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ピアノにstringsを張る力はとてつもなくSTRONG

前回投稿ではweekを取り上げましたが、それとつづりが似ている単語weak。

同じ発音とは言え語源的つながりは無い…と思いきや、遡(さかのぼ)ると共通のご先祖様がいるのでした。

それは「曲げられる」という意味の言葉であり、「曲げられる」⇒「変わり」⇒「週」というように変化したのがweekであり、「曲げられる」⇒「弱い」となったのがweakです。

今回の投稿はweakを出発点に進めていきます。

形容詞weak

「弱い」という日本語から想像できる範囲とweakの守備範囲は似ています。

「a weak constitution
虚弱な体質
a weak chair
壊れやすいいす
a weak government [team]
弱体な政府[チーム]
a weak brain [head]
低能
a weak surrender
意気地のない降服
a weak argument
説得力に乏しい議論
weak soup
薄いスープ」
(研究社新英和中辞典)

「想像力が乏しい」という意味で使う時は「poorのほうが一般的」であると、同辞書には載っていますが、「weak imagination」が歌詞の中に登場する曲があるのでご紹介しましょう。

西暦1976年/昭和51年にイギリスのバンドGenesisジェネシスが出した『A Trick of the Tail』です。

「There, beyond the bounds of your weak imagination lie the noble towers of my city, bright and gold.
(君達の乏しい想像力の限界を越えたところに広がっているのは、我が都市の壮大な高層建築物の数々であり、それらは輝いていて黄金色である)」

異世界(?)からやってきた、角(つの)やtail(尻尾)を持つ動物、しかし人語を解する動物が人間達に向かって言っているセリフです。

『Genesis - A Trick Of The Tail』
https://www.youtube.com/watch?v=VEIy8lQY6_4

さて、先ほど挙げた各種の例文では「weak ▲▲」という形、つまり▲▲という名詞に直接くっ付いて「弱い▲▲」を表現しています。

一方、対象の名詞から離れたところで、補語としてそれを説明するパターン、いわゆる「叙述用法」も可能です。

「My hearing is weak.
私は耳が悪い
My grip is weak.
私は握力が弱い」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

これらの例では、「●●は▲▲が弱い」を「●●'s ▲▲ be weak」という組み立て方で表現していることがお判りいただけると思います。

別パターンとして、「●● be weak in ▲▲ 」で登場することもありますので、inという前置詞を憶えておくことが大切です。

「He's weak in the legs.
彼は足が弱い
She's a little weak in the head.
彼女は少し頭が弱い」
(研究社新英和中辞典)

学科を言う場合はatも可能のようです。

「He's weak in [at] English.
彼は英語が弱い[苦手だ]」(同)

「苦手科目」の言い方は他のweakの用法と若干違っています。。

「Math(s) is my weakest subject.
数学はいちばん苦手な科目だ」(同)

weakが説明対象に直接くっ付いていた先程の各例で明らかなように、「weak ▲▲」では▲▲自体に「弱い」という性質がありました。

例えば「a weak chair」ではchairに弱いという性質があったのに対し、「my weakest subject」では「科目」が「弱い」性質を持つのではなく、「私」がその科目に対して「弱い」ことになります。

名詞weakness

-nessは形容詞に付いて、性質・状態を表す名詞を作る接尾辞です。

「weakness of the apartment building
その集合住宅の造りの弱さ」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

「We all have our own little weaknesses.
我々にはだれにでもちょっとした欠点があるものだ」
(研究社新英和中辞典)

「弱さ」「弱点」とはちょっと日本語の印象が異なる「大好きであるということ」「大好きなもの」。

これらがweaknessの訳語としてあり得るのは、「それがもたらす誘惑に対して弱い、誘惑に耐えられない」という意味合いで発生した使い方だからです。

「She has a weakness for sweets.
彼女は甘いものには目がない
Detective stories are a weakness of mine.
私は推理小説が大好きだ」(同)

1例目は「大好きであるということ」の、2例目は「大好きなもの」の例文です。

形容詞strong

さてweakの対義語であるstrongについても見ておきましょう。

まずは、名詞に直接付く「strong ▲▲」パターンの例です。

「a strong man
力の強い人
a strong fort
堅固なとりで
a strong army
優勢な軍隊
strong affection
強い愛情
strong evidence
有力な証拠
strong black coffee
濃いブラックコーヒー」
(研究社新英和中辞典)

