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刺青のこと


足の甲の刺青はまぁまぁ痛かった

自分の数少ない趣味のひとつに刺青がある。
生きてて人に否定されることが多いしめんどくさいことをわざわざしている。
健全なメンタルなら手を出さないかもしれない。
ただ、別に病んでるから刺青が好きなわけでもない。単に楽しいし面白い。美しいなと思う。中学生くらいでファッション誌や音楽雑誌で刺青を見て、私も大人になったらやるだろうと直感的に思った。

そして18歳でその気持ちが変わらなかったので実行した。
今思えば18歳が大人とは思わないけど、高校を卒業して、働き始め、自分の人生の舵を握れたと思った年齢なので当時はやっと大人になったと思った。

見た目がぼんやりしてそうに見えるのか刺青がチラッとしたら初対面なのに長々と説教されたこともある。
弱そうに見えると勢いよく説教始める人っているんだなぁと思う。最近は歳をとったせいかそういう人も現れなくなったので気が楽になった。
あとたまにいるのは『どう見てもシールじゃんー!本物ってこういう色じゃないからね!?』と親切に解説してくれる人。
あ、そうなんですねー!と答えてにこにこしてしまう。世の中いろんな人がいて面白い。そしてやはりこの趣味は受け入れられないものだなぁ、とひしひしと感じる。

私的に印象的だったのはお風呂屋さんでのやりとり。
基本的に温泉などは貸切家族風呂しか入らないようにしている。が、多分何かの事情で大浴場を利用することになった。
周りの方も不安に思うだろうからささっと体を流して素早く湯船であたたまり、なるべく早くお風呂を終わらせたいと私は思ったはずだ。
刺青が禁止されてないお風呂でも、やはり視線は厳しい。私はそれがとてもつらいので1秒でも早くその場から消えたいという気持ちになる。

そんなお風呂タイムに田舎の上品で優しそうな知らないおばあちゃんと遭遇した。
『あらー、凄いねぇ?本物?…すごく色が綺麗だこと〜〜!あらまぁ〜!』
『死ぬ前に綺麗なもん見れてよかった〜!』と、穏やかな会話をした後、私の背中に手を合わせてきたのである。人生の大先輩だろう彼女に拝まれるのは不思議な気持ちである。びっくりして笑ってしまった。
人に見せる為に刺青してるわけではないのだけど、単純に綺麗だねと褒められるとうれしい。
私も綺麗な自分の体が好きなので。うれしい言葉をいただけるとお好きなだけ見てくださいまし〜と思う。

おばあちゃん、きっと刺青に無縁の人生だったのだろう。びっくりした後の理解の速さが超人だ。初めて見るものを否定せず受け入れてさらに相手に曇りない言葉でまっすぐに感想を伝える、というのはなかなか難しい。ネガティヴなイメージが付き纏ってるものは尚更ではないだろうか。

お風呂で知らないおばあちゃんに裸を拝まれるのはシュールではあるが、思い出すといつも私の気持ちをほっこりさせてくれる。

そして未知なるものを受け入れる頭の柔らかさを何歳になっても持ち合わせていたいなと思う。

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