ブックレビュー ロバート・マッキー著『ストーリー』(6)第2部 ストーリーの諸要素 構成と意味
『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』のレビュー第六回を投稿します。
(各回をまとめたマガジンはこちらです。)
※ こちらのレビューは、非常に内容が濃い本書を私なりにまとめた「概要」です。
興味をお持ちになった方は、ご購入の上、本レビューを副読本的にお読みになることをお勧めします。
第2部 ストーリーの諸要素
6 構成と意味
【美的感情】
本章の冒頭で著者のロバート・マッキーは、「ストーリーからでなければ得ることができない」という「美的感情」について解説をしています。
以下、長い引用になりますが、まずはお読みください。
思考と感情が結びついた「美的感情」は、実際の人生からでさえ得ることができない。
なぜ得られないかと言えば、実人生においては、思考と感情の変化のタイミングに”ずれ”が生じて、融合することがないから。
だが、すぐれたストーリーに触れるとき、人の思考と感情は融合し、「経験をした瞬間に意味が生まれる」というわけです。
【前提】【統制概念】
ここでいう「前提」とは、
「もしもサメがビーチリゾートに現れて、休暇を楽しむ人々を襲撃したらどうなるだろう(『ジョーズ』)」
といった問いかけであったり、日常生活内や創作活動中に得たひらめきや直感を指します。
「前提」に関して、著者は以下の点に注意するようにと述べています。
また、著者が「ストーリーの究極の意味」だと述べる「統制概念」については、以下のように定義づけています。
例えば『スピード』や『羊たちの沈黙』の「統制概念」は、
「主人公が粘り強く、すぐれた戦略と勇気の持ち主なので、正義が勝利する」
となる、と著者は述べています。
この例ではストーリーの最後で「プラスの基本概念」(正義)が勝利しますが、反対に「マイナスの対立概念」が勝利するストーリーも存在します。
例えば『セブン』、『チャイナタウン』などの場合で、「統制概念」は、
「敵は圧倒的に無慈悲で狡猾なので、悪が勝利する」
となります。
【基本概念と対立概念】
結末で「プラスの基本概念」と「マイナスの対立概念」のどちらが勝利するにしても、ストーリーの流れの中では、行きつもどりつしながら、優勢を競って戦いが続くことが重要です。
仮に「プラスの基本概念」ばかりを優勢に描くと、ストーリーに真実味がなくなって説教じみてしまい、教訓主義に陥る、と著者は述べています。
【悲観、楽観、そして二面性のアイロニー】
脚本家が生み出すストーリーは、統制概念がプラスかマイナスかによって、次の三つに分類できる、と著者は言います。
楽観的な統制概念
例:
『ハンナとその姉妹』
統制概念「知的幻想に打ち勝って本能に従うとき、人生は愛に満ちたものになる」
『イーストウィックの魔女たち』
統制概念「悪を出し抜いたとき、善が勝利する」
悲観的な統制概念
例:
『ダンス・ウィズ・ア・ストレンジャー』
統制概念「快楽の対象として他人を利用すると、情熱が暴力へと姿を変え、人生を破滅させる」
『チャイナタウン』
統制概念「悪は人間の本質の一部なので、悪が勝利をおさめる」
二面的な統制概念
例:
『アニー・ホール』
統制概念「愛とは喜びと悲しみの両方であり、激しい苦悩とやさしい残酷さをともなうが、それでも人が愛を求めるのは、愛なき人生には意味がないからだ」
【意味と社会】
理屈ではなく、感情を動かす「ストーリー」には、プラトンのような権威ある人物をこれほど恐れさせるほどの力があるのだと著者は述べています。
そして本章の最後では、「芸術家の社会的責任」に関して、次のように述べています。
「このストーリーを自分は心から信じているのか?」をチェックする方法については、以前、私なりの方法をnoteに投稿したことがあります。
よろしければ、参考になさってください。
☆「第3部ストーリー設計の原則 7ストーリーの本質 前半」に続く
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脚本、小説のオンラインコンサルを行っていますので、よろしければ。
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※このブックレビュー全体の目次は以下の通りです。
第1部 脚本家とストーリーの技術
(1)ストーリーの問題
第2部 ストーリーの諸要素
(2)構成の概略
(3)構成と設定
(4)構成とジャンル
(5)構成と登場人物
(6)構成と意味
第3部 ストーリー設計の原則
(7)前半 ストーリーの本質
(7)後半 ストーリーの本質
(8)契機事件
(9)幕の設計
(10)シーンの設計
(11)シーンの分析
(12)編成
(13)重大局面、クライマックス、解決
第4部 脚本の執筆
(14)敵対する力の原則
(15)明瞭化
(16)前半 問題と解決策
(16)後半 問題と解決策
(17)登場人物
(18)ことばの選択
(19)脚本家の創作術
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