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「鈴木麻衣 箏リサイタル」

鈴木さんの演奏は、何より音が、美しい。
一音一音、すべての音がキラキラ輝く光の粒のように、会場を満たしてくれます。
プログラムは、箏(十三絃箏)で、古典曲と現代曲。二十五絃箏で、新作を含めた2曲。
4曲すべてがソロ演奏で、その美しい音を、存分に味わうことができました。
 
演奏はもちろん、設営も照明も、随所に鈴木さんの細やかな心配りが感じられました。
古典曲にしても現代曲にしても、その曲調は今、巷で聞かれているポップスのような曲からは、かけ離れています。
耳慣れないと、面白さがなかなか伝わらない。
それを、「いい曲だから聞いてね」と聴き手に押しつけるのではなく、「こんな感じで面白い曲なんだけど、聴いてみてくれるかな?」とでも言うかのように、提示してくださいました。
とてもわかりやすくて聴きやすくて楽しくて、面白かったです。
同時に、聴き手に対するおもてなし感が、とても温かく嬉しかったです。
客席に「業界の」方々はたくさんいらしたのですが、こんな演奏こそ、お箏のコンサートにあまりご縁のない方々に、ぜひ聴いてもらいたかったなあとつくづく思いました。
 
「秋風の曲」
座奏(正座しての演奏)でした。
ソロでの座奏の場合、舞台に毛氈が敷かれて、そこで演奏されることがほとんどだと思います。
今回は、舞台上にかなり高い台を設置して、演奏されました。
1メートルくらいの高さでしょうか?
おかげで、客席どの位置からも、演奏を拝見することができます。
しかも、音が高い位置から発せられるので、会場全体に響き渡って、体中が曲の世界に包みこまれるようでした。
曲は玄宗皇帝と楊貴妃の美しくも哀しいドラマです。
曲の進行と共に、照明が静かに変化していきます。
歌も、歌うように語るように、言葉の強弱、リズムが繊細に移り変わり、とても引き込まれました。
 
「手事四綴」
お箏はその長い歴史の中で、様々な曲が作られてきました。
歌が入ることが多いのですが、歌と歌の間の間奏部分は、楽器のみの演奏で「手事(てごと)」と呼ばれます。
この「手事」は様々な技巧が凝らされ、当時の人々が競うように奏法を編み出して楽しんでいたのかなあと思います。
この曲は、そんな「先人達の言づてを一言漏らさず聞き取りたいという思いで書いた。」との肥後一郎さんのお言葉です。
古典的な奏法がちりばめられた曲のようですが、鈴木さんが繰り出すキラキラ輝く音に彩られ、疾走感あふれる曲として駆け抜けていきます。
美しくきらびやかな高揚感に包まれました。
 
「琵琶行」
二代野坂操壽さんが伊福部昭さんに委嘱した二十五絃箏の曲。
機会があり、何名かの奏者さんの演奏を聴かせていただいていています。
note「客席からの眺め」にも何度も登場している曲です。
鈴木さんの演奏は、これまで聴いた演奏とまた、全然違います。
息づかい、爪音、強弱、リズム。
「この曲は、演奏者によって全然違いますよ」
そう教えていただいた、本当にその通り。何度聞いても面白い曲です。
奏者さん達にも人気があり、おかげで様々な「琵琶行」に出会えるのはとても嬉しいことです。
二代操壽さんが蒔いた一粒の種が、いろんな花を咲かせているかのように感じました。
そして、そのいろんな花が咲いた花畑を、二代はきっと空から微笑みながら見ているのかなあと思いました。
 
「挽歌」
鈴木さんは、昨年6月に亡くなられた深海さとみさんにご師事されていたとのことです。
「挽歌」を作曲された向井航さんにとっても、深海さんはお師匠さんであられたとのこと。
今回のリサイタル、とりわけこの曲は、深海さんへの思いのこもったものとなりました。
万葉集からの3首に、二十五絃箏での曲が付けられています。
3首いずれもが挽歌(故人を悼む和歌)であったことは偶然だったようですが、悲しみから徐々にそれでも前を向いていく、未来への明るさを微かに予感させる温かみのある曲でした。
 
以前、向井航さんの「不死鳥」を深海さとみさんの演奏で聴きました。
https://note.com/kotonohawave/n/n59ad7f0ab722
弦楽アンサンブルを率いてセンターで演奏される深海さんが、とても輝いていた、その演奏姿が今でもありありと思い出されます。
「挽歌」の演奏中、客席に不死鳥となられた深海さんが舞い降りていらしているように感じました。
 
客席を思い、先人を思い、師匠を思われる、心のこもった温かい会で、満ち足りた気持ちの帰り道、ふと空を見上げると、月がとても美しく輝いていました。
今日もまた、幸せな気分で家路につきました。
 
*「さん」とお呼びするのは、大変失礼であると重々承知しておりますが、「客席からの眺め」では、「先生」方も、「さん」付けで表記させていただいております。何卒ご了承くださいませ。
 
箏の波では、演奏会情報をご案内しております。是非、生の演奏を聴いてみてください。
https://kotonoha-1tw1.glide.page/dl/d0a5f4
 
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会場 すみだトリフォニーホール小ホール
日時 2025年2月14日(金) 19:00
 
プログラム
秋風の曲 光崎検校作曲/高向山人作詞
手事四綴(てごとしてい) 肥後一郎作曲
二十五絃箏曲 琵琶行―白居易ノ興ニ傚フ(ならふ)― 伊福部昭作曲
委嘱新作 挽歌 Ⅰ荒波に Ⅱ秋風 Ⅲ霍公鳥 向井航作曲
 

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