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CUTって、原形・現在形・過去分詞・形容詞・名詞の可能性があるから厄介。動詞としての使い方も一癖あるから厄介

「切れたナイフ」

芸人・出川哲朗は今でこそ人柄が親しまれている人気タレントですが、本人曰く高校時代は不良で「切れたナイフ」と呼ばれていた、というのはよく知られた話です。

この「切れたナイフ」という発言が出ると周りの出演者は「???」という感じで失笑する、という一連の流れがあります。

なぜこの言葉は面白いのか、まじめに考えてみます。

「不良」「ワル」に付く仇名(あだな)として「ナイフ」というのは、その攻撃力という点で頷(うなず)けるところです。

同様に攻撃的な存在、例えば「猛犬」だったら、「切れた+猛犬」で問題ないはずで、大袈裟ですが面白みは無いでしょう。

この組み合わせなら、「切れる」という動詞は「逆上する」「かっとなる」の意味で捉えられ、その猛犬が興奮して噛みつきかねない様子であるイメージがわき、「不良」の度合いが高いことが窺(うかが)える仇名になるからです。

一方「ナイフ」には感情はありませんから、「切れる」が逆上の意味合いで使われるとは思えません。

そうではなくて、「切れ味が鋭い」の意味で使って「(よく)切れるナイフ」なら良くできた刃物の話となります。

しかし「切れ」ではなくて「切れ」にした場合、「ナイフで切れた指先」のように刃物の当たる対象物とか、「ナイフで切れた傷」のように刃物が通った痕とかのイメージがしませんか?

つまり「切れたナイフ」は「ナイフが切られた」という印象を与える表現なので、これを聞いた人が「???」になるのはそれが理由ではないのかと私は考えます。

もっとも、「前まではよく切れたナイフだったんだが、使い込んでいるうちに切れなくなった。研(と)ぎに出さなくちゃ」という文脈では「切れたナイフ」は普通の言い方であって、面白みは別にありません。

英語cut

「切る」で連想する英語は何と言ってもcutですので、これについて見ていきましょう。

物理的に「切る」

直接目的語のものを刃物で「切る」という他動詞用法が一番お馴染みです。

「〔He〕cut【a string】with《a knife》.
彼はナイフでひもを切った」

切るという行為に関係する主要な3つの要素が登場します。

〔 〕が刃を当てる人、【 】が刃が当たる対象物、《 》が「刃」になるものです。

《 》である「はさみ」は道具を示す前置詞withで導かれます。

他動詞用法では他に、《 》が主語になることもあります。

「《The knife》slipped and cut【his finger】.
ナイフが滑り彼は指を切った」
(研究社新英和中辞典;カッコ類は引用者による))

《 》を主語にする自動詞用法では、その「刃」の持つ能力、つまり「切れ味」を語る使い方があります。

「《This knife》cuts well [badly].
このナイフはよく切れる[切れない]」
(大修館書店ジーニアス英和大辞典)

この用法では「wellなどの様態の副詞を伴って」などと辞書に書かれることが多いのですが、他に次のような副詞も使えるようです。

「《professional quality tools》that cut efficiently and smoothly
(効率よく難なく切れる、専門家が使うような品質の道具)」
(Longman)

自動詞用法では反対に【 】が主語になることもあります。

「【Butter from the fridge】doesn't cut easily.
冷蔵庫から出したてのバターはなかなか切れない」
(研究社新英和中辞典)

【 】を主語にするこの用法では、「切られる」ことに関してその対象物の持つ性質を述べる文が作られるわけです。

抽象的な「切る」へ

cutには何かを時間的に「短くする」、量的に「削減する」といった、より抽象的な用法がありますが、以下の文は物理的cutと抽象的cutの両面を持った使い方だと思います。

「I cut the commercial to twenty seconds.
私はコマーシャルを 20 秒にカットして編集した」
(研究社ルミナス英和辞典)

かつては映像や音声の編輯は実際にテープを切って繋げるという方法が採られていました。

その「切る」という物理的作業が作品の時間を短くするという結果をもたらしていたわけです。

さて「削減」系の例文も確認しましょう。

「The welfare budget has been cut by $56 billion.
(福祉予算は560億ドル削減された)
Seven hundred jobs will be lost in order to cut costs and boost profits.
(コストを削減して利益を高めるために700人が失職することになる)
They’re introducing CCTV cameras in an attempt to cut street crime in the area.
(その地域における路上犯罪を減らす試みとして防犯カメラの導入を進めている)」
(Longman)

形容詞としてのcutとcutting

これは過去分詞に由来するもので、「切られた」が基本義となります。

ですから「cut flowers」なら「切られた花⇒切り花」、「cut prices」なら「削減された値段⇒割引値段」です。

つまり【 】の言葉を修飾する形容詞です。

日本語の中で使うカタカナ語「カット▲▲」にこのタイプが色々とあります。

「カット野菜
サラダとしてすぐ食べたり、簡単に料理できるよう、あらかじめ洗って切ってあるパック詰め野菜。」

「カットグラス
彫刻や切り込み細工を施した透明度の高い鉛ガラス。切り子ガラス。」

「カットソー
《cut and sewnから》ニット製品に使われる言葉で、編み地を裁断(カット)して縫製(ソーン)した製品の総称。」
(以上、小学館デジタル大辞泉)

