「影の向こうに見つけた小さな自信」
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放課後の校舎は、いつものざわめきが少しずつ静けさに溶けていく時間だった。陽菜（ひな）は校庭に面した廊下の窓から、サッカー部の練習を眺めていた。グラウンドの中央でボールを追う翔太（しょうた）の姿は、どこか輝いて見えた。
陽菜は彼が好きだった。けれど、その想いを口に出したことは一度もない。
「私なんかが翔太くんに釣り合うわけがないよね……」
小さな声でつぶやいたその言葉は、秋風にさらわれて、どこにも届かなかった。
「まだ帰らないの？」
声に驚いて振り返ると、美咲（みさき）が廊下の向こうに立っていた。彼女は陽菜の幼なじみで、どんなときも自信に満ちた態度が印象的だった。
「うん、ちょっとぼんやりしてただけ。」
陽菜は笑って誤魔化そうとしたが、美咲には見透かされていた。
「翔太くんのこと、また見てたでしょ？」
冗談めかした口調だったが、その優しい眼差しに、陽菜は少しだけ胸が締め付けられた。
「私なんかが、あの人に想いを伝えるなんて無理だよ。」
思わずそう言うと、美咲は困ったように眉を寄せた。
「何それ？陽菜、自分をそんなふうに言わないで。自信がないとか言ってるけど、翔太くんのこと、ちゃんと見てるのは陽菜じゃない。」
陽菜は答えられなかった。自信がないのは、美咲が言う通りだった。でも、心の中にある彼への気持ちだけは、本当だった。
その夜、陽菜は窓の外を眺めながら、スマホを握りしめていた。
「こんな私が、好きだなんて言ってもいいのかな。」
頭の中で何度もその問いが巡る。自分が持つ「好き」という感情は、相手にとって重荷になるだけかもしれない。そう考えると、怖くて動けなくなる。
翌日、放課後の校庭で翔太に声をかけられたのは、陽菜にとって予想外だった。
「陽菜、昨日も見てたでしょ？」
不意に言われたその言葉に、陽菜の胸は高鳴った。
「別に……ぼんやりしてただけ。」
そう答えると、翔太は笑った。その笑顔は、太陽みたいに眩しかった。
「陽菜って、すごくちゃんと人を見てるよね。俺、気づかなかったけど、頑張ってるって言ってくれる人がいると嬉しいんだ。」
その言葉に、陽菜は驚いた。翔太が自分の存在を見ていてくれたこと。それが彼女の心をそっと解きほぐした。
夕焼けが二人の影を長く伸ばしていた。陽菜は自分の影を見つめながら思った。
「自信がないなら、少しずつでいい。私のままで彼に近づいていけばいいんだ。」
夕日が校庭を包む中、陽菜はそっと微笑んだ。彼への気持ちは、いつか届くかもしれない。その時まで、自分をもう少し好きになれるように、一歩ずつ進んでいこう。
翔太の笑顔に背中を押されるように、陽菜は初めて、自分に少しだけ自信を持てる気がした。
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