ブックレビュー ロバート・マッキー著『ストーリー』(2)第2部 ストーリーの諸要素 構成の概略
『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』のレビュー第二回を投稿します。
(各回をまとめたマガジンはこちらです。)
本書は、これまでに私が読んできた作劇を学ぶための本の中でも非常に実践的で濃密だと感じています。
それだけにレビューも簡単にまとめることができず、長文になってしまいますが、この本のエッセンスをお伝えし切れているとは言えません。
今後も1章ごとにレビューは続けて行きますが、あくまで、私なりにまとめた概要でしかありませんので、まずはこのレビューを入り口にこの本に興味を持っていただき、購入後は副読本的にお読みいただくことをお勧めします。
第2部 ストーリーの諸要素
2 構成の概略
【構成とは?】
例えば長編映画なら、一般的な長さは二時間。
この中で、一人の人間の誕生から死までのすべての出来事を描くことはできません。
そこで書き手は、「どの出来事を、どのような順序で描くか」を熟考し、その選択と配列によって観客の心を動かそうとします。
これがストーリーの「構成」というわけです。
「ストーリーを動かす価値要素」の具体例としては、
「生/死」、「愛/憎」、「自由/隷属」、「真実/嘘」、「勇気/臆病」、「忠誠/裏切り」、「知恵/愚鈍」などが挙げられています。
それならば、なぜ書き手は「価値要素が変化しないシーン」を書いてしまうのか?といえば、「明瞭化のためだ」と筆者は言います。
「明瞭化」とは、観客に対して登場人物や世界や歴史についての情報を与えること。「説明」と言い換えても良いと思います。
この技術を習得できれば、かなり作品のレベルが上がるでしょう。
但し、著者が「熟練した脚本家なら」と述べていることから分かる通り、そう簡単なことではありません。
まずは「単なる説明シーンは削るべきだ」という意識を持つことから始めるのが良いと思います。
【 ビート<シーン<シークエンス<幕 】
次に著者は、「ストーリー」を構成する要素である「ビート」「シークエンス」「幕」という用語について解説しています。
例えば同棲している恋人同士がケンカをしているとします。
「出て行ってやる!」という彼女の脅し(アクション)と、「好きにすれば!」という彼氏の開き直り(リアクション)が、一つの「ビート」です。
そして「ビート」が積み重ねられることで、「シーン」が構成され、さらに「シーン」がいくつ積み重なって「シークエンス」が構成されます。
例えば、以下の3シーンによって、一つの「シークエンス」が構成されています。
シーン1
バーバラはパーティーに出かける支度をしている。
彼女は転職活動中で、今夜のパーティーでのふるまいで希望する企業に採用されるかどうかが決まるため、緊張している。
着替えや髪のセットをするうちに劣等感がわいてきて、行くのを止めようと思うが、そこに母からの電話。
転職を阻もうとする母に反発を覚えるうちにバーバラはやる気を取り戻し、電話を切って身支度を整えると、自信を取り戻す。
シーン2
雷雨の中、パーティー会場に向かって慣れないNYの街を走るバーバラ。
夜の公園を通り抜けようとして、不良どもに取り囲まれてしまうが、特技の空手で彼らを倒して逃げる。
シーン3
逃げ延びたバーバラだが、パーティー会場に着いて鏡を見ると酷い身なりになっており、これでは採用されるはずがないと落ち込む。
だが同じパーティーに集まった面々が、バーバラの濡れた髪を拭いてくれたり、着替えを用意したりしてくれる。
サイズの合わない服を着たバーバラは「どうせ不合格だから」とパーティーの席でリラックスしてふるまい、公園での出来事を皆におもしろおかしく話して聞かせる。
重役たちはバーバラのタフさに感心し、彼女の採用を決める。
「シークエンス」がいくつかまとまると、さらに大きな構成要素である「幕」となります。
そして「幕」が集まったものが「ストーリー」というわけです。
このようにストーリーの「構成」を作り上げていくには、綿密な計算や、幾度もの試行錯誤が必要です。
観客の目には「脚本家の直感からひとりでに生まれた物語」のように見えていたとしても、実際に脚本を完成させるには、多くの作為と加工が必要なのです。
【ストーリー・トライアングル】
脚本家が設計するストーリーのパターンは数多あるが、無限というわけではなく、
・「古典的設計」(アークプロット)
・ミニマリズム(ミニプロット)
・反構造(アンチプロット)
の三点を結んだ三角形の中に、すべてが含まれると著者は言います。
いつの時代にも通用する基本の型が「アークプロット」というわけです。「一般的なシナリオ教室で教わるような型」と言ってもよいでしょう。
尚、「クローズド・エンディング」とは、ストーリーが提示した疑問のすべてに答えが与えられ、引き起こされた感情のすべてが満たされるエンディングを指します。
これとは逆に、提示された疑問の中に不明のままの物も残され、あとで観客がみずから答えを出さなくてはならないような終り方を「オープン・エンディング」と言います。
アークプロット以外の二つのプロットは、以下のような特徴を持ちます。
・ミニプロットの特徴
「主人公が受動的」「内的葛藤を描く」「複数の主人公」「オープン・エンディング」
(作品例:『パリ、テキサス』『テンダーマーシー』『愛のコリーダ』)
・アンチプロットの特徴
「一貫性のない現実」「非直線的時間」「偶然の一致」
(作品例:『8 1/2』『恋する惑星』『ウェインズワールド』)
アンチプロットの特徴に「一貫性のない現実」とありますが、これに関しては以下のように説明されています。
このような「一貫性のない現実」の中で描かれるアンチプロットは、観客に、不条理の感覚を与えます。
著者は、「アークプロット」「ミニプロット」「アンチプロット」の三点を繋いだ三角形を「ストーリー・トライアングル」と呼び、
「書き手にはそれぞれ、ストーリー・トライアングルのどこかに、生まれ持った居場所がある」と述べています。
それと同時に、執筆で生計を立てるには、以下の事実を認識することが大切だと言います。
とは言え、「自分が書きたいのは、あくまで『ミニプロット』『アンチプロット』の作品なのだ! 『アークプロット』なんて書きたくない!」
という人もいるはず。
その辺りに関しても、著者は言及しています。
手厳しいですが、的確な指摘だと思います。
この章も著者らしく、辛口ですが核心をついた言葉で締めくくられています。
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脚本、小説のオンラインコンサルを行っていますので、よろしければ。
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※このブックレビュー全体の目次は以下の通りです。
第1部 脚本家とストーリーの技術
(1)ストーリーの問題
第2部 ストーリーの諸要素
(2)構成の概略
(3)構成と設定
(4)構成とジャンル
(5)構成と登場人物
(6)構成と意味
第3部 ストーリー設計の原則
(7)前半 ストーリーの本質
(7)後半 ストーリーの本質
(8)契機事件
(9)幕の設計
(10)シーンの設計
(11)シーンの分析
(12)編成
(13)重大局面、クライマックス、解決
第4部 脚本の執筆
(14)敵対する力の原則
(15)明瞭化
(16)前半 問題と解決策
(16)後半 問題と解決策
(17)登場人物
(18)ことばの選択
(19)脚本家の創作術
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