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結婚してもママになってもアイドルを続けた推しの話。

2019年9月18日。わたしの推し・でんぱ組.incの古川未鈴が結婚を発表した。

あれからもう5年も経つことに驚きを禁じ得ないが、良いタイミングなのでこれを機に振り返っておこうと思う。


●発表の日


あの日はZepp DiverCity で2日連続のライブがあった。

9月18日(水)
UHHA! YAAA!! TOUR!!! 2019 SPECIAL ~If you want to be happy, be
9月19日(木)
UHHA! YAAA!! TOUR!!! 2019 SPECIAL ~One for all, All for fans~

2days、そしてど平日。
ヲタ活のために仕事は休まない事をモットーとしているわたしは、両日は厳しい、行くなら未鈴ちゃんの誕生日当日である19日にしようと心に決めた。
まさかこんな重要な発表を誕生日前日にするとは露程も思わず....。

仕事が終わってTwitterを見ると、ざわめくヲタクツイートと共に本人のツイートが流れてきた。


嬉しくて泣くかと思った。
実際少し泣いた。いつもよりかなり丁寧な文字を見てまたウルッとした。
自分のことのように嬉しかった。

次の日現場に行ったら他推しのヲタクに「(推しの)結婚おめでとう!!」と言われた。ありがとう...!??と返しつつ、自分が結婚してもいないのにこんな経験をするヲタクもそうそういないだろうと思った。

当時のわたしはこう言っているが、当然全てのヲタクが心の底から笑顔でおめでとうを言えていたわけではないのが現実だ。まぁヲタクにも色々ある。とはいえ、ヲタクも大体はいい大人なので真っ向から否定するような言葉を投げかける人はいなかった(はず)。リアルタイムで現地にいなかったのでなんとも..だが、少なくともSNS上では大きく荒れているヲタクの方が稀だった。とりわけ女ヲタに限定すれば全員と言って良いほど肯定的だった。相手が相手ということもあっただろう。漫画家という尊敬できる職業、しかもそれである程度売れている、となればヲタクも納得せざるを得ない部分もあった。

このタイミングで発表された曲がある。結婚発表の直後に歌ったその曲「私のことを愛してくれた沢山の人達へ」はでんぱ組.incのアルバム「愛が地球救うんさ!だってでんぱ組.incはファミリーでしょ!」に収録されているが、どう考えても100%古川未鈴のために作られた曲である。1番は古川未鈴ソロで、2番から他のメンバーも加わってユニゾンで歌う形になる。ここまで個人にフューチャーされたでんぱ組.incの楽曲は珍しく、プロデュース側からの、製作陣からの、そしてメンバーからの愛を感じた。手紙のような素直な歌詞が心に響く作詞作曲:清竜人の楽曲は、この先何度か未鈴ちゃんの生誕等ここぞというタイミングでで歌われているが、何度聞いてもウルッとしてしまう。

「私のことを愛してくれた沢山の人達へ」
まさに未鈴ちゃんの心境をそのまま歌にしたような曲。


●アイドルを推すということ

アイドルを推すということは子どもを育てることに少しだけ似ている気がする。

同じ夢を追いかける。共に成長する。成功を喜んで、失敗を悲しむ。その人の人生そのものを応援する。

全てのアイドルがこうではないとは思う。たとえば韓国系のアイドルなどは直接会える機会もかなりレアで、物理的にも心理的にも距離が遠く、まさに偶像としてのアイドルのイメージが強い。
が、日本の多くのアイドルは多少なりとも直接会うことができ、SNSなどでも頻繁に生存確認ができる。

個人的に、推しを選ぶときのポイントは「憧れ」と「共通点」だと思っている。

古川未鈴の場合は「きらめき」と「危うさ」だった。

ステージで歌って踊る彼女は、いつだってキラキラしていた。可愛くてカッコよくて、美しくて儚かった。アイドルであることに対して意識が高く、意志が強く、夢を諦めないところに憧れた。

