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一人一人にあったカカオで人生を味わう機会を作りたい――カカオイスト 佐竹拓磨さんインタビュー

 フリーランスSEとして活躍されながら、「カカオイスト」としても活躍する佐竹さん。二刀流をさらりとこなす佐竹さんに、カカオイストに至るまでの経緯や大事にされていることなどを伺いました。

ーーまず、「カカオイスト」とは?

佐竹 カカオイストは僕の造語です。昔から、自分をブランド化できたらいいなぁと思っていました。唯一無二でいたい、っていう欲望があったんだと思います。世の中にある肩書き、僕だったらメインはフリーランスSEっていう肩書きがあるわけなんですけど、必ずしもそこに自分を乗せる必要はないなって思っていて。せっかくカカオの情報発信をやるなら、独自の肩書きを作ろうと思っていたんです。「カカオマニア」だとなんか味気ないよなぁ、と考えてた時に思いついたのが「~イスト」という言葉でした。「~イスト」というと「アーティスト」とか「ジャーナリスト」とか、英語だと「〇〇な人」を表す語尾ですが、“その道を突き詰める人”みたいな意味合いも感じたんです。ならば、「カカオ」とつなげてしまおうということで「カカオイスト」という若干謎な肩書きが出来上がりました(笑)。

「一人一人にあったカカオとの出会い」をコンセプトに、CACAO MUSEUMというテイスティングのイベントを企画・運営したり、カカオの愉しみ方の提案や情報発信を行っています。

「CACAO MUSEUM」のロゴ

――カカオイストの活動に至った経緯をお聞かせください。

佐竹 実は体に気を使うようになったのが一番のきっかけでした。仕事をするうえで一番大事なのって体なわけですよ。より良いパフォーマンスを発揮するうえで心と体のメンテナンスは欠かせないと思っています。数年前は、カップ麺とかポテチとかばかり食べてましたし、毎日睡眠時間が4時間なんてざらでした。今思うと、よく無事に生きてこれたなぁと我ながらぞっとする生活を送ってました(笑)。もちろん、そんな生活を続けてたらいつかしっぺ返しを食らうことになります。自分の心や体が健康じゃないと、収入にも響いてきてしますし、「もっと体に気を使えばよかった」なんて思いながら人生を終えるのも嫌なので、コンディションは万全でいたいと思うわけです。

  さて、話は戻りますが、体のために食事や睡眠、運動についても学ぶようになり、その中で「カカオが非常に優れた食品である」ということを知りました。

 興味本位で、とあるチョコレート専門店のハイカカオチョコレートを食べたときに「カカオはこんなにも風味豊かなのか」と衝撃を受け、次第にカカオについて学ぶようになりました。

  一口にチョコレートといってもカカオの品種や産地・製造方法によってそれぞれ味わいが違うこと、想像以上にカカオの歴史が深いことなどを知っていくようになりました。

 それで、ある日友人のヨガレッスンに参加した時に、カカオの話を振ってもらうことがあったんですけど、意外とチョコレートの生産過程や味わいの種類ってあんまり知られてないんだなっていうところに気づいて。

 だったら、自分が食べ比べして勉強して得た知見をもとに情報発信していったら、皆さんのチョコレート選びの助けになるのではないかと思い始めたのがきっかけです。

ーー食事、運動、睡眠など、調べるとたくさんの情報が出てくると思うのですが、その中でなぜカカオに注目されたんですか?

