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忠臣蔵はREVENGEの話か

12月14日はいわゆる「赤穂浪士討ち入りの日」でした。

(もっとも、時代劇が制作されることのめっきり減った昨今ではピンとこない人も増えているのかもしれません)

この日付はあくまでも旧暦のものですから、今の暦の12月14日ではありません。

元禄15年の12月14日は西暦で言えば1703年1月30日だったそうですが、旧暦と新暦の換算は単純な足し算・引き算でできるものではありませんから、「12月14日」が新暦の何日になるのかは年によって変わります。

例えば今度やってくる旧暦12月14日とは年を越して令和6年1月24日であり、前回は令和5年1月5日でした。

忠臣蔵が英語でどう説明されているか

ウィキペディア英語版で見てみますとこう書かれています。

「Chūshingura (忠臣蔵, The Treasury of Loyal Retainers) is the title given to fictionalized accounts in Japanese literature, theater, and film that relate to the historical incident involving the forty-seven rōnin and their mission to avenge the death of their master, Asano Naganori.」

avengeという動詞が使われているのが判りますが、「仇討ち⇒復讐ってrevengeじゃないのか」という疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。

辞書にはこう書かれています。

「revenge は個人的な憎しみ・悪意を動機とした仕返しをする;
avenge は不正・悪事・圧迫に対して正義感から当然の正当な仕返しをする」
(研究社英和中辞典)

なるほど、赤穂浪士の観点から言えばavengeで表すのが妥当かもしれません。

一方吉良家・上杉家にしてみればrevengeをされたと捉えるでしょう。

avengeの使い方

avenge、あるいはrevengeでもそうですが、「復讐」という話にまつわる要素は色々と存在します。

〔復讐を実行する側〕
〘誰(の魂)/何を救済するのか〙
【復讐を受ける側】
《何の恨みで行われるのか》

忠臣蔵で言えば…

〔赤穂浪士〕
〘浅野内匠頭〙
【吉良上野介】
《殿中での刃傷沙汰⇒内匠頭切腹⇒浅野家改易の一件》

こうした観点でavengeの用法を確認します。

まずは直接目的語に〘 〙が来る使い方です。

「〔Kuranosuke〕avenged〘his lord〙.
大石内蔵助は主君の仇を討った」

直接目的語が《 》であることも。

「〔The brothers〕avenged《their father's death》.
兄弟は父親の死の仕返しをした」

「〔She〕avenged《the wrong she had suffered》.
彼女は不当な扱いを受けた仕返しをした」
(研究社英和中辞典)

「▲▲に復讐する」という日本語から、avengeの直接目的語には【復讐を受ける側】が来そうな気がしますが、ご覧のようにそうなってはいません。

では【 】を表現するにはどうするか。

「〔He〕will avenge〘the people〙【on their oppressor】.
彼は迫害者をこらしめて人民のあだを討つだろう」(同)

「〔He〕avenged《the murder of his sister》【on her employer】.
彼は雇い主に対して妹殺害の復讐をした」
(大修館書店ジーニアス英和大辞典)

このように前置詞onを使って表現するわけです。

onは「面で接している」状態を表すものであり、そこから「圧力」的な意味合いも生まれてくるので、敵(かたき)を表すのに適した言葉です。

〘 〙が「自分自身」ならば再帰代名詞を使います。

「〔I〕avenged〘myself〙【on him】《for the insult》.
私は彼に侮辱された仕返しをした」(同)

《何の恨みで行われるのか》はご覧のように前置詞forが導きます。

この用法では受動態で言っても同じことです。

「〘I〙was avenged【on him】《for the insult》.」

ここでavengeの過去分詞avengedが出てきましたが、これを見て思い出すのがアメリカのバンド「Avenged Sevenfoldアヴェンジド・セヴンフォウルド」という名前です。

「アヴェンジド・セヴンフォールド(Avenged Sevenfold、略称: A7X)は、アメリカ合衆国で結成された5人組ヘヴィメタルバンド。(中略)
M.シャドウズはバンド名を、旧約聖書創世記の第4章24節の句 "If Cain shall be avenged sevenfold, truly Lamech seventy and sevenfold."に依ってつけた。ただし、バンド自体は特に宗教的な要素を出してはいない。」
ウィキペディア

「Cainカインが7倍avengeされるならば」とありますが、これまで説明してきた通りこの受動態の主語Cainは【復讐を受ける側】ではなく〘誰(の魂)/何を救済するのか〙に当たります。

いわゆる『旧約聖書』に出てくるこの文言は以下のような事情によるものです。

「そのとき神は、カインを助ける別の手段を考えた。カインを殺す者は7倍の復讐(ふくしゅう)を受けるであろう、と。」
小学館日本大百科全書

revengeの使い方

revengeの方は基本的に名詞として使いましょう。

「〔I〕'll take [have my] revenge【on him】《for this insult》.
この侮辱に対してはやつに復讐してやる」
(研究社英和中辞典)

もっとも、他動詞として使うこともないわけではありません。

「〔He〕revenged〘his dead father〙.
彼は亡き父のかたきを討った」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

「〔He〕swore to revenge〘himself〙【on his enemies】.
彼は敵に復讐することを誓った」(同)

ただし直接目的語に《何の恨みで行われるのか》を持ってくるのはavengeの用法とごっちゃになっている使い方のようなので、我々はやめておいたほうが良いのでしょう。

「〔He〕revenged《his father's death》.
彼は父を殺された恨みを晴らした」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

vengeanceとvendetta

revengeよりも文語的な「復讐」を表す名詞がvengeanceです。

「take[seek] vengeance【on them】《for his son's injuries》
彼らに息子が受けた負傷の復讐をする[しようとする]」
(大修館書店ジーニアス英和大辞典)

もちろん「venge」の部分が共通であることからお判りのように語源的なつながりがあります。

つながりという意味で、イタリア語から輸入したvendettaも同様です。

「1(殺された肉親などの)敵討ち,血の復讐,代々の恨み(◇特にかつてコルシカ島やイタリアの諸地方で行われたもの)
2(一般に)長年にわたる確執,抗争」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

このvendettaが題名に入った映画『V for Vendetta』というのがありました。

『Vフォー・ヴェンデッタ』(原題:V for Vendetta)は、2005年に製作されたアメリカ・イギリス・ドイツ合作映画。ワーナー・ブラザース製作・配給。アラン・ムーアとデヴィッド・ロイド(英語版)のグラフィックノベル『Vフォー・ヴェンデッタ』を原作としている。(中略)
原作はDCコミックスの成人向けレーベルヴァーティゴから出版された同名の漫画。」
ウィキペディア

仮面の男「V」が登場して政権に対抗する行動をとっていくのですがそれは、彼がかつて強制収容所に入れられ人体実験の被験者となったことへの「復讐」を行っているのだという筋立てです。

「ドはドーナツのド」ならぬ「VはvendettaのV」というわけですね。

語源的つながりでもう1つ

今まで見てきたvenge系の言葉はラテン語のvindicareが元になっているのですが、これの見た目をかなり残した単語が英語にあります。

vindicateです。

次の文では「〘 〙に対する疑いが不当であることを証明する」という意味です。

「〔Later events〕completely vindicated〘him〙.
その後の成り行きで彼に対する嫌疑は完全に晴れた」
(研究社英和中辞典)

「〔The decision〕vindicated〘his honor〙.
その判決で彼の名誉は回復された」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。

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