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LOOKの視点

数日前コンビニに立ち寄ったところ、the Carpentersザ・カーペンターズも歌ったことのある曲『(They Long to Be) Close to You』が流れていました。(もっとも、BGM用の歌ナシのものでしたが)

この曲は、2月8日に逝去したアメリカの音楽家Burt Bacharachバート・バカラックの作品です。

バカラックの携わった作品には有名なものが数多くありますが、その中の一つに映画『Casino Royale(邦題:007/カジノ・ロワイヤル』(西暦1967年/昭和42年)の主題歌である『The Look of Love』があります。

こちらの曲も『(They Long to Be) Close to You』同様、相棒のHal Davidハル・デイヴィドが作詞を担当しました。彼の紡いだ歌詞の中にはlookという単語が何度か登場します。

「The look of love is in your eyes, a look your smile can't disguise.」

「The look of love, it's saying so much more than just words could ever say.」

「You've got that look of love. It's on your face, the look that time can't erase.」

ここでは一旦、lookをそのままにして仮の和訳(直訳調)を書いてみます。

「愛のlookがあなたの目の中にある。あなたのほほ笑みが隠すことのできないlookが。」

「愛のlook、それは言葉が語ることができるであろう程度よりもずっと多くを語っている。」

「あなたはその愛のlookを持っている。それはあなたの顔に付いている、時が消すことのできないそのlookが。」

それでは、lookという単語の再確認に入ります。

■主語が「見る」側である動詞用法

□人間が「見る」場合

lookを動詞として用いる場合、「見る」主体が主語の人間なのか、そうでないのか、という2つに大きく分けられます。

ここでは前者のタイプについて確認しましょう。これは以下のようなお馴染みの使い方が目白押しです。

「They looked at the poster on the wall.
彼らは壁のポスターに目を向けた」
「She stood up and looked around.
彼女は立ち上がって見回した」
「Someone yelled out, but she didn't look back.
誰かが大声を出したが、彼女は振り返って見はしなかった」
「He climed the tree and looked down.
彼はその木に登って見下ろした」

もう少し抽象的に使うこともあります。

「He looked after my dog while I was out.
彼は私の留守中に犬の世話をしてくれた」
「She is looking for a new job.
彼女は新しい職を探している」
「We are looking forward to seeing you again.
私たちはまたあなたに会うのを楽しみにしています」

これらの例では「見る」のは主語である「彼」「彼女」「彼ら」などです。(当たり前のことを言っていますが、しばらくお付き合いください)

□人間以外が「見る」場合

人以外もlookの主語となって「見る」ことがあります。それは建物などが「▲▲に面している」という場合です。

「The palace looks over a lake.
その宮殿は湖に面している」

□「見る」から発展して

「調べる」「確認する」という意味にもなります。命令文で使われ、lookの後にwh-系の言葉で始まる節が続くことが多いようです。

「Look what you've done.」

この表現について、辞書には「軽い非難」が込められていると註釈しています。つまり「自分のしたことを確認せよ」が「何してくれてんだ」というニュアンスで使われる、というわけです。

もっとも、西暦1980年/昭和55年に発表されたアメリカの歌手Boz Scaggsバズ・スキャッグズの曲『Look What You've Done to Me』では少し違うようです。

これはバカラック作品ではありませんが、映画で使われた歌という意味では共通しています。John Travoltaジャン・トラヴォルタ主演の『Urban Cowboy』です。

サビにおいて、題名と同じ歌詞が歌われた後に「Never thought I'd fall again so easily」が続きます。「再び(恋に)こんな簡単に落ちるとは全く思っていなかった」、そんな傷心の自分を再び新たな恋に向かわせた相手に向かってのセリフとなっているので、「何してくれてんだ」ではなく「よくぞしてくれた」という気持ちが込められていると考えられます。

【2月17日訂正】

上記の線で消した部分を撤回します。昨日投稿してから考え直しました。

昨日の時点では「男Xが女Aの裏切りにあったが、女Bと出会って再び恋に落ちた。そういう気持ちにさせてくれたyou=女Bに対して、よくぞしてくれた、という気持ちを込めてLook what you've done to me.と男Xは言った」という話だと思っていました。

