STEPと現実社会との色々なつながり
「エフワン」とは秋の季語ではないかと思うほど、鈴鹿でのレースはその時期に定着していましたが、今年からは桜の季節の開催となりました。
「「2024 FIA F1世界選手権シリーズ MSC CRUISES 日本グランプリレース」が4月5日~7日の3日間にわたって鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)で開催されている。6日の午後には日曜日の決勝グリッドを決定する予選が行なわれた。
鈴鹿サーキットにおける日本GPは、1987年の初回から9月~11月という秋のタイミングで行なわれるのが通常だったが、2024年から第4戦と時期を変更して行なわれることになった。」
https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1582302.html
本日の予選の結果、明日の決勝で1番前の位置からスタートできるのはMax Verstappenマックス・フェルスタッペンとなりました。
「フェルスタッペン選手は1分28秒197をマークし、2位のチームメイトであるペレス選手を0.66秒引き離して36回目のポールポジションを獲得した。これでフェルスタッペン選手は開幕以来4連続ポールポジション。」
ある程度以上の年齢の方なら、彼の父親Jos Verstappenヨス・フェルスタッペンもF1に参戦していたことをご記憶かもしれません。
この2人以外にも自動車競技経験のある人がたくさんいる一家だとのことですが、このVerstappenという名字を分析してみましょう。
これはオランダ語で「van der stappen」が約まった形だそうで、「from the steps」とか「of the steps」という風に英訳できます。
複数形であるstappenの基本形はstapであり、このオランダ語と英語stepは同源です。
これにちなんで、今回の投稿では英語stepの用法を確認するところから出発します。
英語step
動詞用法
動詞としての「足を踏み出す」という意味をまず確認しましょう。
「I stepped into [out of] the boat.
船に乗り込んだ[から降りた]」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)
この例文では「踏み出し先/踏み出し元」を前置詞into/out ofの句で述べているのが判ります。
「面で接する⇒圧力」のニュアンスのある前置詞onを使うとこんな感じです。
「He stepped on the brakes [my heart].
彼はブレーキを踏んだ[私の心を踏みつけにした]」(同)
方向を表す副詞と組み合わせることもよくあります。
「step aside
わきへ寄る
step forward [back]
前進する[後退する]」
(研究社英和中辞典)
副詞upは「上に」でおなじみですが、「接近」の意味にも使います。
「step up
上がる, 登る
step up to a person
人に歩み寄る」(同)
Paul McCartneyポール・マッカートニーとMichael Jacksonマイクル・ジャクスンの歌う『Say Say Say』(西暦1983年/昭和58年発表)。
音楽ビデオも制作されましたが、その中では2人や、ポールの当時の奥さんLindaリンダが芝居を演じています。
冒頭、飲むと力が出るという何やら怪しげな飲み物を路上販売する場面が描かれます。
「Linda: Ladies and gentlemen, may I have your attention please. Gather round, come on, gather round.
(皆さん、注目してください。こちらの周りに集まってください。さあさあ、集まってください)
Paul: Step right up, step right up, come on ladies and gentleman, gather round.
(ずいっと近寄ってください。さあさあ皆さん。集まってください)」
『Say Say Say by Paul McCartney and Michael Jackson』
https://www.youtube.com/watch?v=aLEhh_XpJ-0
動詞stepに副詞upが組み合わされて「歩み寄る」となり、副詞rightがupを強調するという構造です。
辞書にもstep right upが載っていました。
「〔Step right up〕(呼び込みで)寄ってらっしゃい見てらっしゃい」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)
さてupの反対語downとstepの組み合わせ表現には、文字通りの意味「降りる」の他に比喩的なものがあります。
「A stalled maglev train project connecting Tokyo and Nagoya might regain momentum after Shizuoka Gov. Heita Kawakatsu, one of its biggest opponents, announced plans to step down.
(東京・名古屋間を結ぶ磁気浮上式列車事業が立ち往生していたが、その計画の最大の敵対者の1人である静岡県知事川勝平太が辞任する計画を発表したので、勢いを取り戻すかもしれない)」
https://asia.nikkei.com/Business/Transportation/Japan-maglev-back-in-spotlight-as-critic-leaves-governor-s-office?utm_source=Newswav&utm_medium=Website
引用元記事の中ではその後に「with Kawakatsu saying Tuesday he will resign at a prefectural assembly meeting in June(6月の県議会で辞任すると川勝が火曜日に言って)」という一節があって、step downがresignで言い換えられていることが判ります。
名詞用法
stepの名詞用法を繊細に分類していきましょう。
まずは「足の運び、歩」という意味から。
「take [make] a step forward [back, backward]
1歩前に出る[後ろにさがる]」
(研究社英和中辞典)
takeやmakeといった動詞と組み合わされてstepの動詞用法と同じような意味の文が作られています。
ここではstepは「行為」ですが、そうではないstepもあります。
「Steps were heard approaching.
