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花嫁とTRAIN

自動車競技Fromula One(F1)が開幕を迎えました。

ホンダが製造し、「Red Bull Powertrainsレッド・ブル・パワートレインズ」のバッジの付いたパワー・ユニットを搭載して出走したレッド・ブル・レイシングの2台が1位と2位を独占し、もう1つの供給先チームであるアルファタウリは11位と14位という結果でした。

前回の投稿に引き続き、powertrainという単語を構成する要素の点検をします。

今回は後ろの要素「train」です。この言葉は「引き摺(ず)る」に由来しています。

引き摺られるもの、連続するもの

裾(すそ)

我が国の「十二単(じゅうにひとえ)」の裾も引き摺るほど長いですが、現代においても西洋風「花嫁衣裳」が裾を引き摺る長さである場合があります。

下記のリンクをクリックすると、"wedding dress train"をキーワードに画像が検索されます。「ああ、こういうヤツね」と確認してください。
https://www.google.com/search?q=%22wedding%20dress%20train%22&source=lnms&tbm=isch

これをtrainと呼びます。

「a wedding dress with a long train
長くすそを引いたウェディングドレス.」
(研究社新英和中辞典)

「adjust the bride's train
ウェディングドレスの長いすそを調節する」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

日本語で「ウェディングドレス 裾」と検索すると、(別にtrainと入力したわけでもないのに)ヒットしたページに「トレーン」とカタカナ表記で出てくるものも多いのです。ブライダル業界ではよく知られたtrainの意味なのでしょうか。

孔雀(くじゃく)などの「垂(た)れ尾」もtrainです。ウェディング・ドレスの裾に似ていなくもないですね。

小倉百人一首にも採録されている、柿本人麻呂の歌が想い起されます。

「あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を ひとりかも寝む」

雉(キジ)の仲間である「山鳥」という品種は雄の尾羽が長いのが特徴です。その知識の有る人が「山鳥」という言葉を聞くと、頭の中ではその尾の長さが浮かんでくるわけです。

「夜になると谷を隔てて独り寂しく寝るという山鳥の長く垂れた尾のように、長い長いこの夜を、私は独り寂しく寝るのだろう。」
ウィキペディア

互いに繋がっている機械部品

「a train of gears
一連の歯車」
(大修館書店ジーニアス英和大辞典)

さて、powertrainのtrainはこの意味であると思われます。

現在のF1においては原動機はハイブリッド方式になっていますが、そこから生み出された力が変速機(transmission)、駆動軸(drive shaft)、差動装置(differential gear)、車輪の軸(axle)などを経て最終的に地面に伝わって車が動くわけです。

そうした一連の機械部品をまとめてpowertrainと呼びます。

随行者、従者

trainには

「[集合的に] 供回り,従者,随行員」(研究社新英和中辞典)

という意味もあります。

「the queen and her train
女王とその随行者.」(同)

「主」たる人に従って行動する人々です。

結婚式において「主」の片方である花嫁をサポートする付き添役のひとりひとりをbridesmaidと、一方花婿側の人をgroomsmanと呼びますが、そのほか演出に参加する小さな子供達を含めた人々をひっくるめて、集合的にbridal trainと呼ぶようです。(日本語で何と言うのかは判りません)

以下のリンクは"bridal train"をキーワードに画像を検索するものです。
https://www.google.com/search?q=%22bridal+train%22&source=lnms&tbm=isch

花嫁の周囲に、色・形を合わせたドレスを着た人々(bridesmaids)が並んでる画像が多く見られます。

(尚、少数の画像ながら先ほど取り上げた長い裾のことをbridal trainと表現しているものもありました)

人の列や車列などもtrainとうい単語の守備範囲です。

「a train of vehicles [mourners, camels]
車[会葬者,ラクダ]の列」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

F1その他の競走において、前を行く車が相対的に遅いにも関わらず、追いかける方の車(複数)がなかなか追い抜けない場合に数珠つなぎが起こりますが、この車列もtrainと表現されます。

列車

一番なじみのある「列車」です。

「bride train」という言葉で表されるのは「花嫁を運ぶ列車」なのですが、この場合の花嫁は「war bride」です。

「戦争花嫁(せんそうはなよめ、英: war bride)は、戦時中に兵士と駐在先の住民の間で行われた結婚に言及する際に使われる言葉で、通常、兵士と結婚した相手のことを指す。(中略)
「……第二次世界大戦中にオーストラリアにある基地の米軍人と結婚した、15,000人ものオーストラリア人女性が、夫に付いてアメリカに移住した」と推測されている。」
ウィキペディア

この花嫁を港まで運ぶ目的でオーストラリアでは戦後、bride trainが何回か運行されたとのことです。

ここからは余談ですが、アメリカのバンドthe Doobie Brothersザ・ドゥービー・ブラザーズの『Long Train Runnin'』(西暦1973年/昭和48年)ではギターが、同じくアメリカのthe Pat Metheny Groupザ・パット・メシーニ・グループの『Last Train Home』(西暦1987年/昭和62年)ではドラムが、列車が一定速度で走っている様子を摸しているようです。