次に対象の名詞から離れたところで、補語としてそれを説明する叙述用法の例です。

「He's strong in body and mind.
彼は心身ともに強健である
He's strong in faith.
彼は信仰心が強い」(同)

やはり、「●●は▲▲が強い」を「●● be strong in ▲▲ 」で表現しています。

「得意である」の場合には前置詞がinの場合、onの場合があります。

「She's strong in arithmetic.
彼女は算数が得意だ.
He's strongest on American literature.
彼はアメリカ文学が最も得意だ」(同)

「強」やそれに類する訳語が登場しない用法があります。

数詞▲▲の後にstrongを置いて、「人員▲▲人の」を表す用法です。

「a military force 20,000 strong
=a 20,000-strong military force
総勢2万人の軍隊」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

「the company’s 2,200 strong workforce
(その会社の2200人の従業員)
The crowd was 10,000 strong.
(群衆は総勢1万人だった)」
(ロングマン現代英英辞典)

名詞strength

接尾辞-thは序数を作るものが有名ですが、形容詞や動詞に付いて名詞を作る接尾辞であることもあります。

strengthの他にはdepth、death、truth、growthなどがお馴染みですが、heightのように-thから-tに変形することもあります。

「with all one's strength
力いっぱい, 全力を振り絞って
the strength of a light [sound]
光[音]の強さ
strength of mind [will]
精神[意志]力
the strength of a bridge
橋の耐久力」
(研究社新英和中辞典)

「strong black coffee」の形容詞strongの訳語として「濃い」を使うのは、「濃いコーヒーは強い味のコーヒーってことだよな」とすんなり受け取れるのですが、名詞用法でstrenthを「濃度」とするのはなぜだか意外な気がしてしまうのは私だけでしょうか。

「the strength of a solution
溶液の濃度」
(同)

その他、辞書には慣用表現として次のようなものが載っています。

「Give me strength!
((略式))(相手の愚かさにあきれて)まいっちゃうね,いやになっちゃうね」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

しかし、こういう意味ではなくて、文字通りに「強さをください」との感情を述べていることもあります。

イギリスの歌手Elvis Costelloエルヴィス・コステロウがアメリカの作曲家Burt Bacharachバート・バカラックと組んで、西暦1998年/平成10年に発表した曲の題名が『God Give Me Strength』です。

「Now I have nothing, so God give me strength.」

「She took my last chance of happiness. So God give me strength.」

「こういう事情があります。so(だから)ゴッドよ、strengthをください」と歌っているので、ゴッドの愚かさにあきれて、という話ではないのは明らかです。

『Elvis Costello & Burt Bacharach: God Give Me Strength』
https://www.youtube.com/watch?v=lrcNnIV6FV8

先程形容詞strongの最後に取り上げた、人員を表す用法がこの名詞にもあります。

「at full strength
全員こぞって, 勢ぞろいして.
below [up to] strength
定員以下の[に達した].
What is the strength of our forces?
我々の兵力はどれほどか」
(研究社新英和中辞典)

strong/strengthを「強」の文字とだけ結びつけて記憶していると、なかなかこういった訳語が出てこないと思います。

「強」と「弱」をセットで

物理学で

「In nuclear physics and particle physics, the weak interaction, also called the weak force, is one of the four known fundamental interactions, with the others being electromagnetism, the strong interaction, and gravitation.
(核物理学と素粒子物理学において、弱い相互作用(またの名を弱い力)は4つの知られた基本的な相互作用の1つであり、他の3つは電磁気力、強い相互作用、重力である)」
ウィキペディア

ネーミングとして「weak force弱い力」とか「strong force強い力」というのは「普通」過ぎて物理の専門用語ぽくない気がします。

「電磁気力」「重力」は何を言っているのか分かりやすい言葉ですが、「弱い力」とか「強い力」はそうしたイメージを喚起する弱いので、正体が掴みづらいものとなっています。

「陽子が複数あるとき、反発しようとする電磁気力よりも強く働き、原子核がバラバラになってしまうのを防いでいるのが「強い力」です(中略)
「弱い力」は電磁気力よりも弱いため、こう名付けられました。この力も普段感じることはありませんが、原子核のベータ崩壊を起こすなど、さまざまな粒子を別の粒子に変化させる重要な役割を果たしています。」
(ハイパーカミオカンデのサイト所載の『電磁気力も重力も、すべての力はもともとひとつ?』より

