更新の間が空いてしまい、申し訳ありません。
『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』のレビュー第七回を投稿します。
(各回をまとめたマガジンはこちらです。)
※これまで1章分ごとにレビューをしてきましたが、第7章にあたる『第3部 ストーリー設計の原則 7 ストーリーの本質』はボリュームが大きいため、投稿を前、後半に分けます。
この投稿は「前半分」です。
※ こちらのレビューは、非常に内容が濃い本書を私なりにまとめた「概要」です。
興味をお持ちになった方は、ご購入の上、本レビューを副読本的にお読みになることをお勧めします。
第3部 ストーリー設計の原則
7 ストーリーの本質(前半)
本章は、著者から読者への以下の問いかけから始まります。
……ということで、「主人公」に関する考察が始まります。
【主人公】
この引用を読んで、「必ずしもそうじゃないのでは?」と思う方もいらっしゃるでしょう。
「優柔不断で、意志が弱い主人公だっているんじゃない?」と。
その点に関して、著者は以下のように述べています。
主人公を突き動かす強い意志を当人が自覚していない場合もある、ということですね。
私の解釈を付け足すならば、主人公は必ずしも「人生全般を強い意志を持って生きている人」でなくても良いと思います。
主体性なく生きていた人物が、何かのきっかけで強い意志を持ち、自分でも驚くほどの欲求に突き動かされる姿は劇的ですし、その部分を描くのであれば”主人公としての資格”を持つ人物となるはずです。
例えば、監督:黒澤明、脚本:橋本忍の名コンビによる映画『生きる』の主人公がこのパターンですね。
「意志の強い人物である」という事以外にも、主人公には以下のような条件が必要だと著者は述べています。
補足もはさみながら、列挙していきます。
「魅力的な主人公は多面性を持ち、意識的な欲求と潜在的な欲求が矛盾していることが多い」と著者は言います。
第1章で著者は、ストーリーは人々にとってさまざまな人生の疑似体験であると述べています。
観客は誰もが何らかの希望を抱いて生きているため、希望を叶える可能性がゼロの主人公には興味が持てない、というわけですね。
観客がストーリーを通して疑似体験したいのは「主人公のほどほどの人生」ではなく、「ぎりぎりまで振り切った振り子のような、人生で最も強烈な瞬間」であるということです。
これが最も重要で、且つ書き手を目指す人が誤解しやすいポイントではないかと私は思います。
【観客との絆】
脚本家志望の人と話をしていると、
「主人公に不道徳な言動をさせることを怖がり過ぎでは?」
と感じるときがあります。
自分が描くストーリーの主人公が、観客から嫌われることを怖れ、「正しい行いをする人」「誰からも愛される立派な人物」でなくては……と考えてしまうのは、著者の言う「共感と好感のちがいがわかっていない状態」に陥っているということなのでしょう。
【登場人物の世界】
「安定した職を捨てて、大きな夢を叶えるために挑戦するぞ!」
と自分で決断したはずなのに、困難に直面すると、
「こんな不安定な暮らしは止めるべきでは?」
と思ってしまう自分がいる。
「絶対に目標を達成するぞ!」と心は思っているのに、体力がついてこない。
……といった具合に、「自分自身が自分の最大の敵」となる場面は、現実の人生のなかでもよくありますよね。
この「内的葛藤」の他に、二種類の葛藤が存在すると著者は述べています。
【ギャップ】
主人公にとっての「理想と現実のギャップ」がストーリーを動かし、主人公に次なるアクションを起こさせる、ということです。
ここは非常に重要なポイントです。
「主人公のアクションにともなうリスク」の大きさが、ストーリーの面白さと直結するからです。
【リスクを負う】
この、「ストーリーにおけるリスクの重要性」に関しては、私の過去の投稿『ご質問にお答えします! 葛藤を描くコツは?』でも触れていますので、よろしければ参考になさってください。
【ギャップの連鎖】
「理想と現実のギャップ」と「それに対する主人公のアクション」は連鎖していく、と著者は述べています。
最初のアクションが新たなギャップの出現を引き起こし、それに対する主人公の第二のアクションがさらに大きなギャップを生み、第三のアクションへ……と連なっていくわけです。
「ギャップこそがストーリーの核心であり、物語を煮詰める大釜」
大事なことなので、二度書いてみました。
心に刻みたい名言です。
【内側から描く】
「クリシェ」という言葉はここまでにも何度か出てきていますが、「ありきたりな表現」といった意味です。
書き手が登場人物を外側から客観視しているだけでは、ありきたりな感情表現しかできない、ということですね。
これをお読みになっているみなさんは、執筆中に「心臓が激しく打ったり、手のひらに汗がにじんだり」といった経験をされているでしょうか?
書き手が、真に登場人物の内面に入り込めているかどうかは、この種の身体的な反応の有無で見分けられる、というのが著者の考えなのでしょう。
では、具体的にどうすれば登場人物の内面に入り込めるのか?
著者の意見は次の通りです。
スタニスラフスキーとはロシア革命前後に活躍したロシア人演出家で、「魔法のもしも」は、彼の著書『俳優修業』に登場する言葉です。
「魔法のもしも」に関しては、下の私の投稿をお読みいただくと良いかと思います。
☆「第3部ストーリー設計の原則 7ストーリーの本質 後半」に続く
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脚本、小説のオンラインコンサルを行っていますので、よろしければ。
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※このブックレビュー全体の目次は以下の通りです。
第1部 脚本家とストーリーの技術
(1)ストーリーの問題
第2部 ストーリーの諸要素
(2)構成の概略
(3)構成と設定
(4)構成とジャンル
(5)構成と登場人物
(6)構成と意味
第3部 ストーリー設計の原則
(7)前半 ストーリーの本質
(7)後半 ストーリーの本質
(8)契機事件
(9)幕の設計
(10)シーンの設計
(11)シーンの分析
(12)編成
(13)重大局面、クライマックス、解決
第4部 脚本の執筆
(14)敵対する力の原則
(15)明瞭化
(16)前半 問題と解決策
(16)後半 問題と解決策
(17)登場人物
(18)ことばの選択
(19)脚本家の創作術
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