佐竹 ギャップかな? チョコレートって、甘いお菓子だし、食べ過ぎたら太るっていう認識を持っている方も多いと思いますが、 実はそうじゃない。カカオそのものはむしろ血管や肌のアンチエイジング効果のほかに、認知機能や記憶力の向上などが期待できることが多くの研究で明らかになっています。そのうえ、カカオははるか昔の古代メソアメリカ文明から人々の生活にかかわってきたり、僕らが思っているほど繊細で収穫が難しい作物だったりします。その衝撃は大きかったです。

 カカオのことを勉強していくうちに、ワインみたいに「教養」になりえるなと感じました。たまたまその時教養として知っておいたらコミュニケーションでも活かせるかな、と思いワインの勉強も始めていました。

 もちろん、はじめのうちはカカオがこんなにも奥の深いものだと思ってもみませんでしたが、カカオには未知なる魅力がたくさんあることに気づき、大人の教養として広めていけたら面白いなとも思うようになりました。

チョコレート専門店にはさまざまな種類のチョコレートが並ぶ

ーーカカオイストとしてはどんなことをされていますか?

佐竹 僕はチョコレートの製造・販売は行わないことにしています。あくまでも一般に売られてるチョコレートをベースに、「情報と体験」という付加価値を提供するようにしています。

 最近だとチョコレートはいろんなメーカーが作るようになっていて、海外メーカーだけじゃなく日本でも鹿児島や長野、静岡、北海道など全国にクラフトチョコレートのメーカーがあるんですよ。世界のコンペティションに受賞している実力派メーカーも増えてきています。

 その中で、僕がわざわざチョコレート作りに参入する必要はないと思っています。市場としてはレッドオーシャンになりつつあるし、何よりも初期費用やランニングコストなどの参入障壁も高い。その代わりにカカオのテイスティングの楽しみ方を、ソムリエのような中立な立ち位置で提案しているところが、一番の特徴かなと思っています。

ーー先ほどイベント企画・運営もされているとお聞きしたんですが、どんな方が興味を持っていらっしゃるんですか?

佐竹 イベントには、20〜60代くらいの幅広い方に来ていただいています。男女比は半々ぐらいで、自分の知らない世界を知りたいっていう人が結構多い。

「チョコレートが好き」だったり「カカオの健康効果を知りたい」という人よりも、「自分の知らない世界を知りたい」という人が多い印象です。

 あとは、まじめで計画的に物事を進められる方や責任感、自己コントロール能力が高い方が多いように感じます。心理学用語で「誠実性」というんですが、仕事で成果を出しやすかったり、いい人間関係が築きやすい性格特性のことを指します。そういった方が多い傾向があるなと感じています。

テイスティングイベントの会場。
日差しが温かく、カカオをじっくり堪能できる重厚感あふれる空間が演出されている

――その理由は?

佐竹 イベントのコピーライトが知的好奇心を刺激するものにしているから、というのもあるかもしれません。

 ただ、僕が一番感じるのは、皆さん勉強熱心である、ということでしょうか。

 今は知り合いの方やその方からご紹介いただいた方に来ていただいているんですが、自分の知らない世界に挑戦してみたりとか、人生をよくするために熱心に勉強されている方がとても多いんです。僕のイベントの中でも皆さんがたくさん質問を投げてくださっているおかげで、大いに盛り上がっています。

――大事にされていることを教えてください。

佐竹 まず論文や引用参照元を必ず出すようにしています。これはそもそも当たり前ではあるんですけど、世の中のブログとかを見ていると参照元を掲載していない記事が結構多いなと感じています。

 論文の根拠を出すことが自分の主張の裏付けにもなるわけだし、参照元の論文を書いた人への誠意になると思っています。情報発信者として中途半端なことを発信したくないし、何より根拠をきちんと示すことは責務だと思っています。

イベント準備ではさまざまな資料を参照している

 2つ目がイシューファースト(issue first)で考える、ということです。issueとは、日本語で「問題」「課題」などと訳され、その対義語としてプロダクトファースト(product first)があります。プロダクトファーストは何かというと、「こんな素晴らしい製品を作りましたよ! 皆さん買ってください!」という、製品を先に出して買ってもらおうという考え方を指します。