言語学で

動詞の活用や名詞・形容詞の格変化で大きく変化するものを「強変化」、そうでもないものを「弱変化」と言い、ドイツ語を学んだ方なら先刻ご存じのものです。

現代英語の動詞の活用に話を絞ると、sing/sang/sungなどのように語幹の母音を取り替える派手なヤツが強変化strong conjugationです。

一方、-edを付けるだけの面白みのないヤツが弱変化weak conjugationです。

string

stringは「強く張ったもの」というのが元々であり、strongと語源的なつながりがあります。

「紐(ひも)」や、楽器の「絃(げん)」など、張るものを指すのも当然です。

「a ball of string
1巻きの糸
attach strings to ...
…にひもをつける」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

そこから「紐に通したもの」に発展すると、主役は紐ではなくなります。

「a string of pearls
一連の[になった]真珠
a string of cars
一線をなして続く自動車
make a string of phone calls
次々と電話をかける」
(研究社新英和中辞典)

動詞として「紐に通す」「一連にする」という使い方も出てきます。

「string beads
ビーズを糸に通す
Policemen were strung out along the street.
警察官が沿道に配置された」(同)

ラケットや絃楽器に糸状のものを「張る」ことを言う用法も当然存在します。

「I'll have my tennis racket strung.
テニスのラケットにガットを張ってもらおう」(同)

「string a guitar
ギターに弦を張る」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

西暦1983年/昭和58年に発表されたアルバム『Passion, Grace & Fire』は、イギリスのJohn McLaughlinジョン・マクラフリン、アメリカのAl Di Meolaアル・ディ・ミオラ、スペインのPaco de Lucíaパコ・デ・ルシアの3人がアクースティック・ギターのみで演奏する作品です。

レコード・ジャケットの裏面には各人の使用楽器についての記述があります。

こちらの画像

「Yamaha classical flamenco-type guitar - gut strung

Ovation 6-string acoustic guitar - steel strung

Spanish flamenco guitar, built in Spain - gut strung」

(Yamahaと同様にOvationもブランド名です)

ここに出てくる「gut strung」「steel strung」のstrungはもちろん動詞stringの過去分詞ですが、その手前のgut/steelは「何を張るか」を表しています。

これは受動態の文では前置詞withの句で登場するような要素です。

「Did you know that about a third of the piano is strung with copper-wound strings?
(ピアノに張ってある絃の3分の1は銅を巻いた絃であることをご存じでしたか)」
South Jersey Piano Service社のサイトより)

「銅を……」というのはこういうことです。

「弦はミュージックワイヤーと呼ばれる特殊な鋼線(ピアノ線の中でも、特に高品質なもの)で、低音域では質量を増すために銅線を巻きつけてある。」
ウィキペディア

巻いて質量を増やすということをせずに鋼線だけでなんとかしようとすると、絃をより長くしなければ求める低音が出せなくなるわけです。

さて、stringという動詞をまとめますと、能動態の主語は「絃を張るという行為を行う人」、能動態の目的語/受動態の主語はラケットや楽器など「張るという行為を受ける側の物」であり、「そこに何をピンと張るのか」をwithの句で示すわけです。

そしてwithの句の目的語になっている「そこに何をピンと張るのか」を、前置詞なしで過去分詞の前に置いたのが「gut strung」「steel strung」という表現になります。

(参考として、以前の投稿『STORMは「嵐」だけではないし、「嵐」はSTORMだけではない』の「▲▲+ハイフン+過去分詞」の項をご覧ください)

ところでgutは本来こういうことです。

「腸線(◇動物の腸で作り,楽器の弦・ラケットの糸などに用いる)」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

しかし現在、「ガット」と書いてあっても、本物の腸ではなくてナイロンなどの素材で作られたものの方が一般的だと思われます。

ガット絃とスティール絃は明らかに音が違います。

アルバムの1曲目『Aspan』で検証すると、0:50辺りからソロを取るのがスティール絃のアル・ディ・ミオラです。

『Aspan』
https://www.youtube.com/watch?v=3GRSi-L0s5Q

続いて1:40辺りからの、ジョン・マクラフリンのガット絃の音を聞いてください。スティール絃よりかなりマイルドです。

2:38辺りからのパコ・デ・ルシアもガット絃であり、基本的には同じような音であるとは言えますが、マクラフリンがピックを使って弾くのに対してパコは指(爪)で直接弾くので、結構違って聞こえます。

お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。

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