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ケア実践講座第2回/ユマニチュード①


ケア実践講座 第2回|ユマニチュード① 
日時|2024年8月17日(土)13:00〜16:00 
会場|川崎市多摩区役所生田出張所 
講師|イヴ・ジネスト(ジネスト・マレスコッティ研究所長)
   本田美和子(国立病院機構 東京医療センター総合内科医長 / 臨床研究センター 医療経営情報・高齢者ケア研究室 室長 )
内容| 
・ユマニチュードの基礎知識
・日常での活用方法


もし家族が認知症になったら…?これは誰もが考えたことがあることなのではないでしょうか?
厚労省の調べでは2040年には65歳以上の高齢者のおよそ15%、6.7人に1人が認知症になると予想されています。実際には現時点でそれ以上に多いと言われています。
いざその場面になった時、認知症の家族とどう接したらいいのか。もしみんなが幸せになるような接し方があるのなら…

ということで、ケア実践講座、第2回目となります。
今回のテーマは「ユマニチュード」です。
ユマニチュードという言葉、一般的にはまだ聞きなれない方も多いかもしれません。逆にケアの分野では大変興味を引くワードともなっています。

ユマニチュードは主に高齢者、認知症患者に用いられるケアの技法です。
高齢者以外にもコミュニケーションの方法として、様々な人と接する際に活用出来ます。
ユマニチュードは技法として確立しており、特別な誰かしか出来ないものではありません。誰もが学んで実践することができます。
今後様々な人と接していくことラーがユマニチュードの技法を活用することで初めて会う人でも心を開きやすくなったり、関係を作りやすくなったりするはずです。こと!こと?かわさきでは、アートコミュニケータがユマニチュードの考え方を身につけ、誰もが安心して参加できる場を育てる力をつけるために、この講座を企画しました。

お話しをしていただいたのはユマニチュード提唱者のイヴ・ジネストさんと日本のユマニチュード第一人者の本田美和子さんです。

まずは「見る」という技術から
ジネストさんから「2人1組になって、1分間、相手の目を見てください。」とことラーへ指示が出ます。

1メートルくらいの距離から、向き合った相手を見つめます。
普段、誰かと1分間もただ見つめ合うという状況はなかなかありません。ことラー同士でも少し恥ずかしいようです。
1分もたたないうちにジネストさんから「ちょっと短いですけどこれで一旦終わりましょう」と声がかかります。
なんとなくほっとした空気が会場に流れました。

引き続き、ある動画を見ていきます。
高齢のアルツハイマー型認知症患者を3人の看護師がケアしようとする場面です。
口の中をきれいにしようと試みますが、患者さんが叫ぶように拒否し、なかなかうまく進みません。患者、看護師双方にストレスがかかっているように見受けられます。
このような状況が日本、そして世界の病院で毎日起きているといいます。看護師さんはコミュニケーションが大事だとわかっていますが、どのように行えばお互いにとって気持ち良いケアになるのかをわかっていないだけだ、ジネストさんは言います。

そしてもう一度、ことラーへ向かい合うように声をかけます。
今度は更に近い距離に顔を近づけていきます。おでことおでこの距離が手のひらを広げたくらいの距離で見つめ合います。
なんとなくですが先ほどよりも気恥ずかしい空気が和らいだ気がします。

どうやらこの距離感がユマニチュードの技術の一部のようです。

そして先ほどの動画の続きを見ていきます。
先ほどの患者さんにユマニチュードの技法を身につけた看護師さんが接します。目線を合わせて、ゆっくりとした口調で話しかけています。そうすると患者さんは嫌がることもなくスムーズに口のケアを受け入れ、受け答えも柔らかな声で行っています。

まるで魔法を使ったかのような場面で動画が終わりました。今日の講義ではここで何が起きたのか、ということが話されていきます。

仲間に戻ってきてくれる
ジネストさんがユマニチュードを生み出した経緯や認知症の方へのコミュニケーションについて話が広がります。
この話の中で印象的だった言葉が認知症の方が「私たちの仲間に戻ってきてくれる」という言葉です。ユマニチュードの技術には「4つの柱」があります。その4つとは「見る」「話す」「触れる」「立つ」です。その中で歩いたり、身体を動かすなどの「立つ」技術を活用することで脳のスイッチが入るのだそうです。別の動画で寝たきりになったり、しゃべらなくなった認知症の患者さんの様子が映されていました。その方へユマニチュードの技術を使うことで歩けるようなったり、少しですが言葉を発せられるようになったのを見て、まさに「戻ってきてくれた」という感覚を覚えました。
コミュニケーションを取ることが困難な相手と接することを諦めてしまうことは簡単ですが、効果的な技術を使うことでどんな人ともコミュニケーションは取れるようになるのではと希望を感じさせてくれる内容でした。
高齢の方から子どもたち、障がいの有無など多種多様な人々と接することラーにとって、この希望は重要な要素なのではないでしょうか。

思い通りの絵を描くには
その後もジネストさんからユマニチュードについての重要な話が次々に話されました。
いくつか挙げていきます。

ユマニチュードの技法というのはユマニチュードの哲学と、それを実現するための400を超える技術、この二つから成り立っているそうです。ジネストさんはそれを絵描きに例えました。「イメージはあるのに技術が伴わず、思い通りの絵にならない時はどうすればいいでしょうか?」
これをケアに置き換えると、ケアを行う側が愛や自由、やさしさといった要素が人間にとって大切とわかっていながら、ケアを行うときにどう接したらいいかわからず、ケアされる側が心地よくない状況が生まれることと共通する部分があります。
これらを解決する方法の一つには技術を磨く必要があるでしょう。
何事もそうかもしれませんが、熱意や気持ちだけでは形にならないものです。よい状況を生み出すには適切な方法を学び、取り入れる必要があるということをジネストさんは改めて示してくれました。