『Long Train Runnin'』
https://www.youtube.com/watch?v=CVsLEI-hCXw

『Last Train Home』
https://www.youtube.com/watch?v=908kjmbjABI

同じくアメリカのバンドJourneyジャーニーの『Don't Stop Believin'』(西暦1981年/昭和56年)は、題名にはtrainが入っていないものの、trainを使って新たな土地へと向かう若者たちが歌詞に出てきます。

以下の動画の0:48辺りから始まるギターが、加速する列車の音を表現していると思われます。
『Don't Stop Believin'』
https://www.youtube.com/watch?v=VcjzHMhBtf0

出来事や考えの連続

より抽象的な使い方です。

「An unlucky train of events prevented this.
不幸な出来事の連続でこれは実現しなかった.」
(研究社新英和中辞典)

「The sound interrupted my train of thought.
その物音で私の思考の流れが中断された.」
(研究社ルミナス英和辞典)

英語のtrainはフランス語から入ってきたのですが、その「本家」でもtrainが「連続」を表すことができます。

フランス語には「be+ing」のような進行形という形式がなく、英語だったら現在進行形にするところを現在形で表現する、ということになっています。

「Il 【joue】 au tennis 《maintenant》.
彼は《今》テニスを【している】。」

これは英語だったらHe is playing tennis now.と進行形にするところですが、ここでの動詞joueは単純な現在形です。少なくとも活用の形からは、次の文のような「英語でも現在形にするもの」と同じになります。

「Il 【joue】 au tennis 《le dimanche》.
彼は《日曜日には》テニスを【する】。」

もっとも、「▲▲している最中だ」という意味合いを特に出す表現を使ってはいけないということはないので、「連続」の意のtrainを用いて言うことが可能です。

「être en train de+不定詞
(1) …しているところである,しつつある.
Il est en train de lire.彼は読書の最中です.」
(小学館プログレッシブ仏和辞典)

実際の仏文でよく見かける形であり、このtrainを「列車」だと誤解しないことが大切です。

訓練する

「引き摺る」から派生して、「引っ張っていく」⇒「従わせる」という流れで、動詞用法の「訓練する」「鍛える」「仕込む」が生まれました。「トレーニング」の話です。

「列車」のtrainと「訓練する」のtrainにはちゃんと意味的なつながりがあるわけです。

直接目的語の後に何を持ってくるか

「▲▲を◆◆に備えて訓練する」なら前置詞forの句を置いて「train ▲▲ for ◆◆」という構造にします。

「He trained lions for a circus.
彼はライオンをサーカス用に調教した.」
(研究社ルミナス英和辞典)

何の分野について訓練するのかはinの句です。

「Parents should train their children in table manners.
親は子供にテーブルマナーを教育しなければならない.」
(研究社ルミナス英和辞典)

訓練した結果できるようになることはtoの句で表します。

「The dog was trained to the hunt.
その犬は狩猟に慣らされた.」
(研究社新英和中辞典)

訓練した結果その人が何になるのかはasで導きます。

「These young people are being trained as nurses.
この若者たちは看護婦[士]として養成されている.」(同)

to不定詞が来て、「◆◆するように訓練する」と言うことも可能です。

「We train our students to be good engineers.
わが校では学生が立派な技師になるように訓練する.」
(研究社ルミナス英和辞典)

ここまでは訓練を施す側が能動態の主語でしたが、訓練を受ける側を主語にするのが、再帰代名詞を使う方法や自動詞用法です。

「train oneself for a boat race
ボートレースに備えて体を鍛える.」
(研究社新英和中辞典)

「They trained for special work.
彼らは特別な仕事の訓練を受けた
He is training as a teacher [to be a teacher].
彼は教師になるための教育を受けている」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

training

-ingの付いたtrainingは名詞となり、社会人ならon-the-job training実地研修(略してOJT)という言葉はお馴染みかと思います。

ちょっと意外な意味として「体調、コンディション」というのがあります。

「in training」の字面からは「訓練に入っている」、つまり「訓練を受けている」ことを表していると見えますが、実際その意味でも使うものの、文脈によっては何らかの競技に向けて訓練を積んできた選手の「コンディションが良い」という意味にもなります。

「athletes in top training
(最高にコンディションが良い運動選手たち)」

反対に「コンディションが悪い」ならば「out of training」となります。

trainer

-erが付いているので「訓練を施す側の人」であり、動物の「調教師」や運動の「コーチ」といった人々です。

「受ける側の人」であるtraineeとは対義語です。(「employer雇傭主」と「employee従業員」の関係と同じ)

そのような「trainingを主導する人間」の他に、「trainingで用いる物」のことも表し、「training shoes」のことを単に「trainers」と言ったりします(イギリス用法)。

また、航空機の操縦訓練で用いる「練習機」もtrainerです。

航空自衛隊の曲技飛行隊「ブルーインパルス」が展示飛行で使っている飛行機は戦闘機ではなく練習機です。機種名は「T-4」ですが、このTがtrainerを表しています。(自衛隊の航空機の名前は米軍航空機の命名規則を準用しています)

お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。

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