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仲介(ちゅうかい)うさぎ 2話
ボクは 仲介(ちゅうかい)うさぎのスイ。
みんなからは すーさん と呼ばれている。
今日は どんよりと曇り空が続いていた。
今は もう夜が更けて 村も静かだ。
ボクはというと 手紙を読んでいたが もうこんな時間か といったところ。
そろそろ眠りにつこうか。そんな時。
ボクの家の屋根から 小さい泣き声。はて。
窓を開けて ふと空を見ると 1日曇っていたのが嘘のように雲ひとつない。綺麗な夜空だった。
『綺麗な夜空だねぇ』
「…うん」
震えた声。それはそれは小さな。
返事は聞こえたが 降りてくる様子はない。
姿を見られたくないのだろうか。
『今日は 1日あんなに曇っていたのにね』
「…そうね」
眠りを誘うような優しい声。
小さいけどはっきりと聞こえた返事。
『手紙を読んでいたらこんな時間になってしまったよ』
「手紙…?」
『そう。ずっとしまっておいて たまにこうして読み返しているのさ』
"最近あったことを教えてくれる手紙。
ボクを気にかける手紙。お礼の手紙。
ボクの部屋にある収納棚に 全てしまっている。たまにひとつひとつ出しているんだ。手紙を読まなくとも 送り主の名前を見て 思い出を整理するんだ。"
「思い出…?しまっておいたら忘れちゃうの?」
『いやいや、忘れやしないさ。でも 送り主の名前や 手紙を読んだりすると みんなもボクを忘れないでいてくれる気がしてね』
「スーさんを みんな忘れないよ。優しくて みんなを仲直りさせるのが上手だもん」
『おや、それはそれは ありがとう』
こうして わかったこと。
優しくボクを褒めてくれるこの子は 少し疲れているようで。どこかで泣いてから ここにきてまた 泣いていたんだろう。それと 寂しそうだ。
『でも そう思ってくれてるキミがいるから ボクもこうして毎日幸せに暮らせているんだよ』
「そうなの?」
『そう。キミも ボクに優しい。そんなキミが優しく言葉をかけてくれるから ボクもキミを心から信じることができる。こんな幸せなことはないよ?』
そんな話をしながら 紅茶でも淹れようかと ふと夜空から目を離した。ボクの家に招き入れて"思い切り 夜更かしをしようか"と伝える準備をしようと思ったから。
手紙を読んでいて ボクの耳でも翼の音が聞こえなかった。泣き虫な幼い声。寂しがり屋さん。きっとこの子は 川をひとつ挟んだ向こう側に住む フクロウのニーナだろう。
「眠くなってきちゃった」
『おや、紅茶でもどうかなと思ったんだけれど…また 今度来るかい?』
「うん。またここでお話したいわ」
『大歓迎だよ。』
「…ありがとう」
その一言を残して ふわっと空気が動いた。
家に帰ろうと 飛び立ったのだろう。話をするため またここに来てくれるだろうか。
窓をそっとしめようと手をかけると 屋根から何かがふわりと落ちてきた。落とさないようにパッと拾うと ふわふわで茅色の羽。
『姿を見られたくないなら 落としものをしてはいけないよ』
ニーナの可愛らしい一面を知った。
そんな 夜空が綺麗な日。
おしまい。