 ご存知の通り、日本はものづくりが非常に得意で、日本工芸品や職人が作った製品は、その質の高さから外国の方からも高い評価を受けています。高度経済成長期以後の日本は、プロダクトファーストのビジネスでも十分に利益を上げることができました。しかしどれだけ企業が作った製品にハイクオリティーな機能をつけたとしても、その製品を使う消費者が必要としていない機能であれば、いずれその製品は買われなくなってしまいます。かつて日本を牽引していた大手企業のほとんどが、今となっては、見る影もなくなってしまった所以の1つです。

 街に出かけて、スーパーや大型ショッピングビルなどに立ち寄ってみると、数多くの製品や食品、お菓子などがこれでもかというくらい棚に並べられています。その全てを否定するわけではないのですが、そうした製品を見ていると、いつも「この製品は一体何を解決したくて生み出されたのだろうか」ということが頭の中をよぎってしまいます。

 対してイシューファーストは、「自分は世の中のここが問題だと思っています。そのために自分はこんな解決策を提示したいです」というアプローチを指します。

 僕が目指したいのは「美味しそうなチョコレート」「体に良いチョコレート」を作って売ることではありません。人々の課題に焦点を当て、解決策を示すことが僕の役割だと思っています。

 この活動をしていく上で、僕が課題だと感じている事は2つあります。

 まず1つは、あまりにも市場にチョコレートが出回りすぎていて、消費者が選びにくくなってしまっているのではないかという点です。

 チョコレートはどちらかと言うとプロダクトファーストな商品で、基本的に「おいしいチョコレートができたから売る」ものだと考えています。すべてがそうというわけではないかもしれませんが、チョコレート専門店では、その良さを伝えるために、風味や特徴、産地などについて書かれているのをよく見かけます。その取り組みはとても素晴らしいことですし、どの商品もおいしいのは間違いありません。しかし産地や専門用語に慣れ親しんでない方や、本来のカカオが様々な風味を持っているということを知らない方からすると、お金を出して食べてみるのはちょっと勇気がいることだと思います。また知名度の低いブランドは、バレンタインなどの特定のイベントが商戦期になるので、収益も安定しづらいのではないかと考えています。

 中立的な立場でチョコレートを提供し、食べ比べてもらうことで、カカオの奥深さとご自身の好みの傾向を知り、今後のチョコレートの選び方の参考になってもらえたらいいなと考えています。

 そして、もう1つの課題は、僕たち現代人の「今、この瞬間を味わう」という機会が減ってきているのではないかということです。

 僕たちは、日々締め切りに追われ、会議に追われ、スマートフォンの通知に追われる日々を送っています。その結果、人生を高めるはずのテクノロジーが、逆に僕たちから今この瞬間を奪ってしまってるとも思うのです。この話ももちろんテクノロジーの全てを否定したいわけではなくて、スマートフォンやSNSが普及したことで、僕たちの生活はとても豊かになってますし、一人一人の仕事が日本社会をより良くしているのも事実です。しかしあまりにもせわしなくなった結果、スマートフォンを見ながらや会議をしながら食事をしている方を見ると、どこか虚しい気持ちになってしまうのです。日本は世界でも上位10%に入るほどの物質的な豊かさを手に入れた一方で、本当の意味での「体験」を失いつつあるかなと感じています。

 カカオは面白いことに、ワインと同じように五感を通じてじっくり味わうことができるものです。じっくり味わうという体験が人生において貴重な宝物になると考えています。発信していく中で、一人一人にあったカカオとの出会いとその楽しみ方から、人生を味わう機会を作っていきたい。そこから、皆さんの日常生活にもつながっていけたら嬉しいです。

 自分が実現したい世界を作り上げるためには、時に人とは違うアプローチを考え実践していく必要も出てきます。決して口で語るほどラクな手段ではありません。だからといって「カカオの良さを知ってもらうためにオリジナルのチョコレートを作って販売する」というアプローチをとってしまったら、既存メーカーとの競争に足を踏み入れることになってしまいます。

 僕自身能力が高いと思っているわけではないので、自分一人の力ではどうにもならないようなこともたくさんあります。人とのつながりを大切にしながら、自分自身の成長も楽しみつつ、関わってくれる皆さんと全員でカカオの新しい価値を発見していけたらと考えています。