SNSで見た彼女は、どこにでもいる普通のゲームヲタクな女の子だった。それどころか生活は不規則だし、料理はポンコツだし、ネガティブ。喋ると急に自信がなさそうでボソボソ早口になる。

なんとなく、放っておけないなと思った。
どこか自分と重なるところを感じた。

いじられキャラからいじめっぽくなっちゃったのも同じ。
いじめてきたヤツを見返してやる!って思いも同じ。

「アイドル辞めたらやることない」「30歳過ぎたら死ぬ」「他人にあんまり興味ない」「話し合いとかしたくない」

そういう彼女の思いを心の底から「わかるよ」と思いつつ、そのままでいて欲しくないと思った。

だってわたしもそうだから。

彼女を応援することで、自分も応援していた。

「一緒に頑張ろうね」が口癖だった。

そんな彼女が、結婚する、という選択をした。

●結婚するという選択肢

それは、アイドル以外の自分の将来にも目を向けられるようになったからに他ならない。

いじめて来た奴を見返すために憧れのアイドルになりたい、その一心で突き進んできた彼女。アイドルとして、でんぱ組.incとして売れる以外のことには興味がなくて、無愛想で、自分のことで精一杯で、今を全力で生きていた彼女が、でんぱ組.incとして活動する中で色々な環境や人間関係を経て、純粋な自分個人の遠い未来に目を向けて、誰かと人生を歩むことを望むまでになった。その事実に感動した。人間として変化したんだと思った。

この時既にでんぱ組.incを卒業していたねむさんのツイート。わたしも同じ気持ちだよ.…

アイドルは一生続けられる職業になり得るかもしれない、でも、世間一般的に死ぬまで続けらる職業ではないし、安定した職種でないことは確かだ。この先10年後20年後は、未鈴ちゃんの人生は大丈夫かな...不安.....そんな思いがぼんやりとあったわたしがホッとしたというのも事実だ。

【追記】
今思えば、実質でんぱ組.incが活動を休止していた2017、ぽっかりと時間ができた彼女はその間色々考え、思うところがあり、そして事が進んだのだろう。そう思うとあの時間も必要だったのかもしれないと前向きに捉えられる。2016年の8月8日に「Ψです I LIKE YOU」で初めてアニメ「斉木楠雄のΨ難」のEDを担当し、その後11月2日にリリースされた「最Ψ最好調!」はOPに、活動休止からの再始動して2ヶ月後の2017年1月30日に配信開始した「Ψ発見伝!」は2期のEDとなっており、でんぱ組.incとしても麻生先生に見守ってもらえていたように感じる。

結婚発表後、わりとすぐに生誕イベントがあった。そこで「結婚という人生において大きな選択の、最もたる理由、決め手が知りたいです。」という質問に対して、「いつか子どもを産むことも考えていて...」というようなことを答えてくれた。いつかそんな日が来るのかな、でも、それでもアイドルを続けてくれるんだろうと、その時は思った。これまでのインタビューでもそう書いていたし、やっぱり彼女にとってアイドルは永遠の憧れだと思ったから。

その希望通り
2021年1月5日第一子を授かっていることをInstagramにて報告。そして7月14日に無事出産。

なんだかもう親戚のおばさんのような気分だった。母子無事なことが何よりホッとしたし、例えようのない幸せな気持ちだった。

●理想と現実

とはいえ、結婚後、出産後と、アイドルを続けることについては本人もかなり悩んでいた様子。また復帰までも順当ではなかった。重いつわり、気持ちについてこない体、慣れない育児、初めての経験に先が読めず不安でいっぱいだっただろうと思うと胸が締め付けられる。口で言うことはできてもそれを実行しようとすることは誰しもができることではない。人それぞれ体質や体調もあるし、意志の強さだけでどうにかできるモノでもない。