しかし、よくよく考えてみると「男Xが女Aの裏切りにあったが、結局は女Aと縒(よ)りを戻した。you=女Aに対して、自分のしたことに目を向けてごらん、あんな裏切りにあったのだから再び君に恋をすることになろうとは思わなかった、と男Xは語った」の方が妥当な気がしてきました。こちらの方が映画のストーリーに沿うのです。

というわけでやはり、「Look what you've done.」は「軽い非難」の言葉で良いのだと思います。

以上訂正させていただきます。

【訂正、ここまで】

ライブ演奏の動画が投稿されていますのでご紹介します。とても良い演奏をしています。
https://www.youtube.com/watch?v=28V4iQwwNdo

■名詞用法:「見る」行為を言うlook

例えば…

「She took a good look at the picture.
彼女はその写真をよく見た」
「The Senator took a serious look into the matter.
その上院議員はその問題を真剣に調査した」

での使い方は 「見ること」や「調べること」であり、「見る」人は主語である「彼女」「上院議員」です。(当たり前のことを言っていますが、更にもう少しお付き合いください)

一方、辞書を開いて同じく名詞用法の所に載っている項目には「外観」があり、この「外観」をしている人・物は「見る」側ではないと思われます。次で詳しく確認しましょう。

■名詞用法:「見られる」ことに関するlook

□「外観」

「Do not judge a man by his looks.
見かけで人を判断するな.」
(研究社ルミナス英和辞典)

「the look of the sky
空模様.」
(研究社新英和中辞典)

「That suit has an expensive look.
あのスーツはいかにも高そうだ」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

これらの例では「彼」「空」「スーツ」の外観について語っていますが、「外観」とは…

「外側から見た感じ。表面に見える姿。見かけ。うわべ。外見。」
(小学館デジタル大辞泉)

です。

「▲▲の外観/見た目」というのは「▲▲を外側から見た感じ⇒他者が見た時に受ける感じ」ということなので、▲▲は「見られる」側の人・物ということになります。

□「表情」

「外観」が顔などに限定されると「表情」「顔つき」「目つき」などとを意味することになります。

「He turned to me with a puzzled look.
彼はけげんそうな顔をして私のほうを向いた.
a look that could kill
人を縮みあがらせる目つき.」
(研究社新英和中辞典)

そして「look of 《感情を表す語》」という一連のパターンがあります。

「There was a look of relief on his face.
彼の顔にはほっとした様子が見えていた.」
(研究社ルミナス英和辞典)

「a look of surprise [horror]
驚いた[恐怖に満ちた]顔つき」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

このパターンの仲間に「look of love」もあると考えられます。ですから前述の『The Look of Love』の歌詞のlookには「表情」という訳語を当てるのが適切だと思います。

この曲はオリジナルの発表以来色々な人が歌っていますが、カナダの歌手Diana Krallダイアナ・クロールの生演奏でご覧ください。こちらもとても良い演奏をしています。
https://www.youtube.com/watch?v=SQuDaIbpA1g

さて、「look of love」という表現を確認して思い浮かんだのが、百人一首にも入れられている平兼盛の短歌です。

「しのぶれど 色に出でにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで」

この「色」がlookに当たります。

「しのぶれど lookに出でにけり わが恋は ⇒ 秘密にしてきたけれど、表情に出てしまっていたのだなあ、私の恋は」

□「容貌」

「looks」と複数形にして「容貌、容色」を意味することもあります。

「keep [lose] one's looks
器量が衰えない[衰える].
Her good looks and charm made her the most popular actress of her day.
美貌と魅力で彼女は当時一番人気のある女優となった」
(研究社ルミナス英和辞典)

これも、looksの持ち主は「見られる」側です。

そしてこちらも「色」を含んだ短歌を想起させます。小野小町の有名な歌です。

「花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに」

文字通りには「桜花の色は褪(あ)せてしまったなあ」ですが、「私のlooksは衰えてしまったなあ」という気持ちが重ね合わされています。

■主語が「見られる」側である動詞用法

以上見てきた、「見られる」側の名詞lookに通じる動詞用法が、「You look happy.」などの「~に見える」です。

lookの後にくる補語は形容詞であるのがお馴染みですが、名詞のこともあります。

「He does not look his age.
彼は年齢ほどには見えない.
I don't like to look a fool.
まぬけと思われたくない.」
(研究社新英和中辞典)

