ヘルパンギーナにANGRY?
小さいお子さんのいるご家庭では関心が高いのではないでしょうか。
「乳幼児に多いヘルパンギーナ、過去10年で最多の患者数…18都府県で警報水準
https://www.yomiuri.co.jp/medical/20230704-OYT1T50180/
2023/07/04 20:07
乳幼児がかかりやすい夏風邪の一種「ヘルパンギーナ」の患者数が最近10年間で最多になったことが、国立感染症研究所が4日に公表した感染症発生動向調査(速報値)でわかった。
ヘルパンギーナは、38度以上の発熱と、口内にできる水ぶくれが特徴。(以下略)」
英単語としては「herpangina」とつづって、「ハーパンジャイナ」と発音するようです。
切れ目を入れるとすると「herp + angina」であり、前半部分は古代ギリシャ語の「hérpēs這(は)うもの、徐々に忍び寄るもの」、後半部分はラテン語の「angina扁桃炎(へんとうえん)」から来ています。
また、hérpēs(本来はギリシャ文字で書かれるわけですが、一般的なアルファベットに転写するとこのような表記になります)はそれ自体、別の疾病「ヘルペス」でもあります。(英語でのつづり・発音は「herpesハーピーズ」)
日本語では「疱疹(ほうしん)」となり、「単純疱疹」と「帯状(たいじょう)疱疹」に大別されるそうです。
anginaの方は、英語でもこのままのつづりですが、発音は「アンジャイナ」となります。
ラテン語で「痛みを起こす」とか「窒息させる」を意味する動詞から作られました。
形容詞anxious
その同じ動詞に由来する、anginaよりずっと馴染みのある英単語がanxiousアンクシャスです。
「心配という感情を抱いている側」を説明する場合
「We were anxious for [about] his safety.
我々は彼の安否を気づかった.
I'm anxious that he may [might] fail.
彼が失敗しないか心配だ」
(研究社新英和中辞典)
この2文ではanxiousは、be動詞を挟んで前にある主語weやIが心配を抱いていることを説明しています。(be動詞以外にも、補語を取ることのできる動詞でもOK)
一方、名詞に直にくっついて説明することもあります。
「An anxious mother brought her 3-year-old son to their family doctor.
心配した母親が3歳の息子を掛かり付け医に連れてきた
We saw her anxious face.
私達は彼女の心配げな顔を見た
She couldn't control her anxious feeling.
彼女は自分の心配な気持ちを抑えられなかった」
「人」であるmotherはもとより、「人の《部分》」と言えるfaceやfeelingを対象に使うことができます。
「心配を起こさせる側」を説明する場合
「Lack of funds was an anxious matter.
資金不足が心配な事柄だった」
「matterさんが心配している」わけではもちろんなく、反対に、不安をもたらしているものと言えます。
このタイプの使い方は「名詞に直にくっついて」のパターンのみです。
「不安なほど強く望んでいる」場合
「切望して」とか「強く願って」などという訳語が当てられる使い方があります。一見「心配」系の意味と関係ないようですが、望んでいることが達成できるかどうか、不安な気持ちがあるというニュアンスだそうです。
「be動詞などを挟んで、主語のことを説明する」パターンのみで使います。
「We are anxious for him to return home safe.
彼の無事帰還を心から願っている」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)
名詞anxiety
名詞としてはanxietyアンザイアティとなりますが、これも3つに分けてみます。
心配という感情
「My anxiety 【that she might leave me】 made it impossible (for me) to sleep.
彼女が私を置いていくのではないかという不安が私を眠れなくさせた.」
(研究社新英和中辞典、【 】は引用者が付けた)
【thatからmeまでの節】がanxietyと同格のものとして並べられ、不安の中身を具体的に述べています。
心配を起こさせるもの
「Her son was an anxiety to her.
彼女の息子は彼女の心配の種だった.」(同)
「彼女の息子=心配という感情」ではなく、「彼女の息子=心配を起こさせるもの」という点で、前の項とは違います。
不安なほど強い望み
「He has a great anxiety to succeed.
