『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』のレビュー第三回を投稿します。
(各回をまとめたマガジンはこちらです。)
※ こちらのレビューは、非常に内容が濃い本書を私なりにまとめた「概要」です。
興味をお持ちになった方は、ご購入の上、本レビューを副読本的にお読みになることをお勧めします。
第2部 ストーリーの諸要素
3 構成と設定
【クリシェとの闘い】
「クリシェ」とは、フランス語で「使い古された陳腐な表現」といった意味です。
”ベタ”と言い換えても良いかもしれません。
ありとあらゆるストーリーがあふれる現代において、クリシェに陥らず、「誰も見たことがないもの」をどう作り出せばいいのだろうか?と著者は問いかけます。
作り手自身が「自分のストーリーの世界を理解していない」というのはどういうことかと言えば、自身が設定した世界についての考察、理解が足りていないということ。
書き手はつい「自分の頭のなかでつくった世界なのだから、誰よりも自分がわかっている」と思い込んでしまいがちですが、十分な考察をしないまま執筆に取りかかっても描くべきものは見つからない、と著者は言っているわけです。
そして、考察が足りない場合、書き手は過去に見たり読んだりした人の作品を頼りにし、クリシェに陥る。
その状態を著者は以下のように言い表しています。
【設定】
自分のストーリーの世界を深く理解するためにしっかりと考察すべき要素のひとつが「設定」。
その「設定」を、著者は以下のように定義しています。
四番目の「葛藤レベル」に関する説明は、以下の通りです。
さらに著者は、設定を行うことによって、ストーリー内で「起こりそうなこと」「起こりうること」「起こるはずがないこと」が明確になっていくと言います。
前回の投稿でも、この「独自のルール」に関する引用をした部分がありましたので、再度載せておきます。
分かりやすいと思うので『ロジャー・ラビット』の例を取り上げましたが、ストーリーの「独自のルール」は、ファンタジー作品特有のものではありません。
例えば、現実的な離婚問題を題材にしたストーリーであっても、「設定」の四要素のひとつである「舞台」が、ルイジアナなのか、ニューヨークなのか、アイダホなのかによって、「起きそうなこと」「起きるはずがないこと」は自ずと変わってきます。
……ということは、「2019年、東京のどこかに暮らす、ごく普通のサラリーマンの物語」ということでは、「ストーリーの設定をした」とは言えないということになります。
自分が描こうとしていることに最も適しているのは、東京のどこに暮らす人物なのか? サラリーマンならばどんな会社に勤めているのか?
役職は? 勤続年数は?
これらの問いに、たったひとつの答えがあるはずだと著者は述べているわけです。
「私が描きたいのは、主人公の恋愛であって、サラリーマンとしての生活ではないから、『東京に暮らす、ごく普通のサラリーマン』ということで十分」と、つい考えてしまう人もいると思いますが、それが著者の言う「作り手が自分のストーリーの世界を理解していない」状態ということなのでしょう。
【創造的な制約の原則】
上記の通り、描きたいストーリーに適した「設定」を作ると、その世界独自のルール、いわば「制約」が生まれます。
例えば、「東京のどこかに暮らす普通のサラリーマン」よりも、「台東区合羽橋あたりに暮らす食器メーカーのサラリーマン」と具体化した方が、この登場人物の日常が思い浮かびやすく、描きやすくなる、ということですね。
無闇に風呂敷を広げても、作り手自身の手に負えないものになっては仕方がない、ということですね。
【調査】
記憶、想像力、事実の三種類の調査については、以下のように解説されています。
・「記憶の調査」に関して
・「想像力の調査」に関して
・「事実の調査」に関して
これらの地道な調査を続けていくと、「堰を切ったようにストーリーがあふれ出すという現象が起こる」と、多くの書き手が述べています。
ですが著者は、以下のような警告もしています。
また、調査が完璧に終わらなければ、創作に取り組んではいけないというわけではなく、創作と調査を交互に進めて行けばよい、とも著者は述べています。
【創造的選択】
例えばラブストーリーの出会いのシーンを描こうという場合、最初に思いついた「男女がシングルズバーで出会う」という案を即採用するのではなく、十、二十とシーンを思い浮かべ、ざっとアイデアを書き出していく。
アイデアが尽きたら、次のように自分に問いかけてみるのだ、と著者は言います。
『構成と設定』に関するこの章の最後も、著者らしい辛口の言葉で締めくくられています。
☆「第2部ストーリーの諸要素 4 構成とジャンル」に続く
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脚本、小説のオンラインコンサルを行っていますので、よろしければ。
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※このブックレビュー全体の目次は以下の通りです。
第1部 脚本家とストーリーの技術
(1)ストーリーの問題
第2部 ストーリーの諸要素
(2)構成の概略
(3)構成と設定
(4)構成とジャンル
(5)構成と登場人物
(6)構成と意味
第3部 ストーリー設計の原則
(7)前半 ストーリーの本質
(7)後半 ストーリーの本質
(8)契機事件
(9)幕の設計
(10)シーンの設計
(11)シーンの分析
(12)編成
(13)重大局面、クライマックス、解決
第4部 脚本の執筆
(14)敵対する力の原則
(15)明瞭化
(16)前半 問題と解決策
(16)後半 問題と解決策
(17)登場人物
(18)ことばの選択
(19)脚本家の創作術
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