――最後に、今後の展望をお聞かせください。

佐竹 引き続きハイカカオチョコレートのテイスティングイベントはやっていきたいなと思ってます。これまで取り上げてきたチョコレートは氷山の一角でしかなくて、世の中には自分もまだまだ味わったことのないチョコレートはたくさんあります。カカオの生態はまだ知られていないことも多いですし、「産地は聞いたことあるけど、どんなところなのかよく知らないな」ということだってたくさんあります。そうしたカカオのバックグラウンドにも触れながら、「その人にあったカカオとの出会い」の場がつくれたらなと思っています。

テイスティングイベントで提供されるチョコレート。
2024年11月に開催したイベントのテーマは「東南アジア」。様々な国で生産されたカカオを使ったハイカカオチョコレートが味わえる

 プラスアルファで、食べ物や飲み物の組み合わせ(ペアリング)もやっていきたいなと思います。チョコレートがワインやコーヒーと相性がいいことは皆さんもご存知かと思います。しかし、歴史を紐解いてみるとカカオはスパイスや薬の一種として活用されていた時代もあるんです。文化としても今なお残っている地域もあって、例えばメキシコでは鶏肉にチョコレートのソースをかけた「モレ・ポブラーノ」という料理があります。今後はみんなで食材を持ち合って組み合わせの実験をしてみる、なんていう企画もできたら面白いのかなと思っています。

 他にも情報媒体の拡充も進めていきたいです。現在、Instagramとnoteを使って情報発信をしています。Instagramは「Cacao as Art」をコンセプトに掲げ、美術の展示会をイメージした空間づくりを進めています。

Instagram で投稿されているチョコレートの例

 noteではより詳細なテイスティングノートやカカオにまつわる情報などを発信しています。もっとカカオのことを深掘りしていきたい!という方向けにサブスクリプションコンテンツも展開しています。産地についての詳しい情報やテイスティングやペアリングの愉しみ方、さらにイベントに連携したコンテンツの発信を考えています。

note に掲載されている産地図鑑(トリニダード・トバゴ編)

 時間はかかってしまいますが、カカオの新しい魅力を少しでも多くの方に知ってもらえたらと思っています。(了)

取材後記
 
 カカオイスト・佐竹さんにカカオとの出会いをお聞きしつつ、こんなこともやってみたい! あんなこともやってみたら面白そう! と、アイデアが止まらない取材となりました。

 私も昨年の暮、佐竹さんのテイスティングイベントへお邪魔しました。アジアだけでもさまざまな国でカカオが生産されていて、国ごとの特徴的な風味や楽しみ方を知ることはもちろん、いっときいっときを味わうことを大切にするということを身を以て体感しました。佐竹さん自身の淹れたてのコーヒーとチョコレートの味わいは格別でした。
 
 便利な世の中になり、一人一人により可能性が広がる社会になってきたものの、私たちには豊かな不便さも必要なのかもしれません。

 その味わい深さをこれからもカカオを通して伝えていかれること、楽しみにしています。カカオのことは「カカオイスト・佐竹拓磨」にお任せあれ!

プロフィール

佐竹拓磨(さたけ・たくま)
1992年生まれ、長野県出身。新卒で携帯販売店の店舗スタッフとして入り、転職を機に上京。SE業務の傍らWEBマーケティングや新規事業立案にも携わり、2023年フリーランスSEの道へ。2024年から「カカオイスト」としてカカオの情報発信やイベントなどを主催している。

こんな人と繋がりたい!▷著作権や商標等の法律に詳しい方、お酒に詳しい方、イベントができるカフェやイベントスペースを運営している方、茶道などの日本文化に精通している方、そのほか自分の目指す目標に向かって前進し続けている方

▷記事中の Instagram や note は下記からもご覧いただけます。

Instagram:https://www.instagram.com/cacao_museum/







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