産後イベントで会った未鈴ちゃんを見て、わたしなどは以前より少しふっくらした...のか...?くらいにしか思わなかったのだが、本人としてはこれまでにない体型の変化が許せなかったらしく元の状態に戻すまでかなり苦労した、と話し涙することもあった。しかし産後2年後の生誕イベントでは見事に身体を整えグラビアカレンダーを出している。美容医療に頼ったとはいえ、それも決して楽なことではない(脂肪吸引は相当高いし痛い)。

イベントにはわりとすぐ出られるようになったものの、ステージにいつから復帰するのかは、明言しなかった。過度に期待させるのも悪いと思っていたのだろうし、実際自分の心と身体の変化を読めなかったのだろう。ヲタクとしてはただ彼女の回復と選択を待つことしかできなかった。期待はしないようにしていた。でも、彼女のアイドルに対する並々ならぬ想いも信じていた。

実際、本格的にステージに戻って来たのは出産から1年3ヶ月経った2022年10月16日(日)の「全国ツアー2022 電電電電電電電電電!!!!!!!!!+でんでん!! in 日比谷野外音楽堂」だった。全曲完全参加ではなく、歌のみだったり参加しない曲もあったが、それでも「ステージで」また推しが見られるということが心底嬉しかった。だってやっぱり、ステージ上の歌って踊る古川未鈴が1番輝いていると思うから。

●アイドルとして、母として、

推しが、アイドルという肩書きに加えて母となったことで、わたしの心持ちは少し変わった。

女性として、わたしにはできない決断をして、わたしにはできない経験を乗り越えて来た、その重み。

でも、それだけじゃない。

子どもを育てるということは、人生の主軸がもう一つできるということだ。自分と同じくらい、いやそれ以上に大事なもののために生きる人生になる。

それを選ぶ、選べるレベルに達しているということは、ある程度自分の人生に満足しているとではないか。

そう思うと、安堵と同時に「応援」より「尊敬」の気持ちの割合が増えた。ヲタクとしてやりきった感、にも近いものもあった。(何もやっていないが)

人間は生まれた瞬間から死ぬまで誰かの子どもではあるものの、親になるということは自ら選択をしなければ持つことのない肩書きだ。間違いなく人を育てることで人はさらに成長するし、親にならなければ経験し得ない喜びや感動がある。しかし様々な責任やリスクが付き纏うが故に、現代では選択出来ない人間が多いことも事実だ。自信のなさや、幼さや、経済力や、その他諸々の理由で。

そういう現代において、夢と未来のある選択ができた彼女の心境の変化と環境を素直に嬉しく思った。生きがいは多いに越したことはない。アイドル以外の生きがいにも気づけたこと、手に入れられたこと、それがヲタクとして幸せだと思った。

●でんぱ組.incという家族の中での変化

人は日々変化する。
でんぱ組.incとして活動する中でメンバーそれぞれが良い方向に変化していったが、例に漏れず古川未鈴もその1人だった。

自分が体感した点としては、イベントでのヲタクとのやりとりだ。自分を含め、周りのヲタクとも、結婚発表前あたりから「なんか柔らかくなったよね」というような話をしたことを覚えている。表情もだし、空気というか、言葉の選び方もそう。あれ、なんか変わったなと感じた。

結婚し、産休に入り、交友関係の広がりも感じた。友達と遊ぶ様子をツイートする未鈴ちゃんを見て「あの未鈴ちゃんがお友達とごはんに...!」などと感動したことを覚えている。インタビューでも「自分から声をかけて友達と遊んだり、悩みを相談したりするようになった」「人に優しくしないと自分に優しくされないし、人を思いやらないと自分に向けられる思いやりっていうのも気づきにくいものかなと思って」と話しており(でんぱ組.inc ぴあ 個人インタビューより)、心境の変化ににジーンとしたことを記憶している。

