しています。
『あきれたあきれた大作戦』のメインプロットは、「CIA捜査官が無理やり歯科医を仲間に引き込み、国際金融システムの崩壊を狙う独裁者に立ち向かう」というもの。
このCIA捜査官の息子と、歯科医の娘とは婚約しており、「各々の息子と娘の結婚式」というサブプロットのクライマックスが、「解決」としてラストに配置されています。
二人の父親はメインプロットの問題を解決し、密かに大金をせしめて結婚式の会場に駆けつけます。
するとそこに、怒り心頭の様子の捜査官が現れます。
観客はここで、「二人は、大金を盗んだ罪で逮捕されるのでは?(メインプロットはまだ解決していなかったのでは?)」と考え、画面にひきつけられます。
ですが実は、捜査官が怒っているのは結婚式に招待されていなかったから。
二人の父親が捜査官を式場に招き入れることで、ストーリーは「完」となります。
このラストのひねりがなければ、「解決」のシーンは単なる「結婚式に集まった家族の幸せな姿」となっていたのでしょう。
ひねりが加えられたことで最後まで緊張が保たれ、観客の満足度はさらに上がったはずです。
登場人物たちがバースデーパーティーやピクニックをしているシーンで終わる作品や、イースターの卵探しゲームをするシーンが「解決」となる『マグノリアの花たち』などが、これに当たります。
「解決」パートは、「観客に余韻を味わってもらう」という役目も果たすということです。
☆「第4部脚本の執筆 14敵対する力の原則」に続く
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※このブックレビュー全体の目次は以下の通りです。
第1部 脚本家とストーリーの技術
(1)ストーリーの問題
第2部 ストーリーの諸要素
(2)構成の概略
(3)構成と設定
(4)構成とジャンル
(5)構成と登場人物
(6)構成と意味
第3部 ストーリー設計の原則
(7)前半 ストーリーの本質
(7)後半 ストーリーの本質
(8)契機事件
(9)幕の設計
(10)シーンの設計
(11)シーンの分析
(12)編成
(13)重大局面、クライマックス、解決
第4部 脚本の執筆
(14)敵対する力の原則
(15)明瞭化
(16)前半 問題と解決策
(16)後半 問題と解決策
(17)登場人物
(18)ことばの選択
(19)脚本家の創作術
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