「みんなに向けられた笑顔、その中の私」
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放課後の校庭は夕日の色に染まり、柔らかな風が吹き抜けていた。陽菜（ひな）は校舎の陰に立ち、グラウンドで友達と話している翔太（しょうた）の姿を遠くから見つめていた。
彼はいつも誰にでも優しかった。友達、後輩、先生にまで分け隔てなく笑顔を向け、誰とでも自然に話していた。それが彼の魅力でもあり、陽菜の胸を締め付ける原因でもあった。
「私にだけ向けられているわけじゃない。」
そう思うたび、陽菜は自分が小さく思えた。翔太の優しさが好きなのに、その優しさが自分を苦しめていた。
「陽菜、また翔太のこと見てたでしょ？」
後ろから声をかけてきたのは美咲（みさき）だった。陽菜の幼なじみで、何でも見透かされてしまう相手だ。
「別に。ちょっとぼんやりしてただけ。」
陽菜は笑って誤魔化そうとしたが、美咲は首をかしげながら言った。
「わかりやすいんだから。好きなんでしょ？」
その言葉に陽菜は俯いた。そして、ぽつりとつぶやいた。
「好きだけど……翔太くんって、誰にでも優しいじゃない？私だけ特別じゃないって思うと、どうしたらいいかわからなくなるんだ。」
美咲はしばらく考え込むようにしてから、優しく笑った。
「それが翔太のいいところなんじゃない？彼の優しさは、みんなに向けられるものだけど、陽菜が好きなら、きっと翔太も気づくと思うよ。」
その言葉は、陽菜の心の奥に小さな光を灯した。でも、簡単に割り切れるものではなかった。
次の日、陽菜は意を決して翔太に話しかけた。部活が終わった後のグラウンドで、彼はボールを蹴りながら空を見上げていた。
「翔太くん。」
声をかけると、彼は少し驚いたように振り返った。
「陽菜、どうしたの？」
その笑顔を見た瞬間、陽菜の胸が高鳴った。けれど、言いたいことはうまく言葉にならなかった。
「えっと……いつも、みんなに優しいよね。」
やっとのことでそう言うと、翔太は少し照れたように笑った。
「そうかな？でも、それが俺らしいって思ってるから。」
その言葉に、陽菜は彼の本質を垣間見た気がした。翔太の優しさは作られたものではなく、彼自身の一部だったのだ。それを知ったとき、陽菜は少しだけ安心した。
「ありがとう。」
自然とその言葉が出た。翔太が不思議そうな顔をしたけれど、陽菜はそれ以上何も言わずに微笑んだ。
夕焼けに染まる校庭を歩きながら、陽菜は思った。翔太の優しさはみんなに向けられるものだけれど、その中に自分も含まれている。それだけで、十分に幸せだと感じられる日が来るかもしれない。
風に揺れる木々の音が、静かな校庭に響いていた。陽菜の心にも、静かに風が吹いているようだった。
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