ブックレビュー 一色伸幸著『うつから帰ってまいりました』
ベテラン脚本家の一色伸幸さんの著作『うつから帰って参りました』を読みました。
タイトルの通り、ご自身がうつ病と診断されるまでの経緯、そして、そこから「帰って来るまで」の過程が赤裸々に語られています。
うつ病に関する知識を得たいと思い、勉強のつもりで読み始めたのですが、「読み物」として非常に引き込まれ、何度も心を揺さぶられました。
また、一色さんの過去作品の発想の過程や、企画成立までの苦労、制作中の裏話的なことも多く盛り込まれていて、脚本家志望の人が読んでも学ぶところが多いと思います。
人生のA面といえる幸福の数々を諭せば自殺を思いとどまると考える人がいる。難病にかかった人のドキュメンタリーを見せて、命の大切さを教えようとする人もいる。 うつ病患者には、時間の無駄だ。それで死を思いとどまるなら、その”治療”はがんにも心臓病にも有効なはずだ。
ここに書かれているようなことを、当事者でない人は、つい考えてしまいそうですよね。
「体が悪いわけじゃないんだから」
「心の問題なんだし、少し考え方を変えれば解決するのでは?」等々……。
身近な人に対して「早く元気になってほしい」と、もどかしく感じている程、こういった思い込みに捉われてしまいそうな気がします。
さらに、よく耳にする「うつは心の風邪」という言葉に一色さんは異を唱えています。
『うつから帰って参りました』を読んで、多くのメディアの方が取材やインタビューに来てくださった。彼らの家族や友人、あるいはご本人がうつ病に苦しんでいることも少なくなかった。彼らとの対話を経て、最後に書き足しておきたいのは、この一行だけである。
――――うつ病は、心のがん。
僕自身も本書の中で、うつを心の風邪と記述している。誰でもかかる可能性があるという点では風邪と同じだが、風邪は治癒に数年を要さないし、ましてや命を奪うことは滅多にない。
患者自身が、どこかで気持ちの問題だとなめている。この本にも書いたし、多くの専門家も言うように、うつ病は気のせいなどではなく、心の病気でもない。いまだに原因が不明の脳の疾病(ウィルス説を唱える学者さえいる)で、がんと同じように命を奪うことが珍しくない。しかし、時間はかかるけど、正しい対処をすれば普通に戻れる。そのことを患者本人と、それ以上に、ただ気をもむしかない周囲の人に知ってもらいたい……本書を書こうと思った動機は、この一念だった。
この引用部分を読めただけでも、一冊読み切っただけの価値は十分あると思います。
そして、脚本家として一番グッと来たのは、この部分。
僕が妥協をしなかったばかりに、無期延期という名の中止の憂き目を見た映画が、何本か、ある。 二十六歳のときに誕生した頑固でわがままな若造は、丸くなろう、寛容にならなければという努力にもかかわらず、いまだに成長し切れず、いちずな中年になってしまった。融通のきかなさに自分で手こずることもある。それでも僕は、「面白ければいいじゃないですか」 という松土プロデューサーの心意気を、いまも忘れられないでいる。
そもそも、面白くありたくて就いた仕事なのだ。
そう。私にとっても「面白くありたくて就いた仕事」のはず。
最近、ちょっとそのことを忘れかけていたような気がして、ハッとしました。
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