彼は成功を夢見ている.」(同)
anxiousの第3の項目と同様に「切望」というニュアンスを醸(かも)し出しています。
名詞angst
anxietyに当たるドイツ語Angstアングストを英語に借りたものがangstアンクストで、「不安」や「恐怖」を意味します。
「Many kids suffer from acne and angst.
(多くの若者が面皰(にきび)と不安に苦しむ)」
(Collins Thesaurus of the English Language – Complete and Unabridged)
名詞・動詞angerと形容詞angry
そしてangina、anxious、anxiety、angstと語源的つながりがあるのが、とてもよく知られているangerとangryです。
「怒りという感情を抱いた人」を主語に
「They heard a loud voice; the boy cried with anger.
彼らは大声を聞いた。その少年が怒りで叫んだのだ」(名詞anger)
主語であるthe boyがangerをwith、つまり伴っている(抱いている)状況です。
「The boy was deeply angered at the insult from her.
少年は彼女から受けた侮辱に酷く腹を立てた」(他動詞angerの受動態)
他動詞angerは「怒る」ではなく「怒らす」なので、the boyが主語ならば「怒らされた」ということで受動態になります。
「The boy got angry to find his bike stolen.
少年は自分の自転車が盗まれていると知って腹を立てた」(形容詞angry)
beやgetその他のSVC(主語+動詞+主語に対する補語)を形成する動詞が置かれ、angryはCとして登場します。
「怒りという感情を人に惹き起こす側」を主語に
「Her attitude of indifference angered the boy.
無関心が表れた彼女の態度は少年を怒らせた」(他動詞angerの能動態)
the boyに怒りを覚えさせる原因、つまり「怒らせるもの」が主語になっています。
「His girlfriend was late again, which made him angry.
彼女はまた遅刻したので、そのことが彼を怒らせた」(形容詞angryとmakeとの組み合わせ)
SVOC(主語+動詞+目的語+目的語に対する補語)を形成するmake(「~にする」の意)が来ていて、himに怒りを覚えさせる原因whichが主語になっています。
「怒りと言う感情を抱いた人の《部分》」を説明する場合の形容詞angry
「an angry look [face]
怒った顔つき
say in a low, angry voice
低い怒ったような声で言う
I came to angry words with him.
彼と口論になった」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)
「look/face顔つき」「voice声」「words言葉」はいずれも、怒りを抱いた人の《部分》と言えます。
ところで
ところで、英和辞典には「angry young men」という項目が立てられていることがあります。
「アングリー・ヤング・メン【Angry Young Men】
イギリスの劇作家ジョン・オズボーンの戯曲《怒りをこめてふり返れ》(1956)から生まれた言葉で,既成秩序に不満をもち,旧来の価値観を受け入れようとしない反体制的な青年を指す。〈怒れる若者たち〉と訳される。(以下略)」
(平凡社世界大百科事典)
アメリカの歌手Billy Joelビリー・ジョウルが西暦1976年/昭和51年に発表した曲『Prelude/Angry Young Man』では単数形のmanが使われています。
『Prelude/Angry Young Man - Billy Joel Lyrics [on screen]』
https://www.youtube.com/watch?v=bpMv76SIUhg
ジョウルが曲作りをした際にオズボーン作品を意識したのかは不明ですが、曲を聴いた人々の中には複数形の方の「angry young men」を思い起こした人もいることでしょう。
一方、戯曲の題名『怒りをこめてふり返れ』は元々の英語では『Look Back in Anger』です。
イギリスのバンドOasisが西暦1995年/平成7年に発表した曲『Don't Look Back in Anger』ではdon'tが付けられて否定命令文になっています。
『Oasis | Don't look back in anger | Canon in D | Lyrics』
https://www.youtube.com/watch?v=jZO_6PyDJSU
作曲者Noel Gallagherノウアル・ギャラガーがオズボーン作品を意識したのかは不明ですが、曲を聴いた人々の中には戯曲の方を思い起こした人もいることでしょう。
尚、oasisを「オアシス」とカタカナ表記するのはおそらくギリシャ語に由来する読み方なのだと思いますが、英語の発音としては「オウエイシス」なのでご注意ください。
お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。