メンバーとの関係性も年々変わって行った。これはメンバーチェンジによるものも大きいのだろうが、後輩である根元凪・鹿目凛が加入した後、そしてその後10人体制になるにあたって5人が加入した後、それぞれでメンバー間での立ち位置が変わっている。夢眠ねむというでんぱ組.incの母的存在がいなくなったことも、変わるきっかけとなっただろう。6人時代はねむさんやりさちーに気遣われる様子が多く見られた未鈴ちゃんが、新メンバーを先輩として気遣う一面や、暖かくフォローする姿が見られるようになった。明らかにメンバー同士の距離が近くなったし、自撮りの頻度が増えたり、ふざけ合っていたり、そういうヲタクからはチラッとしか見えない部分でも変化があって、微笑ましかった。インタビュー等で「でんぱ組.incは『戦友』から『家族』になった」と表現されているがまさにその通りだと思う。アイドル界で生き残るために、もっと高みを目指すために戦おう!という関係から、お互い支え合い、一緒に活動しでんぱ組.incを表現することを楽しむ、そんな関係にシフトチェンジして行った気がする。産休を経て復帰したことも大きいのだろう。頼ることが苦手な未鈴ちゃんが、メンバーに頼らざるを得なくて、でもそれを受け止めてもらえて、その中で少しずつ、人の優しさに優しさを返そうという想いが芽生えたというか、人間らしくなった。人を信用してもいいと思えるようになったのかもしれない。

エンディングが決まってから、「みんなでたくさん話し合って」「それぞれ自分の意見を言って」というワードを多く目にするようになった。その中で、意見が一致しなかったり上手く言葉に出来なかったりたくさん泣いたこともあっただろう。それでも、そうやって本音で話し合ってみんなが納得する形ででんぱ組.incの未来を決断できたのはきっと、今の家族みたいなでんぱ組.incになれたからじゃないかな、と思ったりする。

エンディングツアーの最終日のVLOGで、みんなで打ち上げをする中で楽しそうに人狼ゲームをする未鈴ちゃんの姿があった。そんなたわいもないことでなんだかウルッとしてしまった。でんぱ組.incは6人時代の時からメンバー同士プライベートで遊んだり打ち上げをしたりしないグループだった。別に仲が悪いわけではなく、いい意味でそういうドライな関係性だったからだ。それが今、打ち上げをするだけでなくみんなで遊ぶなんて。最後の最後でこう言う姿を見られたのはかなり感慨深かった。

●エンディングのその先へ

最近のでんぱ組.inc全員でのインタビューに(最後に加入したメンバー達に対して)「武道館に連れて行ってあげられなくてごめんね」という言葉があった。(IDOL&READ 039)いつしか彼女にとって、武道館は自ら目指す場所から連れて行ってあげる場所へ変化していたのだという事実に、16年の歴史を感じた。

ここまで語っておいて何だが、わたしは自分をヲタク的要素が薄い人間だと思っている。好きなことは沢山あるが、どれもものすごくのめり込む事はない。熱しやすく冷めやすい。そんなわたしが1人のアイドルを応援し続けられたのは、間違いなく彼女自身の魅力とでんぱ組.incのプロデュース面のおかげだと思っている。好きでい続けたわけではない。何度も好きになったのだ。

10年近く古川未鈴というアイドルを応援していて、人って変われるんだ、と思った瞬間が何度かあった。別にそれはわたしがどうこうしたから変わったわけではない。彼女は彼女の人生を歩む中で変わって、成長して行っただけだ。けれどそれを身を持って感じ取れたことは幸せだったし、人生を共に歩めたような気がして、かけがえのない時間だったと思う。

でんぱ組.incはエンディングを迎え、この先古川未鈴がどんな選択をしていくのか、きっとまだ誰にもわからない。でも、でんぱ組.incとして過ごした時間が今の彼女を形作っているし、それはわたしたちヲタクも同じだろう。でんぱ組.incとして生きた時間が消えることはないし、この先何年生きたとしても変わらない事実だ。

「ねぇ知ってる?かつて秋葉原に、伝説のアイドルグループがいたんだって。」


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