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部屋じゃないROOM

ある程度の年齢なら、アメリカのバンドEaglesイーグルスの代表曲『Hotel California』をご存じの方も多いと思います。

サビの中に次のような歌詞が出てきます。

「Plenty of room at the Hotel California」

「ホテル・キャラフォーニャへようこそ」と出迎えてくれた人から言われるセリフです。

この架空のホテルには「plenty of room」がある、というわけですが、これを「部屋がたっぷりある」という日本語にするのは誤訳です。

語源に近い使い方

元々「空間」というのが語源であり、「あき場所」という用法があります。(派生した形容詞roomyは「広々とした」という意味になり、やはり「空間」に関係していることが理解できます)

「a garage with room for three cars
車 3 台分のスペースのあるガレージ.
There was no room for us to sleep.
我々が寝る場所もなかった.」
(研究社新英和中辞典)

1例目のroomを見ると手前にaやtheがなく、複数形にもなっていません。それでお分かりのようにこれは不可算です。

「Plenty of room at the Hotel California」もroomsではなくroomであり、不可算名詞として登場します。plenty ofの後に可算の名詞が来るならその名詞は複数形になっているはずですから。

続けてのセリフ「Any time of year, you can find it here」の中で、plenty of roomを指す代名詞はitであり、やはり複数ではないことが確認できます。

ということで、この歌詞は「場所がたっぷりある」と解釈するのが妥当です。

英語人の頭の中では、外界との境目がはっきりしないと認識される「あき場所」が不可算の使い方であり、天井・床・壁で境目がはっきりする「部屋」が可算のroomです。

クッキーになるまえの「生地(きじ)」を意味する「doughドウ」は境目がはっきりしないと認識されるので不可算、生地に抜き型を押し付けて1個1個の境目がはっきりしたcookieは可算であるのと似ています。

「Yeast makes dough rise.イーストでパン生地がふくれ上がる.
He munched (away) at the cookies.彼はクッキーをむしゃむしゃ食べた.」(研究社新英和中辞典)

「メイクルーム」

「空間」「場所」に関する熟語として「make room」というのがありますが、「場所を作る」とはすなわち「場所/通り道をあける」「席を譲る」という意味です。

(芸能人などが撮影現場で「化粧をする部屋」のことを「メイクルーム」と発言しているのを聞いたことがありますが、これは和製英語であり、正しくは「makeup room」です)

「席」に関するroom

自動車雑誌などの記事でよくこういう記述があります。

「新型RAV4の後部座席は、先代モデルと比べて"チョイ広い"です。(中略)とくに広くなったのが、後部座席のヘッドルームとレッグルーム。」(「vehicle info」というサイトより引用)

headroomやlegroomも「頭の部屋」「脚の部屋」と解釈すると意味不明となります。あくまでも「空間」であり、席に座った人の「頭と車の天井との間の空間」「前席との間の、脚を置く空間」のことです。

新幹線の場合は普通車でさえlegroomが1m強あるので申し分ありませんが、バスの座席や映画館はたいがい前の席との間が狭いために脚が窮屈になり、体勢の変化がしにくくて疲れやすくなります。

橋桁(はしげた)から地上/水面までの空間の高さを「桁下高」と呼ぶそうですが、これもheadroomです。これが足りないと橋の下を車/船が通行できないことになります。実際にそういう例があるようなので、ご興味があれば以下の記事をご覧ください。

新幹線の架道橋、桁下高さが60cm不足 - 日経クロステック(xTECH)
上流と同じ桁下高なのに船通れず - 日経クロステック(xTECH)

より抽象的な使い方

物理的な「空間」「場所」から発展して、時間的・精神的「余裕」や物事の「可能性」、何かをする「余地」をも意味します。

「I won't give her room to talk.
彼女にしゃべる暇は与えない
There is plenty of room for agreement in this argument.
この論争には合意の余地が大いにある
The budget leaves little room to cut.
予算には削減の余地はほとんどない」(小学館プログレッシブ英和中辞典)

3例目ではroomに対して動詞leaveが組み合わされて「余地を残す」となっていましたが、これも歌詞の中で使われている実例があるのでご紹介します。

「I think it's time for us to realize the spaces in between leave room for you and I to grow」

カナダのバンドRushの曲『Entre Nous』からの引用です。

文の構造としては、①it's以下文末までがthinkの目的語となる名詞節であり、②the spaces以下文末までがrealizeの目的語となる名詞節です。

②の節の中ではthe spaces in betweenがS、leaveがVであり、「私達の間の空間が、あなた達と私が成長するための余地を残す」というような歌詞になっています。

(尚、ここで「I」という主格を使っているのは標準的な文法に則れば間違いで、前置詞forの目的語にするなら目的格「me」としなければなりません。作詞を担当したメンバー、Neil Peartニール・ピアトが意図的にそうしたのかは不明です)

他言語では

ここまで書いてきた「部屋」以外の意味のroomを他の言語に訳したいと思った場合、どういう単語で変換すればいいのかを確認します。

「空間」「場所」

ドイツ語では「Raumラオム」「Platzプラッツ」を用い
「viel 〈wenig〉 Raum beanspruchen
場所を取る〈取らない〉
Im Koffer 〈Im Wagen〉 ist noch Platz.
トランク〈車〉にはまだスペースがある」
(小学館プログレッシブ独和辞典)
などとします。

フランス語では「placeプラス」を用い
「Pousse-toi un peu, fais-moi une petite place.
ちょっと詰めて私に少し場所を空けてください」
(小学館プログレッシブ仏和辞典)
などとします。

見た目でお分かりのようにRaumとroomは同源です。またPlatzとplace、そして英単語placeも同源です。

「余裕」「可能性」「余地」

ドイツ語では「Raum」「Spielraumシュピールラオム」を用い
「Hier ist kein Raum für Witze.
冗談言っている場合ではない.」
(小学館プログレッシブ独和辞典)
「Dieser Artikel hat mich ermuntert, so zu planen, dass ich mehr Spielraum habe.
この記事を読んで,時間にゆとりを持てるよう努力しようと思いました。
Dieses System lässt keinen Spielraum für weitere Verbesserungen.
この制度には改良の余地がない。」
(Glosbe)
などとします

Spielraumは英語のplayに当たる動詞「spielenシュピーラン」とRaumを足したものですが、英語でplay + room = playroomとすると子供の「遊戯室」となります。

フランス語では「margeマルジュ」「possibilitéポシビリテ」を用い
「avoir de la marge
(時間的な)余裕がある.
Il n'y a que deux possibilités.
選択の余地は2つしかない.」
(小学館プログレッシブ仏和辞典)
などとします。

margeは英語marginと同源であり、marginにも時間的「余裕」、活動の「余地」という用法があります。

「a margin of 5 minutes
5分の余裕.
leave a good safety margin
安全であるように十分な余裕をとっておく.」
(研究社新英和中辞典)

お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。

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