【短編シナリオ】詩杏くんは紫色の方がかっこいいよ
若き天才科学者である女の子が、好きな男の子のために肌の色が紫色になる薬を発明する物語です。
シナリオセンター本科課題「おせっかい」
タイトル:詩杏くんは紫色の方がかっこいいよ
【人物】
斉藤 詩(し)杏(あん)(7)(14)中学2年生男子
西川 久絽夢(くろむ)(7)(14)中学2年生女子
西川 元基(もとき)(39)科学者
子供A(7)
〇西川家・外観(朝)
西川家は団地の裏山にぽつんと建っている。銀色の円盤の形をしている。
〇西川家・実験室(朝)
学校の理科室のように、実験用の器具
や測定器が置いてある。
三角フラスコに入っている紫色の液体
をじっと見つめている西川久絽夢(14)
にやりと笑っている久絽夢。
久絽夢「バレンタインまでに間に合うかな」
元基の声「朝ごはんできたよ、久絽夢」
久絽夢「はーい」
ため息をつく久絽夢。
久絽夢「せっかくいいとこなのに、義務教育はつらいな」
出ていく久絽夢。
〇団地・外観(朝)
公園、中庭、裏山がある集合住宅。
〇斉藤家・玄関・外(朝)
玄関の前で待っている久絽夢。
玄関から出て来る斉藤詩杏(14)
詩杏「いってきまーす」
久絽夢に気付く詩杏。
久絽夢「おはよう、詩杏くん」
詩杏「おはよう」
〇通学路(朝)
歩いてる詩杏と久絽夢。
久絽夢「ねえねえ、詩杏くん」
詩杏「うん」
久絽夢「もうすぐバレンタインだねえ」
詩杏「えーっと、そうだっけ?」
久絽夢「だってもう1月半ばだよ」
詩杏「節分の方が早いよ」
久絽夢「とにかく、楽しみにしててね」
詩杏「え?」
久絽夢「私が、詩杏くんの夢叶えてあげる」
詩杏「どういう…」
不安そうな顔の詩杏。
嬉しそうな顔の久絽夢。
〇西川家・実験室
試験管に入った液体をピペットでシャーレに移す久絽夢。
シャーレの中の試験片が肌色から紫色に変化する。
久絽夢「やった!できた!」
喜ぶ久絽夢。
久絽夢「詩杏くん、喜んでくれるかな…」
うれしそうに笑う久絽夢。
〇西川家・リビング
リビングはSFに出てくる宇宙船のコックピットのようなデザイン。
上機嫌でお茶の準備をしている久絽夢。
テーブルの上にはお皿にきれいに盛り付けられたハート型のクッキーとティーセット、お花。
チャイムが鳴る。
久絽夢「はーい」
〇西川家・玄関・中
入ってくる詩杏。
詩杏を出迎える久絽夢。
久絽夢「いらっしゃい」
詩杏「お…おじゃまします」
久絽夢「お茶の準備できてるから、上がって」
少し恥ずかしそうにしている詩杏。
〇西川家・リビング
座っている詩杏。
テーブルの上のクッキー。
お茶を入れている久絽夢。
詩杏「これ、久絽夢が作ったの?」
久絽夢「そうよ」
詩杏「こういうのも作れるんだ…久絽夢はなんでもできてすごいね」
久絽夢「今日は特別、頑張ったの」
詩杏「え…」
久絽夢「バレンタインだから…」
戸惑う詩杏。
久絽夢「食べてみて」
詩杏「う、うん…」
クッキーを食べる詩杏。
詩杏の体がみるみる紫色に変化する。
その様子を食い入るように見ている久絽夢。
驚く詩杏。
詩杏「え?え?どういう…」
久絽夢「やった!」
詩杏「え?」
久絽夢「思った通り、詩杏くんは紫色の方が
ずっとかっこいいよ」
詩杏「どういうこと?説明してよ」
久絽夢「皮膚の中にあるメラニン色素を紫色の色素、アントシアニンに置換する試薬を開発したの。全部自然素材で作ってるから安心してね」