足音の近づくのが聞こえた
I walked with long [rapid] steps.
大またで[急ぎ足で]歩いた」(同)
1つ目の文では「足音」を、2つ目では「歩調」を意味しており、歩むという行為で生み出されるものと言えます。
「turn one's steps toward [to]…
…のほうへ足を向ける.
It's only a step to the store.
店まではほんのひと足です」(同)
1つ目の文では「歩む方向」、2つ目では「1歩の距離⇒近距離」となります。
踏む行為の行われる場所ということで「踏み段」も「ステップ」ですし、踏み段のまとまりとしての「階段」をstepの複数形で表現したりもします。
「Each flight of stairs has 20 steps.
各階段には 20 の段がある.
He ran down the steps.
彼は階段を駆け下りた」(同)
ピラミッドと言うと、「金字塔」の別名の通り「金」の字に似た、スッとした三角形のような見た目を想像しますが、そうではない「階段ピラミッド」と呼ばれる種類のものも存在します。
この画像はジェセル王のピラミッドです。
この「階段ピラミッド」という日本語に対応する英語が「step pyramid」です。
そのほか、比喩的な使い方で「手段」とか「進捗」を言うことができます。
「We must take steps to prevent such crimes.
そのような犯罪を防ぐための手段を講じなければならない.
They made a great step forward in their negotiations.
彼らの交渉は大きく進捗した」(同)
「歩み」と関係のない「ステップ」
「意地悪な継母」
物語の中に登場する「意地悪な継母(ままはは)」という言葉。
「継母」は「父親の妻」ではあるものの、自分と血の繋がりは無い状況です。
これを英語ではstepmotherと呼びますので、何か「歩み」に関係あるのかなと思ってしまいますが、複合語を作る要素としてのこのstep-はこれまで述べてきたstepとは無関係です
地理の授業で習う「ステップ」
「半乾燥気候下の樹木のない草原地帯。本来は、シベリア南西部から中央アジアにかけて広がる大草原をさす。広義には北アメリカのプレーリー、アルゼンチンのパンパス、アフリカやオーストラリアの砂漠に続く草原などを含めていう」
(小学館デジタル大辞泉)
これはスラヴ系の言語からドイツ語かフランス語を経由して英語に入ってきた言葉です。
そしてつづりはsteppeであり、stepとは無関係です。
引用文に書いてある地名は、イングランド、あるいはもっと広く言って西ヨーロッパではない地域のものです。
それが西欧の人々に知られるようになったきっかけはAlexander von Humboldtアレクサンダー・フォン・フンボルトという博物学者の著作だそうです。
「フリードリヒ・ハインリヒ・アレクサンダー・フォン・フンボルト(Friedrich Heinrich Alexander, Freiherr von Humboldt, 1769年9月14日 - 1859年5月6日)は、ドイツの博物学者兼探検家、地理学者。兄がプロイセンの教育相、内相であり言語学者のヴィルヘルム・フォン・フンボルト。
近代地理学の金字塔、大著『コスモス』を著したことは有名。カール・リッターとともに、近代地理学の祖とされている。」
(ウィキペディア)
この「フンボルト」という名前。どこかで聞いたことがありませんか。
そう、「フンボルト・ペンギン」です。
このペンギンの棲息地はペルー海流の流れる地域なのですが、この海流の別名は「フンボルト海流」。
アレクサンダー・フォン・フンボルトが『コスモス』の中で紹介したことで命名されたようですが、彼よりも250年前にJosé de Acostaホセ・デ・アコスタというスペイン人博物学者が発見したんだそうです。
イタリア語passo
ダイハツの不正が大きな問題になっているのはご存じのとおりです。
「2023年12月20日
ダイハツ工業による認証申請における追加不正行為の判明ならびにトヨタ販売車両の出荷停止と今後の対応について
本日、ダイハツ工業株式会社(以下、ダイハツ)が、不正関連の調査を委嘱した第三者委員会(貝阿彌 誠委員長)より報告書を受領し、トヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)もダイハツより報告を受けました。
調査の結果、4月のドアトリム不正・5月のポール側面衝突試験不正に加えて、新たに25の試験項目において、174個の不正行為があったことが判明しました。不正行為が確認された車種は、すでに生産を終了したものも含め、64車種・3エンジン(生産・開発中および生産終了車種の合計)となっております。この中には、トヨタが販売している22車種・1エンジンが含まれております。」
https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/40238663.html
この「生産終了車種」の中に「パッソ」が入っています。
「パッソ(PASSO)は、ダイハツ工業が開発・生産し、トヨタ自動車が販売していたハッチバック型小型乗用車(コンパクトカー)」
(ウィキペディア)
passoは英語stepに相当するイタリア語の名詞です。
「fare un passo avanti
前進する;進歩する
Ho sentito dei passi per le scale.
