猫と祖母。
猫と祖母の話をしたいと思います。
記憶の中の祖母はいつも猫と共にありました。
祖母と猫の関係は、「飼い主と飼い猫」である前に、「業務上のパートナー」でした。
と言うのも、祖母の家はかつてお菓子の卸問屋を営んでおりまして。
いつも倉庫に隣接される事務所では、帳簿をつけて電卓を叩く祖母の姿があり、配達の車に乗せてもらえば配達先で明るく商売をする祖母の姿がありました。
そしてそれを支えた存在が、まさに猫だったのです。猫らは人間にはできないネズミ避けという大きな役割を担っていました。お菓子問屋なので、倉庫には沢山のお菓子が詰まっており、野生の生き物達にとっては最高の食糧庫。すぐ近くは山がみえるような田舎街です。ネズミだけではなく、タヌキやイタチもよく出る場所には、猫の存在は必要不可欠だったらしく、代々猫たちが事務所で過ごしているのを見てきました。
しかし、特別ねずみとりをさせるわけではありません。ただ事務所にいるだけです。しかし、時折鳴く声や猫の匂いだけで、十分にネズミ避けの役割を担っていたというので驚きです。
幼い頃、母から「あんたより猫の方がここでは偉いのよ。あんたがにゃーと鳴いてもネズミは逃げない。」と言われた時には「確かに!」と納得してしたものです。
余談ですが、一人暮らしを始めた私が住んでいたアパートにネズミが出た時、試しに毎晩ニャーニャー鳴いてみましたが全く効果はありませんでした。猫様様なわけです。
さて、バリバリ働いていた祖母でしたが、色々あって卸問屋業を閉めることになります。それと共に、猫もネズミ避けの業務を終えて、ようやく祖母と猫はただの「飼い主と飼い猫」の関係となったのです。
祖母は猫を可愛がっていました。
猫は、人がいない時には押し入れや布団の中で眠っているのに、誰かが家にいるとわざわざ隣に来て丸くなります。
夜になると、まだ就寝しないのか、と呼びにくることもあり、一緒に布団で眠ります。きっとばあちゃんといつもそうやって過ごしていたのかな、と思ったり。
人が台所に立てば、いつの間にかそっと足元に来てお行儀よく座っています。おやばあちゃん、料理しながらおやつかなにかあげていたのかな、と思ったり。
不機嫌そうに鳴くので行ってみると、押し入れが閉められていることにご不満のご様子。どうやら祖母は、部屋の扉は押入れ含めて猫が通れるほどの隙間がいつも開けていたようです。その証拠に猫が通れるスペースだけ、戸のレール部分の塗装が削られずに綺麗に残っています。押し入れなんて開けたらつい閉めちゃいそうなのにな、と思ったり。
私は、そういった小さなところから、祖母と猫が過ごしてきた時間を感じています。
ばあちゃん、甘やかして沢山可愛がって育てたんじゃあないですか?
私が帰省するたび「誰この人!?」という表情をしていた猫ですが、今では少しずつ「餌をくれるヤツ」認定をしてくれているご様子ですよ。ばあちゃんみたいにはできないけれど、まあ、なんとかうまくやっていけるように頑張るので、どうか、見守っていてください。
仏壇の前でばあちゃんに報告していた私の側に来て、猫が珍しげに備えた花の匂いを嗅いでいます。
その様子を、写真の中の祖母が優しく見つめているようでした。