コミュニケーションが脳を育てる
他にはユマニチュードの「4つの柱」を与えられなかった子どもがどのような状況になるかということがわかるドキュメンタリーの動画を見ていきました。
こちらはルーマニアの孤児院で撮影されたものです。1960年代に国策として国民は子どもを増やすことを強いられ、結果、家庭で育てきれなかったたくさんの子どもたちが孤児院に捨てられる状況にありました。孤児院では人手が全く足りておらず、子どもたちは周りから愛情や情報が得られずにいたため、前頭葉が発達せず委縮していたそうです。
当時、この子どもたちの状況は先天性の障害とみなされていましたが、その後里子に出され愛情のこもったコミュニケーションをもって育てられたことで、彼らの前頭葉は発達していきました。
つまり、私達のコミュニケーションが相手の脳を育てるというのです。
これは認知症患者にも共通することで、コミュニケーションの方法次第で脳の動きは活発になり、認知機能も改善されることもあるそうです。

ユマニチュードと芸術
ユマニチュードの3つのアプローチの話もありました。
その3つとは宗教、科学、哲学です。ジネストさんはここに芸術を加えたいと言います。
「芸術というのは世界を理解するために大変有効なものです。
絵画であれ詩であれ、芸術というのは私が自分で行くことができないところに私達を連れていってくれるものです。」
芸術の三つのアプローチにプラスする考えはここ最近思い至ったとのことです。
「芸術は人生に対してとても重要な役割を持っているというふうに考えるようになりました。芸術は、私達の感情に働きかけ、感情は私達をどこかに連れていく、その駆動力になるんです。その感情こそが本当に欲しいものを選び取る力となっていくのです。」ともおっしゃっていました。

終始、ジネストさんはことラーが受け入れやすいようにアート、芸術と絡めてお話をしてくれたように感じました。
人が人として暮らしていくことに関して文化や芸術は欠かせないものです。
そういったものからコミュニケーションを生み出そうとすることラーの活動とユマニチュードの哲学は親和性が高く、ことラーに取ってユマニチュードが身近なものとして受け入れやすくなったのではないでしょうか。

最後も「見る」という技術で
ジネストさんから多くのメッセージを伝えていただき、ここで最後のエクササイズです。
またことラー同士で向かい合って、今度はお互いに相手の肩の上に手を置いて、そして優しさを込めた目で相手を見るように指示が出ました。「相手が自分の兄弟姉妹のように、友愛の情を持ってお互いの目を見てください」とことラーに声をかけます。

ジネストさんも何人かのことラーと見つめあい、コミュニケーションを取っていました。
講座が始まった時にあった会場内のぎこちない空気感はジネストさんと本田さんのフランクながら熱のこもったお話と、ことラーのユマニチュードへの少しの理解も相まって、だいぶなくなったように感じました。



その後、ことラー恒例のみんなで共有タイムです。

かなりの情報量だったため、ことラーの中でも色々な話が飛び交います。
ことラーの言葉ではっとしたものに「自分が将来、認知症を患う可能性はもちろんあると思うと、認知症でも生きやすい社会をいかに構築していくのか、改めて自分事として向き合っていきたいと思った。」というものがありました。ユマニチュードの技法について学ぼうとするとどうしても自分が誰かに行うという頭になりがちですが、もし自分がケアされる側に立った時にユマニチュードの哲学や考え方が浸透していれば生きやすい世の中になるのかもしれないと改めて思いました。
始めに書いた通り、近い将来、高齢者の6.7人に1人は認知症になると言われています。
今後もっと増えていく可能性が高いかと思います。そうなった時に家族だけではなく自分もその一人になることは大いにあり得ます。
その時にどういった世の中であってほしいかを自分事で考えられることラーに改めてすごいなと感じました。

最後に本田さんから次回への講座に向けて、ことラーへチャレンジしてほしいことを伝えます。
それは次回の講座までの間にちょっとでもいいから、家族や職場の同僚など周りにいる人たちに今日学んだことを意識的に使ってみてほしい、というものです。
本田さんのアドバイスとして、
・アイコンタクトの距離感は相手との関係性にもよる。
例えば職場で「近づいて目を見なきゃいけない」と至近距離で見る必要はない。
・職場などで机に座って仕事をしていて、同僚が話しかけてきたときにPCから目を上げずに返事をするということはよくあること。
それをやめて体の向きを変えて、アイコンタクトを取りながらお話してみましょう。
と、ことラーにも具体的な状況が想像しやすいよう、説明してくださいました。
そして、そういったことを今日の話を思い出しながら試してみて、次回、その体験談を教えてくださいという宿題が出されて、講座は終了しました。

今回の講座でユマニチュードの基礎知識、哲学の一端に触れたことラー。
次回も引き続き、ユマニチュードをより深く学んでいきます。
課題となる各家庭や身近なところでユマニチュードの技法を活用すること。自分の接し方で接する相手の反応が普段と変化が起こるのか。起こらないのか。起こった場合にそれはいい変化だったのか、よくない変化だったのか。
次に集まる際のことラーからどのような体験だったかを共有してもらいます。どんな話が出るのか、今から楽しみです。

このケア実践講座では社会のあらゆる人が心地よく安心してコミュニケーション出来る場づくりを目指しています。
今回、ことラーがユマニチュードを学ぶことでそんな場づくりに一歩近づいたのではないかと思います。

(こと!こと?かわさきプロジェクトマネージャー 財田翔悟)


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