ハミングバード④【2019~2021】
体育祭と言えば、応援合戦。もとい、踊。
この時期が近づくと昼休みや放課後にダンスの練習が始まる。面倒が前に出つつ何だかんだ真面目さを隠せない私は、友達と練習しに学校の中庭へ行く。おかげさまか、全く関わりのなかった団長や副団長ともそこそこ顔を知り合う関係になった。
話は飛び、文化祭。
中学生時代に規則上経験できなかったイベントがある。後夜祭だ。
有志のパフォーマンスや、学生の主張オマージュなど、高校生をするぞ!という意図を感じる企画が多く並ぶ中、一際目立つイベントが体育館ステージで行う有志バンドだった。
ステージ上に並ぶ楽器たちと期間限定のバンドマン。後夜祭の大トリも有志バンドによるパフォーマンスであった。
………ん?あの顔、見覚えがある。
あれは、団長だ。
団長がマイクを持っていた。バンドなんてやっていたのか。聞いてない。いや、てか、歌が上手すぎる。自分には無い、芯を持った魅力的な歌声だ。いや、聞いてないって。
気分が高揚していたこともあり、めちゃくちゃ痺れた。めちゃくちゃに、憧れた。自分もバンドをしてみたい。あのステージで、歌ってみたい。
そこからはなかなか早く、興味ありげな知り合いを巻き込み、私も有志バンドを結成した。
当時の私はどうしようもなく根暗の陰キャだった。間違って受かってしまった身の丈に合わない学校。周りは自分よりも勉学的に優秀な人しかおらず、特別運動が出来る訳でもなく、特出した一芸がある訳でもない。周りのせいにしたい訳では無いが、そうせざるを得ないほど、自分には何も無かった。
自分の個性とは何か、アイデンティティとは何か、何も掴めずにいた。自分の個性なんてきっと何も無いのだろうと、そう思っていた。
会場を借りて初めてのライブ。自分への自信の無さから同級生に対しほぼ話せに行けなかった私にとって、自分の歌を聴かせるというのはとんでもない事だった。
とはいえこのバンドを組み出したのは自分だ。リーダーも自分。やるしかない。どう見られてもいい。やりたいことを、やりたいように。
人の事は何も考えないと心に誓った私は、震える腕をもうひとつの腕で抑えながら、パッションで乗り切ろうと決めた。
…楽しい。ワクワクが止まらない。あんなに緊張していたのに。気がつけば曲に集中している自分がいた。結局腕の震えなどは全く無くなり、最後までフルスロットルでやり切っていた。
ライブが終わり客席の方へ戻る。
「凄かった…!!」
…え?
「そんなに歌上手いなんて、知らなかった!!」
私たちの周りには多くの人が集まっていた。その輪には、賞賛の雨が降っていた。腑抜けた声が出てしまって恥ずかしい。
そしてふと思う。個性が、見つかった気がする。
有志バンドは、私を救ってくれた。歌うことが、音楽こそが、自分のアイデンティティなのだと、強く思うようになった。
そしてそれは、あの人に対してさらに憧れるきっかけにもなった。
高校2年の秋。母校の卒業生が音楽活動を始めたという噂が流れてきた。名前をSloyd Nodeと言うらしい。
ボーカリストは、例の人だった。
バンドの存在を知ったすぐ後、彼らは1st e.p.『三月、月下、灯籠、光芒』を世に放つ。どうやらコンポーザーはボーカルでは無い人らしい。
身近な人間が音楽を作り世に出すということが人生で一度も無かった故、どのような感じなのか少し緊張までしながら再生ボタンを押した。
…おっと、、、。これは想像以上だ。
こんなに本格的な音楽を作っているのか。正真正銘の公式音源。時には前に、時には後に行き来するピアノがとても好きだ。そして何より、イヤホン越しにあの頃聴いた歌声がいる。
仲間内フィルターも相まって、私はあっという間にSloyd Nodeの虜になった。
そこからはLINE MUSICで様々な音楽を漁りながらSloyd Nodeを追いかける日々。受験勉強が始まっていた中でも、彼らの初ライブとなったアコースティック形態でのライブは絶対に見なければならないと思い、配信チケットを抑え観測した。
通学のお供は彼らの2nd e.p.と共に。サブスクの履歴と再生回数ランキングはSloyd Nodeで埋め尽くされていた。
進化し続ける彼らの音楽を聴き、そして作曲遊びを未だに継続していたこともあり、自分も音楽がしたいという気持ちが高まっていった。大学進学後は音楽を作るんだというモチベ一本で受験を乗り切ることが出来た。
大学進学後も彼らを追い続け、流行病が収まり始めたタイミングでライブにも参戦し始めるようになった。
ライブ会場では私の耳に焼き付いて離れない音楽を創造しているコンポーザーとも直接会う機会を得た。尊敬のベクトルが目に見えるように枝分かれしていく。
私にとって新たな基盤がそのバンドから築き上げられ、ただのファン的立ち位置でしか無いにも関わらず時には可愛がって貰い、誰よりもこのバンドを愛したいと思った。
しかしSloyd Nodeは、2021年の最期の日に解散。致し方ない理由であろうものだった、と思う。変な話、そのような理由で解散するバンドは割と一般的だろう、と感じる。
解散ライブにも勿論足を運んだ。リスペクトを感じる音楽+物語 の伏線回収は、彼が通ってきた音楽の道を間接的に、やや直接的に、見ているような感覚だった。
個性は様々な媒体の集合体により出来上がる、というのはよく聞く話だが、音楽の、特に作曲においてはそれが如実に現れると感じる。
解散。現実味を感じない。彼らの新しい音はもう聴けないのか。もっと、もっと新たな世界を紡いで欲しいと、正直思ってしまった。
入り交じるiをこれからも歌い続けようと、そう誓った大晦日であった。
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