階段を通る足音が聞こえてきた
tenere il passo
(行進で)歩調を保つ;(遅れないように)ついて行く
Abita a pochi passi da qui.
彼はここからすぐの所に住んでいる」
(小学館伊和中辞典)
先ほどstepの名詞用法の項目で見たような、「足の運び、歩」「足音」「歩調」「1歩の距離⇒近距離」といった使い方がご覧いただけたと思います。
フランス語pas
イタリア語passoと語源的つながりのあるフランス語pas(発音は「パ」)。
例によって「足の運び、歩」「足音」「歩調」「1歩の距離⇒近距離」の例文を掲げます。
「avancer d'un pas
1歩前へ出る
entendre des pas
足音が聞こえる
ralentir le pas
歩調を緩める
Il n'y a qu'un pas de la malveillance à la calomnie.
敵意から中傷まではほんの一歩だ」
(小学館プログレッシブ仏和辞典)
「faux pasフォ・パ」という表現は、文字通りには「踏み外し、躓(つまづ)き」を、比喩的には「失敗」のことです。
「faire un faux pas
足を踏み外す;過ちを犯す」(同)
これはそのまま英語に輸入されています。
「(社交上の言動の)過ち,過失,失策.
commit a faux pas 過失を犯す.
[フランス語 ‘false step' の意]」
(研究社英和中辞典)
仏語pasも英語stepと同様に「踊りのステップ」を表します。
「パ・ド・ドゥ(仏:Pas de deux、「2人のステップ」の意) とは、バレエ作品において男女2人の踊り手によって展開される踊りをいう。多くはバレエの中の最大の見せ場となっている。」
(ウィキペディア)
下記の動画はニーナ・アナニアシヴィリが『白鳥の湖』のPas de deuxを舞うところを収めたものです。
『Prima ballerina assoluta Nino (Nina) Ananiashvili - Swan Lake Pas de deux』
https://www.youtube.com/watch?v=TQV-E0ogSMM
pasはまた、「オパキャマラド」の「パ」でもあります。
「「クラリネットをこわしちゃった」(仏語原題:J'ai perdu le do あるいは J'ai perdu le do de ma clarinette)は、フランス語の歌曲を基にした日本の童謡。
著名な録音としては、1958年にフランスのフィリップス・レコードから発売された、フランスの歌手リュシエンヌ・ヴェルネ(Lucienne Vernay)とレ・キャトル・バルビュ(Les Quatre Barbus)の共演によるEP『Rondes et chansons de France No 4(フランスのロンドと歌 第4番)』に収録されたものなどがある。」
(ウィキペディア)
下記の動画がそのヴェルネなどが出した録音です。
『J'ai perdu le Do de ma clarinette』
https://www.youtube.com/watch?v=OqD2BqK6XSY
直訳すると「私は自分のクラリネットの《ド》を失った」ということになるでしょう。
で、肝心の「オパキャマラド」ですが、『Chanson de l'Oignon』という軍歌から拝借したものらしいですよ。
「玉葱の歌(たまねぎのうた、フランス語: Chanson de l'Oignon、/ʃɑ̃sɔ̃ də lɔɲɔ̃/)は、1800年ごろに生まれたとされるフランスの軍歌である。伝説によれば、ナポレオンの帝国軍に属する擲弾兵の間で生まれた歌である。マレンゴの戦いの前に、ナポレオンは何人かの擲弾兵が玉ねぎをパンに塗っているのを見つけた。彼は「栄光への道を歩むためには、玉ねぎに勝るものはない」と言ったという。」
(ウィキペディア)
『【和訳付】玉葱の歌 / La chanson de l'oignon【フランス軍歌】』
https://www.youtube.com/watch?v=p3BHyOhVXmE
「オパ」はau pasであり、辞書にはこう載っています。
「au pas
(軍隊が)足並みをそろえて;(馬が)並足で;(車が)徐行して.
marcher au pas
歩調をとって歩く
Allez au pas pour entrer dans le garage.
徐行して車庫入りしなさい」
(小学館プログレッシブ仏和辞典)
そして「キャマラド」はcamarade「仲間、同僚」ですので、「足並みをそろえて進もう、仲間よ」といった軍歌らしい歌詞ということになります。
お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。