数ある絆創膏(ばんそうこう)の商品名の中の1つである「カットバン」は、あらかじめ「切られた」状態で用意されている絆創膏ということであるようです。

一方現在分詞由来のcuttingは刃物が「鋭利な」ことを基本とし、
「cutting pain:鋭利な痛み⇒体を引き裂くような痛み」、
「cutting winds:鋭利な風⇒身を切るような風」、
「a cutting remark:鋭利な言葉⇒辛辣な言葉」
などの使い方をします。

つまり「刃」に当たるような《 》の言葉を形容する詞(ことば)です。

名詞としてのcut

大別して「切るという行為」と「切った結果残るもの」とに分類されます。

前者の例:

「I made a cut at the log with my axe.
おのでその丸太に切りつけた
a one-percent cut in income taxes
所得税の 1 パーセントの引き下げ
The remark was (intended as) a cut at me.
その言葉は私への当てつけ(のつもり)だった]
(研究社新英和中辞典)

後者の例:

「I got a cut on the left cheek while shaving.
ひげをそっているうちに左のほおに切り傷をつけた
a cut of beef [pork]
牛[豚]肉の切り身
He wanted to take a 50% cut of the profits.
彼はもうけの 50 パーセントをもらいたいと思った」(同)

cutに切られてしまった言葉

cutは北欧から英語に入ってきた言葉らしく、元々英語にあった「切る」を意味する動詞snithenが追いやられてしまいました。

現代英語ではわずかに「snideスナイド」という単語にその子孫を見出すのみです。

「人の名誉を傷つけるような,意地悪な,いやみを言う.
make snide comments
いやみを言う.」(同)

もっとも現代ドイツ語では、同じ語源の言葉「schneidenシュナイダン」が「切る」の代表的動詞として君臨しています。

ドイツ語で「Schnitzelシュニッツェル」と呼ばれる薄切りのカツレツがありますが、この言葉もschneidenに関係する言葉です。

cutの動詞用法を他言語でどう表現しているか

他動詞用法

先程登場した

「〔He〕cut【a string】with《a knife》.」

がドイツ語ではschneiden(の過去形)を使って

「〔Er〕schnitt mit《einem Messer》【eine Schnur】.」

となります。

フランス語では動詞couperが代表的な動詞であり、

「〔Il〕a coupé【une ficelle】avec《un couteau》.」

独仏それぞれ、withに当たる前置詞はmit、avecです。

ところで次の英文は「ひも」の文と、組み立て方は同じです。

「〔He〕cut【his finger】with《a knife》.」

しかしながら、独仏では構造が異なります。

「〔Er〕schnitt{sich}mit《einem Messer》in【den Finger】.」
「〔Il〕{s’}est coupé【le doigt】avec《un couteau》.」
({s’}estは実際にはs’estというように繋げてつづられます)

{ }は再帰代名詞です。

人がひもを切るときにはその行為の矢印は彼から離れて対象物に行きます。

しかし指を切るというのは、矢印の向かう先は結局彼自身であり、そこに再帰代名詞の登場意義があります。

自動詞用法

こちらはどうでしょう。

「《This knife》cuts well.」
「《Dieses Messer》schneidet gut.」
「《Ce couteau》coupe bien.」

普通にそれぞれschneiden、couperの自動詞用法として載っているもので、英語と同じだと言えます。

では【 】が主語になるパターンでは?

「【Cheese】cuts easily with《a knife》.」
「【Käse】lässt{sich}leicht mit《einem Messer》schneiden.
「【Le fromage】{se}coupe facilement avec《un couteau》.」

【 】は切られる側なので、「指」同様に再帰代名詞を登場させるというのは独仏共通です。

ドイツ語ではさらにlassenラッスンという動詞を加えており、この言葉はこの場合「▲▲され得る」という意味を付け加えます。つまり「チーズはナイフで簡単に切られ得る」ということです。

おまけ

コッペパンのコッペとはここで紹介したcouperに関連しているのではないかという説がありますが、真相は不明です。

「「コッペ」の語源は確かではない。
一説にはフランス語で「切られた」を意味する(仏: coupé(e))にあるとされる(自動車のクーペと同語源)。スライスされたり、サンドイッチ用に真ん中に切れ目を入れられたりした場合、もう一つは焼き上げる前の生地にナイフで切れ目(クープ coupe)を入れられた場合に、この語が用いられる。」
ウィキペディア

一方、パスタの一種tagliatelleタッリャテッレの語源は、イタリア語のcutに相当する動詞tagliareタッリャーレで確定しています。

tagliareの過去分詞(女性形)であるtagliataと、「小」のニュアンスを付加する接尾辞-ellaが合わさったものです。

「タリアテッレ(Tagliatelle, タッリャテッレ、タッギャテッレ)はイタリア北部で用いられるパスタの一種である 。細長いリボン状で厚さ1ミリメートル、幅は8ミリメートルほど。(中略)
イタリアの中南部においてはこのタイプの麺をフェットゥチーネと呼ぶ。両者は基本的に違いはないが、フェットゥチーネと比してタリアテッレは若干薄く、幅も狭い。」
ウィキペディア

お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。

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