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「まっすぐ」シリーズその1:DIRECT

今年2月のことですが、日本サッカー協会で人事に関する発表がありました。

「山本昌邦氏がナショナルチームダイレクター就任、A代表担当へ 反町技術委員長「熟知している。適任」
https://www.soccer-king.jp/news/japan/national/20230202/1734704.html
日本サッカー協会(JFA)の技術委員会は2日、山本昌邦氏がナショナルチームダイレクターに就任したことを発表した。
ナショナルチームダイレクターは男子A代表を中心としたチーム強化を担う。(後略)」

「ダイレクター」を元々のつづりで書けばdirectorであり、これは「ディレクター」とも読みます。2つの読み方がある、というだけであり、「ダイレクター」と読んでも「ディレクター」と読んでも意味が異なるわけではありません。

(「にっぽん」でも「にほん」でも「日本」に違いないことに似ています)

同じサッカー界で「ディレクター」の方を採用した例もあります。5年前の記事です。

「ジーコ氏が鹿島のテクニカルディレクターに就任!! 「一切の妥協はしません」とコメント
https://web.gekisaka.jp/news/jleague/detail/?249840-249840-fl
鹿島アントラーズは17日、選手、監督として同クラブで活躍したジーコ氏がテクニカルディレクターに就任すると発表した。契約期間は2018年12月31日までとなっている。(後略)」

とは言え、例えば「ダイレクトボレーをゴールネットに突き刺した」のように、「直接」のことを「ダイレクト」と言うのは日本語の中でかなり浸透しているので、「ダイレクター」と聞いて「何か直接な人?」であるかのような感覚になってしまうかもしれません。

今回はdirectについて見ていきましょう。

動詞direct

「向ける」

そもそもはラテン語の「真っ直ぐにする、支配する」をもとにした単語であり、それはつまり「正しい方向に向ける」ということでもあります。

「He directed his eyes toward the high-rise building.
彼はその高層ビルの方へ目を向けた
We directed our attention to the fact.
我々はその事実に注意を向けた」

この2例では「何を向けるのか」に当たる直接目的語は「目」や「注意」といったものですが、これが「手紙」や「荷物」などであればそれらを「▲▲宛にする」「▲▲に発送する」ということになります。

「The company directed the letter to his business address.
その会社は手紙を彼の勤務先宛にした」

「何を向けるのか」が人である場合、その人を「正しい方向に向ける」とはすなわち「道を教える」ことを意味します。

「Could you direct me to Tokyo Station?
東京駅への道を教えていただけませんか」

「指図」

文字通り「道」を教えることから発展してより抽象的に、「すべきこと」を教える⇒「指図する」「命令する」にもなります。

次の例文は「主語+direct+直接目的語+to不定詞」という構造です。

「The general directed the soldiers to treat the prisoners well.
将軍は兵士たちに捕虜をちゃんと扱うよう指図した」
(研究社ルミナス英和辞典)

この構造では将軍が兵士たちに直接指図することを含意するのですが、次のように「主語+direct+that節」とするとちょっと変わってきます。

「The general directed that the soldiers (should) treat the prisoners well.」

この場合、that以下のことを第三者に命じ、その指図が間接的に兵士たちに伝わることになります。「兵士たちが捕虜をちゃんと扱うようにせよ、と将軍は指図した」という感じです。

…といった具合に文法書では両構造のニュアンスの違いが説明されるのですが、次の文ではどうでしょう。

「He directed barricades to be set up around the building.
彼は建物の周囲にバリケードを築くように命令した.」
(研究社新英和中辞典)

「彼」が「バリケード」に向かって「築かれろよ」と指図をしているわけでないのは明らかなので、

「He directed that barricades (should) be built.」

と同じように「間接的」なのではないかと思います。

「監督」

正しい方向に向ける行為として「指導」「管理」「監督」というのもあります。

「Mr. Smith directed my research (project).
スミス先生は私の研究(計画)を指導してくれた.」
(研究社ルミナス英和辞典)

「direct the building of the new bridge
新しい橋の建設を監督する」
(大修館書店ジーニアス英和辞典)

「Who directed this film?
この映画をだれが監督したか」
(研究社ルミナス和英辞典)

「directする人」である「director」が、「管理者」「重役」「演出家」などを意味するのもうなずけます。

官職の名前でdirectorが使われている例として「Director of National Intelligence国家情報長官」をご紹介します。

「アメリカ合衆国連邦政府において情報機関を統括する閣僚級の高官である。インテリジェンス・コミュニティーを統括し、アメリカ合衆国連邦政府の16の情報機関の人事・予算を統括する権限をもつ。」
ウィキペディア

名詞direction

派生する名詞directionは今まで述べてきた動詞directとからめて考えれば簡単です。

「向ける」に対応するdirectionは「方向」「方角」です。

「in the opposite direction
反対の方向に
ask (for) [give a person] directions to the post office
郵便局への道をたずねる[人に教える]」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

その延長線上に「方針」「動向」があります。

「take a direction
方針を決める
the direction of modern art
現代美術の動向」(同)

「指図」に対応するdirectionの例を挙げましょう。

「at the direction of the boss
上司の指図で.」
(研究社新英和中辞典)

指図が書かれた書面、つまり「指示書」「説明書」などもdirectionです。

「Read the directions before using it.
それを使用する前に説明書を読みなさい.」(同)

最後に「監督」系のdirectionです。

「We feel the need of direction.
我々は指導の必要性を感じている.
The factory is under the direction of the government.
その工場は政府の管理下にある.」(同)

「the screenplay and direction of the film
映画の脚本と演出」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

サッカーには別の役割のdirectorがいる

冒頭で、サッカー協会の「ナショナルチームダイレクター」やクラブの「テクニカルディレクター」といった、組織の上層部でチーム強化に後方から携わるポジションの話が登場しましたが、試合中に活躍するdirectorもいます。

イタリア語で「registaレジスタ」です。元々は以下のような意味の言葉です。

「1 映画監督;演出家;(テレビやラジオの)ディレクター
2 組織者, 中心人物, まとめ役.」
(小学館伊和中辞典)

それがサッカーに使われるとき、試合中に中盤のやや後方を主戦場とし、そこから長短のパスを駆使してチームの攻撃をdirectしていく戦術眼を特徴とする選手に対する呼び名となります。

よく名前を挙げられるのはかつてのイタリア代表選手Andrea Pirloアンドレア・ピルロです。

そのdirectぶりを下記の動画でご覧ください。

『ピルロのパス集を解説 パスの前の視野と意図 天才の作業』
https://www.youtube.com/watch?v=2vTuyQCWMCU

お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。

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