ゲーム「バルダーズゲート3(1章)」感想
年末年始の休みを使って、バルダーズゲート3をチマチマ進めている。ながらプレイを決してゆるさないゲーム性なので、かなりの覚悟を持って起動する必要があり、まだ20時間ほどしかプレイできていないが、のちに来る者たちのためにここまでーーおそらく、1章の終盤あたりーーの所感を残そうと思う。本作は最大のウリとして「高い自由度」をうたっているが、確かにサブシナリオの解決方法に関してNPCの生死へまでおよぶ選択肢が多岐にわたって用意されているものの、メインストーリー部分については基本的に決められた一本道を進んでいく。キャラクリの幅は近年に発売された他のゲームと比べてずっと狭く、冒険の仲間は容姿や性格から出自や背景にいたるまでガチガチに決まっていて、変更の余地はまったくない。またレベル上限は12と低く、獲得できる経験値総量はあらかじめ決まっており、手に入る装備品にもランダム要素はいっさいない。つまり、レベリングやトレハンは必要ないどころか、そもそもできない仕組みになっているのである。もし数々の宣伝文句から、ウィザードリィのような「自由度の高さ」を想像しているなら、バルダーズゲート3は完全にそれとは異なった中身だと言わざるをえない。私も当初は、D&Dのルールが敷かれた「オープンワールド・ウィザードリィ」的なものを期待していたため、かなりの肩すかしをくらうこととなった。本作では、すべての行動の成否を20面ダイスを振るーー戦闘は自動、イベントは手動ーーことで決定するのだが、あらゆる瞬間にクイックセーブができるため、プレイヤーの意志で「判定が成功するまでリセット」するファミコン版ウィザードリィ的なプレイも禁じられておらず、エリクサー症候群を患ったJRPGの徒にとっては、かなり神経を削られる作りになっていると言える。さらに、ゲーム全体がⅮ&Ⅾのルールをある程度まで把握していることと、世界観や用語の理解を前提として進行していくため、20時間を経過した現在でさえ、チュートリアル部分を抜けられたような気がしない(じっさい、戦闘以外の場面でリングコマンドを使って周囲の環境に干渉できるとわかるのにも、かなりの時間がかかった)。
余談として、トンネルズ&トロールズ勢からダンジョンズ&ドラゴンズ勢への印象を述べておくならば、インターネットの存在しない時代にアルコールの飲めない田舎ぐらしの陰キャどもが、週末に酒場へ集まってジョッキ片手に下ネタで笑いあう陽キャ連中を尻目に、寂しさから共通の話題もないまま自宅の地下へ集まるためのコミュニケーション・ツールとして発展したような印象を持っている(とても失礼)。ご多分にもれず、私も様々なゲームアワードを総ナメにしたことで本作を知った「みいちゃんはあちゃん」のひとりであるが、バルダーズゲート3がエルデンリングやティアキンをはるかに凌駕するゲームかと問われれば、まったくそんなことはないと断言しておく(補足として、ファイナルファンタジー16は圧倒的に、絶対的に、完膚なきまでに凌駕されている)。海外でのほぼ手放しに近い絶賛と受賞の数々は、エブエブがアカデミー賞で7冠を得たのと真逆の理由からであり、それは言葉にするならば、「バーに入れない臆病な下戸の陰キャによるコミュ補助ツールであるⅮ&Ⅾは、こんなにもすばらしいんだぜ! 黒人も女性も陽キャもアル中も、オレたち弱者白人男性の療養を目的とした箱庭で、せいぜい楽しんでくれよな!」といった具合の、出ッ歯メガネが小鼻をふくらませた満面の誇らしさなのである。
いくつか難点を挙げておくと、ユー・アイ(友愛)は直感的な使いやすさになっておらず、理系ギークが理詰めで「論理的な正しさ」を優先して作っているーー「カバンを触る人間を確定した後、対象の触るカバンを選ぶ」に見られるプログラミング様の手順ーー感じで少々、いや、かなりイライラさせられる。油断すると装備品はすぐ行方不明になるし、野営地で所持品の整理をする作業が、プレイ時間の何パーセントかを確実に占めているのは間違いない。G.O.T.Y.受賞を理由として本作に興味を持った、ホヨバ愛好の美少女好きユーザーへ向けたアドバイスとしては、「場をつねにギスギスさせるギスアン鬼」a.k.a"レイゼル"で画像検索し、まずそのご尊顔をおがむとよろしい。このスキニー鼻フックこそが、本作のメインヒロインのひとりなのだ(!)。彼女の容姿を豪放に受けとめて、チクチク言葉を磊落に笑いとばす真の漢(おとこ)だけが、このゲームを楽しむ資格を持つと言えるだろう。なぜなら、このギスアン鬼とは遠からぬ将来、必ずギシアンーーいにしえのネットスラングで、セックスの意ーーをいたすハメになるからだ(!)。ことほど左様に、登場キャラクターからストーリー展開の隅々にいたるまで、例えばベジマイトのような各地域の内側でのみ重宝される、決して世界には広がらない理由を持つ調味料で整えられた個性きわまる味つけで、それを乗り越えられた者だけが、「この臭みがクセになって」楽しめる作品なのである。
なに、原神や崩スタ好きの萌えコションである小鳥猊下とも思えない発言ですね、だと? バカモノ! 初代バルダーズゲートを序盤で断念し、ドラゴンエイジ:オリジンズの生々しいホモセクシャル・インターコースにえづいた経験のある古強者にとって、苦手な食材など存在せぬわ! そうは言いながら、男主人公とアスタリオンとのロマンスにはまったく背筋をゾミゾミさせられましたが、さすがエル・ジー・ビー・ティー・キューの当事者たちに「私たちの性愛を自然に、真正面から描いている」とまで言わせるだけはあるなーと、異文化交流にも似た感慨を得たことはお伝えしておきます。
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