詩杏「そういうことじゃなくて」
久絽夢「私、ずっと思ってたの。詩杏くんにはいつかきっと恩返しするんだって…」
詩杏「恩返し…え?これが…」
自分の体を見る詩杏。
久絽夢「そう、詩杏くんが初めてこの家に来たあの時から…」
〇(回想)団地の敷地内の公園(夕)
砂場でひとりで遊んでいる久絽夢(7)。
みるみるうちに砂の宮殿が出来上がる。
同じ年頃の子供数人とボール遊びをしている詩杏(7)。
ボールが久絽夢がいる砂場の方に転がっていく。
ボールを追いかける詩杏と子供A。
ボールに気付き、砂の宮殿を守るため
ボールを蹴り飛ばす久絽夢。
子供A「ああ」
ボールを目で追う詩杏。
子供A「何すんだよ、お前」
子供Aを蔑んだ目で見る久絽夢。
子供A「なんだよ、お前、団地の子供じゃな
いだろ。知ってんだよ。裏山の変な家住ん
でんの」
ため息をつく久絽夢。
久絽夢「だったら何?」
子供Aをにらむ久絽夢。
子供A「…行こうぜ」
詩杏「う…うん」
引き続き砂遊びをしている久絽夢。
子供Aを追って歩き出そうとするが、
途中で立ち止まり、振り返って久絽夢
をじっと見つめる詩杏。
〇(回想)通学路(夕)
ランドセルを背負ってひとりで歩いている久絽夢。
後ろから歩いてくる詩杏。
久絽夢に気付く詩杏。
小走りで久絽夢を追いかける詩杏。
詩杏「あ、あの…」
振り返る久絽夢
〇(回想)西川家・外観(夕)
〇(回想)西川家・玄関・外(夕)
キラキラした目で西川家を見ている
詩杏。
その様子を嬉しそうに見ている久絽夢。
詩杏「うわあ…かっこいいね」
久絽夢「お父さんの趣味なの。この変な家の
せいで私まで変人扱い」
詩杏「全然変じゃないよ。すごくかっこいい」
久絽夢「本当にそう思う?」
詩杏「うん!」
恥ずかしそうに微笑む久絽夢。
〇(回想)西川家・リビング(夕)
入ってくる詩杏と久絽夢。
詩杏「中もかっこいいね!宇宙船みたい」
久絽夢「私と同じ年頃の子がここに来るの、あなたが初めてなの」
紫色の魔人のキャラクターがディスプレイされているのを見つける詩杏。
詩杏「あ、オッペケ大魔王だ!」
久絽夢「好きなの?」
詩杏「うん!悪役だけど筋が通っててかっこ
いいよね。僕もいつかオッペケ大魔王みた
いになりたいなあ…」
久絽夢「オッペケ大魔王みたいに…」
無邪気にはしゃいでいる詩杏。
鋭い眼光の久絽夢。
〇元の西川家・リビング
唖然としている詩杏。
久絽夢「あれから7年の歳月をかけて、詩杏くんを紫色にすべく試行錯誤を重ね、ようやく開発に成功したの」
詩杏「いや、僕紫色になりたいとは一言も」
久絽夢「え?」
詩杏「オッペケ大魔王みたいになりたいとは言ったかもしれないけど、紫色の体になりたいとは言ってないよ」
久絽夢「そうなの?」
詩杏「そうなの?じゃないよ!普通わかるでしょ」
久絽夢「ごめん…」
詩杏「これ、戻るんだよね…」
久絽夢「え?」
笑顔の久絽夢。
詩杏「まさか…」
久絽夢「世界人権宣言第2条、すべての人は皮膚の色によるいかなる差別を受けることなくすべての権利と自由とを享有することができる」
詩杏「ごまかさないで」
久絽夢「大丈夫、詩杏くんは紫色の方がずっとかっこいいよ。」
あきれ顔の詩杏と笑顔の久絽夢。
おしまい
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