インターン彩夏 2023.09.19
TXつくば駅-南流山-武蔵野線-南武線-...
馴染みのない「Ya ho ,Ya ho」の機械アナウンス。
「谷保」の文字に、勝手に「たにほ」かなってルビを振っていたからか、予想外の答えは耳をするっと通り過ぎてどこか遠くにいってしまった。
車内の電光掲示板の文字を見て、初めて「谷保(Yaho)」の文字を認識する。するとはじめましての街が「やっほー」と語りかけてくるようで、なんだか面白おかしくて自然と笑みがこぼれた。
些細なことで笑ってしまう私は、確かにかよさんの言うように笑い上戸なのかもしれない。
みなさんはじめまして。先週の金曜日からインターンに来ています、前田彩夏と申します。生まれは山口県宇部市。大学進学を機にひとり家を飛び出して現在は茨城県つくば市で大学生活を送っています。散歩が好き、チェロを弾くのが好き、絵を描くことも、本も好き。自覚はないけどよく無意識に歌っているらしい。のんびり牧歌的で、晴耕雨読に憧れる、そういう人間です。
あと、鳥が大好き。
インターネットの海を漂っているときに、小鳥書房さんの名前を見つけて興味を惹かれたひとつの理由もここにあります。
だけれど、それはひとつの理由/出会いのきっかけにすぎないのであって、私には少し悩みがあって。大学生になると、必然的にレポートを書く機会が多くなります。授業に出て、ひたすら課題に追われてレポートを書き続ける日々。大学も三年目にもなるとレポートの定型的なスタイルに慣れてしまって、「私」の言葉が、感性がどこかに消えてしまったような感覚に襲われることが多くなりました。言葉を紡ぐのが、怖い。私の言葉は私から溢れて溶け出したものなのに、どうにも私自身に一番馴染んでくれなくて、心に響いてくれない気がして、どうしたらいいのかわからなくなってしまって。
それに加えて、自分の進路に関してもしっかり向き合わねばならない時期にもなってきました。本にかかわる仕事に憧れがあるけど、不安定な気持ちを持ったまま進んでいくことに焦りも感じる。憧れと悩みと不安とさまざまな感情に振り回されながら、何か少しでも掴めるものがあればと思って小鳥書房さんに伺うことを決めたのが初夏のことでした。
ところで、谷保に限らず国立は素敵な街だなと思います。
ひとむかし前を思わせるレトロで小さなお店がひしめき合う街、そこここに音楽や芸術の気配がして、職業関係なく多様な人々の居場所となれるアーケードは一家団欒の温もりに満ちていて、何時も物語が絶えずめぐり続け、新しい出会いを運んでくる街。ここではとてもゆったりとした時間が流れている。唯一すぐにカンカンと点滅する踏切の信号機だけは忙しなくて、電車が一時間に一本あればさいわいな地元との違いを感じて確かにここは東京の一部なんだなと実感させられます。つくばにはそもそもローカル線さえないから踏切もなくて、こういう喧騒は少し新鮮。
そんな街中のダイヤ街の一角にひっそりと佇む小鳥書房さんでは、これまで二日の間お世話になりました。ホームページのオンラインショップにのせる文章を考えたり、お掃除をしたり、棚のレイアウトを変えたり、お客様にコーヒーやアイスをお出ししたり、取材の見学をさせていただいたり…。そういった典型的な仕事だけではなくて、小鳥書房を訪れる常連のお客さんを含め、腰を下ろしてゆったりお話しする機会にも多く恵まれてうれしい限りです。例えば、編集者や作家としての仕事の話、食べ物の話、音楽の話、本屋さんの話、お粥の話、パンの話、生き方の話などなど。
生き方といえば、人生といえば、私は将来どう生きていくのだろうとたびたび不安に思うことがあります。対話を重ねながら、ぐるぐる考えながら、これまで私がどう生きてきたか、これからどう生きていきたいのかを少し考えてみました。私は昔から本や言葉、文学が好きな人間でした。小学生の時分からのその気持ちを引きずって、大学に来てまでも懲りずに古典文学を専攻しているくらいには大好き。それでも、将来何をしたいのと問われても、具体的なことは何もわからない。好きという気持ちだけでは、自分が何をやりたいのか、何に適正があるのかは全くわからない。だけどここに来てたくさんのアドバイスをいただく中で、昔から消えずに残ってきた自分の生きる軸は手放さないほうがいいということ、人生回り道をしながら、多くの経験を積んで徐々にできることを増やしていきながら、それから自分の理想とする生き方に最終的に辿り着ければいいのかなと思えるようになりました。
最初から適正がわかって、なんでもできることなんてない。一年、三年とあがいて苦しんで、漸く自然とこなせるようになるものがほとんどです。楽器経験はないけどクラシック音楽が好きで、大学で思い切って管弦楽団に入団を決めて始めたチェロもそうでした。一年目は何もわからずにただただ苦しくて、チェロが好きという気持ちだけでがむしゃらに努力を続けてきて、三年目になってようやく鳴らし方がわかってきた感覚があって。なんでもよほどの天賦の才がない限り、息を吸うようにものごとをこなすことのできるようになるまでには時間がかかるものですよね。
将来就くであろう仕事においてもきっとそうなのだろうと思います。適正があるかないかを考えるよりまずその界隈に飛び込んでしまって、最終的に自分のものにできた者勝ち。わからなくても、わかるようになればいい。そういう心意気でこれから生きていけたらいいなと考えられるようになっただけでも成長なのかもしれないですね。
小鳥書房さんに来て、実際に本にかかわる仕事に携わる人々の話を聞いて、国立、高円寺、分倍河原の書店をふらふらと巡り歩いてみて、将来本にかかわる仕事に就きたいという気持ちがますます募るようになりました。私の生きる軸というのは今までもこれからも本であって、子供のころから消えずに残ってきたこの気持ちだけは決して手放してはいけないし、手放したくないのだと気づくことができたのは小鳥書房さんの繋いでくれたご縁のおかげだと思います。初日から今日までに私にかかわってくださったすべての方に、ありがとうございました…!
インターンも残すところあと二日となりました。
残された時間の中でどんな出会いが待っているのか、自分の内面がどのように変化していくのか今から楽しみです。
水曜日と木曜日はお店におりますので、気軽に話しかけてくださいますとうれしいです。
どうぞよろしくお願いいたします。
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ほんとうはもっと書きたいことがあったはずなのですが体力が切れてしまったようです。またそのうち機会があれば筆を執りたい、体力さえあれば。
写真は私の影とるりびたき。谷保駅から国立駅へと歩いて向かったインターン三日目の記録。地面に枝葉が影を落としてゆらゆら小刻みに踊っているのを見ると心が安らぎますよね。
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