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あいの言葉

そして桜の季節。
 ダンナ君の不在にはすっかり慣れてきた。

青い空と桜。

今年は不安のモヤに邪魔される事なくそれを見上げる事ができている。

日差しが暖かくなって、気持ちが軽くなって。


それでもダンナ君が旅立った後の肉体の、どこまでも深く、深く冷たい感触はまだ手に残っている。

自分の体温が受け止められる事なく闇に吸い込まれていくような感覚。

遡ってその向こうの生きた温もりを思い出そうとすると、今度はキュッとなる。



ダンナ君は照れくさいせいで大事な事を全く言わない。
 プロポーズさえされていない。
言葉に出して言わなくても汲み取って欲しいという甘えのある困ったタイプだ。

『あと1日、2日の事』と宣告された後、病室に戻って「言い残した事はないか」と尋ねたら、いつものように「…オレンジジュース」とチョケる余裕を見せるのに。

愛してるで、という私の言葉には返事をしようとモゴモゴと口を動かしていたが結局言葉にはならなかった。

それを見てあまりにらしくて苦笑した。



そして今。

ダンナ君が治療の先行きがかなり暗くなってきた時、幾度となく私に伝えていた事がある。

すぐにとは言いにくいけど、と前置きして。


「自分がいなくなったらいずれは次の人を見つけて欲しい」


そう言われるたびに「そんな無責任な、色んな意味でそんな簡単にはいかないよ…」と力が抜けたような、憤ったような気持ちになっていた。



けど、最近になって気づいた。


これがダンナ君の最大の愛の言葉だったんだ。




…それでもまあやっぱり厳しいと思っている。 
未亡人になるには早いけど、もう若くない。
それに一回結婚するのだってあんなに大変だったんだから。

てかそれよりプロポーズはして欲しかったな。(笑)

無理な場合は約束通り然るべき時に迎えに来てね。

もうちょっとこっちでゆっくりするけど。。





















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