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最期まで不器用な夫(フィクション)

死んだ後にこんなのずるいよ…。

最愛の夫が他界しました。
55歳でした。
家事育児は一切関わらない仕事人間。
家族旅行にも
あまり連れて行ってもらった記憶はない。
だけど、いつも家族のことを
考えてくれてたのは私は知っている。

夫の死因は胃癌で、
見つかった時は
もう手遅れだった。
余命宣告から2ヶ月で逝ってしまった。

数ヶ月経ったある日、遺品を整理していた。
充電が切れている夫のスマホを手に取って、
充電器にセットした。

充電が完了して、今までのLINEやメールのやり取りを見るのが辛くて開けなかったけど、
やっと落ち着いて見れるようになったので開いてみた。

さすが仕事ができた夫のメールは、
フォルダごとに、きちっと整理されている。

すると、1件のメールの下書きが気になった。そこには…

『面と向かって聞けないからメールで伝える。
仕事を退職する前に、
こんな体になってしまって、
君にはたくさん苦労をかけていることを
本当に申し訳なく思っている。

こんな私が君に質問するのも
おかしな話かもしれないが、
君は私と結婚して幸せだったか?

「いいえ!後悔しています!」という声が聞こえてきそうだな笑

でも私は幸せ者だった。
どんなに遅く帰ってきても、
温かい食事が用意されていて、
朝にはアイロンのかかった
ハンカチとYシャツ、弁当が出勤に
間に合うように準備されていた。
君が夜な夜なアイロンをかけてくれていた
姿をよく見ていた。
娘たちには、私の愚痴を吐くことなく
立ててくれてたな。
それを当たり前にしていたかもしれない。
こんな体になったからこそ
君の存在が私にとって
どれだけ大きいものだったのか、
今ならよく分かるよ。
面と向かってお礼が言えてなくてごめん。

こんなどうしようもない私と最後まで一緒に居てくれた。
本当にわがままでずるい自分だと思ってる

それでも来世は……』

というところで、メールは止まっていた。

私はスマホを握りしめ、
二つ折りになって号泣した。
娘たちの前では見せたことのない
涙の量だった。

この先が大事なところじゃないの。
ちゃんと言ってよ!と言っても
もう夫はそばにいない。

入院しているときにでも
綴ったメールだったのか。

本当に仕事人間で口数の少ない、
こうやって肝心なことは
いつも言ってくれない
不器用な夫だった。

この件は、
私もそちらの世界に逝ったら、
真っ先に怒鳴りつけようと思う。

だけど、
あなたはいつも
「私が何歳の時に、娘がいくつで〜」
とそんな計算ばかりしていたね。
朝早く出勤する前に、
娘が寝ていても
頭をヨシヨシと撫でて
出発していた姿は
忘れられないよ。

あなたは本当に家族思いの良い夫だったよ?
だから、来世でも私を見つけて、
また不器用なプロポーズをしてね!!

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