大切な預かりもの
8年前の夏、私は子どもを産んだ。
最初で最後の経験だ。
出産というものは、思った以上に痛くて痛くて
そして痛かった…
「途中でやめることができない」
「いつか終わる」
そのことだけを考えて、のたうち回っていた。
分娩台の上で18時間。
子どもは生まれてきた。
あまりに疲れ果て、子どもが私の胸の上に来たことも
生まれたときに泣いていたかどうかさえも覚えていない。
お腹の中で何ヶ月かを一緒に過ごし
段々大きくなっていくのを実感して
そして確かに私が産んだのだけれども
子どもが生まれてしばらくの間
「自分の子ども」という気がしなかった。
『どこか大切なところからの預かりもの』
そうとしか思えなかった。
もちろん授乳し、オムツを替えて…ということはするし、
日々のお世話に追われていてクタクタであっても
とてもとても可愛らしく大切な存在だった。
だけどその一方で、自分が産んだのに
自分の子どもという感覚がなかった。
「この子は、とても大切なところから来てくれたから
大切な大切な預かりものだから
大切にしよう。
そしていつか私の手を離れていくときまで
大切に育てよう。」
そういう不思議な感覚でしばらく(1年くらいかな)過ごした。
いつの間にかその感覚は薄れ、
叱ったり怒ったり、笑いあったり、泣いたりしている。
そしてあのときの感覚はもうリアルには思い出せない。
けれど、
「大切な預かりもの」だとなぜだか感じた
そのことだけは私の心に強く刻まれている。