「He looked the picture of contentment.
彼はまったく満足しきっている様子だった」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

■補足

主語が「見る」側である動詞用法に戻って少し補足しておきます。

「見る相手」を前置詞atで導く印象が強いlookですが、直接目的語になることがあります。次のような文です。

「He looked her in [into] the eye(s).
彼は彼女の目をじっと見た」(同)

直接目的語の人の顔や目などに焦点が当たり、eyeなどにはtheが付きます。

intoの後に行為を表す言葉が来ると、見ることによってその行為を直接目的語の人にさせる、という意味になります。

「The policeman looked him into silence.
警官は彼をじろりと見て黙らせた.」
(研究社新英和中辞典)

次の用法では直接目的語は見る相手ではありません。

「She looked her thanks.
彼女は感謝の気持ちを目で示した.」(同)

見ることで相手に伝えたい感情が直接目的語となっています。

【余談】

ここからはlookには関係ない話で、まったくの余談です。

バカラックの映画音楽には他に『Arthur's Theme (Best That You Can Do)』(西暦1981年/昭和56年)という曲があります。『The Look of Love』はアカデミー賞の歌曲賞に選ばれたものの最優秀賞とはなりませんでしたが、一方『Arthur's Theme』の方は最優秀賞を獲得しました。

バカラックと共に作曲陣の一人であった歌手Christopher Crossクリストファー・クロスが歌って大ヒット作となりましたが、この曲のビデオは①クロスが自身のバンドと共に歌うシーンと②映画『Arthur』のシーン(Dudley Mooreダドリー・ムアやLiza Minnelliライザ・ミネリが出てきます)を混ぜて構成されていました。
https://www.youtube.com/watch?v=qqGWOxu_H4I

ほんの2年前のことですが、飲食店のBGMとしてこの曲がかかった時に、「ドラムのこの感じは何か聞き覚えがあるな」と思って調べたところ、演奏しているのはアメリカのバンドTOTOのドラマーで、売れっ子スタジオ・ミュージシャンとして数多くの楽曲に参加しているJeff Porcaroジェフ・ポカーロであることが判りました。

ビデオの印象が強かったので、てっきりバック・バンドの面々が録音もしているものだと数十年間思い込んでいました。ウカツでした。ドラム以外の楽器も有名どころの演奏家が録音を担当しており、クロス以外は別人がビデオに出演していることになります。

時々こういうことがあるので、音楽ビデオを簡単に信用してはなりません。

先程名前を出したスキャッグズの別作品にも「別人が出演」しているものがあります。

『You Can Have Me Anytime』(西暦1980年/昭和55年)という曲は、巨匠Carlos Santanaカーロス・サンターナがゲストとして参加してギター・ソロを弾く、というのが売りの一つとなっています。ギターが歌っているような、とても良い演奏です。(Carlos Santanaという人物を中心とするバンドの名前がSantana)

その情報を知っている人がこの曲の音楽ビデオを見ると、「おやっ」という気持ちになります。ギターを抱えて映っているのがMichael Landauマイクル・ランダウという別人だからです。もちろん流れてくる音はサンターナが録音したままです。
https://www.youtube.com/watch?v=W4S7FPXQxtg

他の演奏者も含め、クロスの例と同様に、当時のスキャッグズのバック・バンドがビデオには出演しているようです。録音された音に合わせて弾いているフリをする、というと「簡単な仕事」のように思われるかもしれませんが、ランダウ自身も一流の演奏家ですので念のため申し添えます。

ランダウは『Arthur's Theme』でギターを担当したTOTOのSteve Lukatherスティーヴ・ルーカサとは家が近所で12歳の頃からの友人だそうです。またスキャッグズのバンドの中にはジェフ・ポカーロの弟であるベース奏者のMike Porcaroマイク・ポカーロも映っています。

お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。

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