事物起源本レビュー第一回【事物起源探究創刊号】
※松永英明個人誌『事物起源探究 創刊号』(2010年5月)より。
「事物起源」そのものをタイトルとした書籍が手元にあります。「事物起源探究」のバイブルともいえる本について、今回は戦後の三冊をレビューしてみます。
速水建夫『事物起源考』魚住書店
昭和八年(一九六三)二月十五日発行。このはしがきは熱く語る。
収録項目数は二四二一。日本史の用語集的な解説も多いが、「ミルクキヤラメル 大正三年四月森永太市がアメリカ見学中に学んだものにいろいろ工夫を加えて売り出したのが、はじめである」というような解説もある。多くは歴史解説であるが、著者の思想が盛り込まれている項目も多い。たとえば以下のとおり。
事物起源を考察することは、当たり前と考えられているものを再考するきっかけになる。そんなことを思わせてくれる一冊である。
紀田順一郎『近代事物起源事典』東京堂出版
平成四年(一九九二)九月三十日発行。近代に始まったものに限定しての事物起源で、一項目の解説がやや長く、読み物として読める。あとがきにはこう書かれている。
つまり、昭和・平成からの視点をもって、近代にはじまったものごとを振り返ろうという内容だ。
全一三七項目。その一部を抜き出してみると、アイスクリーム、悪女、運動会、映画、英語、駅弁、冤罪、温泉、ガイド、学生運動、駆落ち、傘、学校、菓子、看護婦、キッス、牛鍋、クリスマス、結婚式、戸籍、サッカー、潮干狩、自殺、自転車等々……。
花見のように必ずしも明治に「始まった」わけではない項目もあるが、近代においてどのように再解釈され、そして新たな歴史を刻んできたかがよくわかって楽しい。
そして、近代とそれ以前の「日本」には大きな断層があることも理解されるだろう。
楊蔭深『細説万物由来』九州出版社
中国で買ってきた本。「著名な文学評論家・民俗学家」である楊蔭深(一九〇八~一九八九)の代表作で、一九四五年に『日常事物掌故叢書』というタイトルで発行された。私が手に入れたのは二○○五年に改題して発起された分厚い本である。
全体は九章に分かれている。それぞれの内容は以下のとおり。
○「歳時令節」 年中行事や節句の解説。
○「神仙鬼怪」 一般に祀られている神仙や妖怪。
○「衣冠服飾」 中国の伝統的な服飾。
○「飲料食品」 茶、酒、飯、卵、油、蜜、肉など。
○「居住交通」 建物、道路、乗り物、飛行機まで。
○「器用雑物」 日用品。文房具や食器、物差し、便器など。
○「遊戯娯楽」 囲碁・将棋から歌謡、相声(中国漫才)、映画など。
○「谷蔬瓜果」 野菜・果物など。
○「花草竹木」ボタン、シャクヤク、バラ、竹、松、桐などなど。
かなり新しい事物も含まれているが、中国数千年の歴史を感じさせる項目が多い。日本の伝統的な事物でも中国から伝来したものは当然それなりの割合にのぼるわけで、日本伝来以前の姿を知るにはこういう本の存在は非常にありがたいところである。
節の数は一八九、ただし一節に複数の事物について書かれている部分もある。記述はやや読物的な感じで、章ごとにコラムも記載されている。中国語なので大変ではあるが、じっくり読んでみたい。
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