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HEART雑記

サッカーの日本代表チームはワールド・カップ本大会に7回出場し、通算25試合を行っています。そのうちの3試合が対クロアチア戦です。(その他、ベルギーとコロンビアとは各2試合)

何かとご縁のある同国のユニフォームの画像をご覧ください。
https://web.gekisaka.jp/relatedarticle/photonews?player_id=54833&news_id=375472&photo_no=8&page=1

胸の部分にクロアチア・サッカー連盟の紋章が見られますが、そこには「HNS」と書いてあります。「クロアチア」なら「C」がどこかに入っているのではないか、と思うかもしれませんが、日本語で日本のことを「ジャパン」と言わないように、クロアチア語でクロアチアのことは「クロアチア」ではありません。

それでは何と呼ぶかと言うとHrvatskaフルヴァツカであり、「クロアチア・サッカー連盟」では「Hrvatski nogometni savez」となるそうで、その頭文字3つで「HNS」です。

先頭のhは発音記号で/x/となる音であり、普通のハ行の音ではありません。/k/の音を出す時の喉の辺りの様子をイメージし、しかしカ行にはせずに空気を喉から強く出す感じです。

Forvoというサイトで実際の発音をご確認ください。
https://ja.forvo.com/search/Hrvatska/

「クロアチア」はラテン語風のカタカナ表記であり、英語でCroatiaクロゥエイシャ、フランス語でCroatieクロアシ、イタリア語でCroaziaクロアーツィア、スペイン語でCroaciaクロアシアとなり、これらの言語では先頭は/k/の音となっています。

クロアチア語は、イタリア語などのラテン系でもなく、ドイツ語などのゲルマン系でもなく、スラヴ系に属していますが、同じスラブ系の諸言語(ポーランド語、ウクライナ語、ロシア語)でクロアチアを表す単語の先頭はやはり/x/の音で始まります。

「グリムの法則」

この「文字hで始まる言葉が別の系統の言語では文字cで始まっている」という話を見て思い浮かんだのは、ゲルマン系に関する「グリムの法則」です。

「グリムの法則(グリムのほうそく、ドイツ語: Grimmsches Gesetz、英語: Grimm's Law)もしくは第一次子音推移(ドイツ語: Erste Lautverschiebung)は、1822年にドイツの文献学者ヤーコプ・グリム(童話で有名な「グリム兄弟」の長兄)が、Deutsche Grammatik (1822) の中で体系化したゲルマン語における子音推移(印欧祖語からゲルマン祖語への分化の過程で起きた音韻変化)の法則である。」(ウィキペディア

例えば「心臓、心」を意味する単語は、インド・ヨーロッパ語族の歴史をさかのぼると/k/の音で始まっており、古典ギリシャ語やラテン語でそうであったように、現代のラテン語系言語では今もそのままです。

イタリア語:cuoreクオーレ、スペイン語:corazónコラソン、フランス語:cœurクール

一方ゲルマン系の言語では同語源なのに先頭の音が/h/に変化しました。

ドイツ語:Herzヘアツ、英語:heart

このk⇒hパターン内の単語が他にもあり、また、k⇒h以外のパターンも複数あります。詳しくはリンク先のウィキペディアのページをご覧ください。

heartの用法

前置きが長くなりましたが、heartの用法を確認しましょう。

臓器としての「心臓」や、精神の「心」などがお馴染みです。

それから、「暗記する」を「learn by heart」だと習ったことがおありかと思います。

「He learned those lines by heart.
彼はその台詞(せりふ)を暗記した.」
(ルミナス英和辞典)

これは、かつて心臓はすべての精神的能力の源だと考えられていて、「記憶」という意味がheartにあった頃の名残りが「by heart」という慣用表現に見られるからです。

heartとoutの組み合わせ

心/感情が表《出》されることを言う表現には副詞《out》を伴うものがよくあります。

①「▲▲'s heart go out to ◆◆」つまり「▲▲の心は◆◆へgo outする」は、「▲▲は◆◆に同情する」を意味します。

「My heart goes out to your father.
あなたのおとうさまに同情申し上げます.」
(研究社新英和中辞典)

②「▲▲ cry ▲▲'s heart out」⇒「▲▲はcryして自分の心をoutする」⇒「▲▲はひどく泣く」

「Poor Jane really cried her heart out during the funeral service.
可哀そうにジェーンは葬式の間、実にひどく泣いた。」
(Farlex Dictionary of Idioms)

③「▲▲ sing ▲▲'s heart out」⇒「▲▲はsingして自分の心をoutする」⇒「▲▲は力の限り歌う」

「The 12-year-old will appear on ITV's talent contest, Pot Of Gold, singing her heart out with other would-be stars.
その12歳の子はITV(テレビ局ネットワーク)のタレント・コンテストである『黄金の壺』に出演して、他のスター志望者達と共に力の限り歌うだろう。」
(Collins COBUILD Idioms Dictionary)

singの他にdanceやplay、fightやrunでも「力の限り●●する」の意味で使えます。

「心を袖に着ける」

「▲▲ wear ▲▲'s heart on ▲▲'s sleeve」つまり「▲▲は自分の心を自分の袖にwearする」は、「▲▲は気持ちをはっきり顔に出す」「思うことを率直に言う」の意味です。

