「朝の階段」で登場人物が「開く」、「コーヒー」
2011.03.31 Thursday
「うわあああ……マジかよ」
エレベーターホールの横に貼られたA4サイズの紙を見て
俺は呆然とする。
早朝点検のため、9時まで乗れないらしい。
せっかく早朝出勤したというのに、ツイてない。
「もうちょっと早く連絡してくれよな……」
きっと貼りだしたのは昨日の夕方だろう。
整備会社に恨み事を呟きながら、非常階段への重いドアを開き
自分の部署のある15階まで昇る事にする。
いつもは眺めが良いなと思った場所でも、この時だけは恨めしい。
朝食を抜かした空きっ腹を抱え、デスクワークでなまってしまっている
俺の身体は、5階辺りを昇ったところでもはや息切れを起こしている。
「あれ? 先輩」
「ん?」
背後から声がかかり、振り返ると今年入ってきたばかりの新人の顔。
「今日は早いんですね」
「ああ、せっかく来たのにエレベーターのせいで重労働だよ」
じわりと汗ばんだスーツの中に風を入れようとして、パタパタとジャケットを
仰ぐと、そいつは息切れひとつしていない爽やかな笑顔を俺に向ける。
「あとちょっとでゴールですよ。頑張ってください」
「あ、ああ……」
さり気なく、俺に缶コーヒーを手渡すと、軽い足取りで俺を追い越して
昇って行ってしまう。
「若いっていーねぇ……」
プルトップを開け、ありがたくコーヒーで喉を潤す。
胃に優しい、ミルクたっぷりのカフェオレ。
「――ん?」
確か、いつもあいつが飲んでいるのはブラックのはずだ。
もしかして、俺が非常階段を昇るのを見て買って来たとか……?
「まさか、そんな……なあ……」
後輩としての優しさなのか、どうなのか。
イマイチ測りきれない態度にモヤモヤした、ある春の日だった。
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