シェイクスピアの作品『Othelloアセロウ(オセロ)』のセリフにある表現だということです。

「「そでに心をつける」とは, 中世の騎士が自分の思いこがれる女性にもらったリボンをそでにつけた習慣からきているとされる.」
(研究社ルミナス英和辞典)

アメリカの歌手Billy Joelビリー・ジョウルが西暦1978年/昭和53年に発表した楽曲『Honesty』の中に、副詞outを追加して登場します。
https://www.youtube.com/watch?v=N3hfZpDnbHI

「I can always find someone to say they sympathize if I wear my heart out on my sleeve.
自分の気持ちをはっきり出すなら、同情するよと言ってくれる人がいつも見つかりはする。」

芯、核心

heartにはその他に、果物などの「芯(しん)」、物事の「核心」という意味があり、これらは別の単語core(いわゆる「コア」)と共通です。

「a heart of lettuce
レタスの芯
cut to the heart of the matter
問題の核心をつく
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

「This pear is rotten at the core.
このナシは芯が腐っている.
the core of the problem
その問題の核心.」
(研究社新英和中辞典)

そのcoreは、先ほど「グリムの法則」の項で取り上げた伊cuore、西corazón、仏cœurと同じく、ラテン語でheartを意味するcorが語源の言葉なので、heartと共通の意味があるのは偶然ではありません。

その他、cordial(心からの)、courage(勇気)、encourage(勇気づける)、record(心に呼び戻す⇒記録する)といった英単語も同じくcorをご先祖様に持つ、心に関する言葉です。

「心の風車」

cœurが題名に入っている曲で『Les Moulins de mon cœur』というのがあります。(順番に「定冠詞+風車(複数)+前置詞+私の+心」というように単語が並べられています)

これは元々あった英語の歌に、フランス語の歌詞をつけたものです。

原曲『The Windmills of Your Mind』は、西暦1968年/昭和43年に公開されたアメリカ映画『The Thomas Crown Affair』(邦題:華麗なる賭け)に使われ、アカデミー賞で主題歌賞を獲得した曲です。

フランス人Michel Legrandミシェル・ルグロンの作ったメロディーに、アメリカ人Alan Bergmanアラン・バーグマンとMarilyn Bergmanメアリリン・バーグマンの夫婦が歌詞を付けました。

歌詞の中には「like ▲▲(▲▲のように)」という表現が畳みかけるように出てきます。

「Like a circle in a spiral(螺旋の中の円のように)...」とか「Like a snowball down a mountain(山を下る雪玉のように)...」など円や円運動をするものが列挙され、最終的に「Like the circles that you find in the windmills of your mindあなたの心の風車にある円のように」というように、題名にあるthe windmills of your mindに収束します。

その後いろいろな歌手が取り上げましたが、元々歌ったNoel Harrisonノウアル・ハリスンの動画で歌詞をご確認ください。
https://www.youtube.com/watch?v=YFfPou9u5bI

フランス語版はフランス人Eddy Marnayエディ・マルネが作詞しました。

英語版の「like ▲▲」と同様に「▲▲のように」を表す「comme ▲▲」を使っています。

川に小石を投げ入れると同心円状の波紋がいくつもできますが、そんな「Comme une pierre小石のように」「Tu fais tourner de ton nom tous les moulins de mon cœur君は自分の名前で私の心の風車を回す」と着地する仕掛けになっています。

作曲者ミシェル・ルグロン自身が歌っている下記の動画につけられている字幕は画面の上下に2言語が出てきます。下がフランス語の歌詞で、上はその英訳です。(オリジナルの英語歌詞ではありません)
https://www.youtube.com/watch?v=Bs8jjbJ6dLY

獅子心王

イングランドの国王リチャード1世は「獅子心王」とも呼ばれた、と世界史で習った方もいらっしゃるでしょう。

「[1157~1199]在位1189~1199。ヘンリー2世の三男。即位後、第3回十字軍に出征。帰国後、フランスでフィリップ2世の軍と交戦して戦死。勇敢・寛大で、中世騎士の典型とされた。獅子心王。」(小学館大辞泉)

「獅子心」は英語lionheartの訳語です。

イングランド王室の紋章、そして現在のイギリスの国章には3頭のライオンが描かれていますが、元々1頭だったライオンの絵柄をこの獅子心王が3頭に増やしたそうです。

イングランド・サッカー協会の紋章はこの3頭のライオンを主要な要素としており、代表チームのユニフォームの《心臓》の位置にも描かれています。(下記の画像をご覧ください)
https://web.gekisaka.jp/relatedarticle/photonews?player_id=54313&news_id=373408&photo_no=1&page=1

お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。

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