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「友情の影に揺れる恋心」

「友情と恋のあわいで」

放課後の教室は、夕日の斜光が机の上を横切り、穏やかな静けさに包まれていた。陽菜(ひな)は窓際の席でペンを走らせていたが、ノートの文字はどこか心ここにあらずだった。目を上げると、校庭の隅に翔太(しょうた)の姿が見える。サッカー部の練習が終わり、仲間と話しているようだった。

そんな彼の姿を見ているだけで胸が高鳴る。でも、その高鳴りのすぐ隣には、ズキズキとした痛みがある。隣の席の美咲(みさき)もまた、翔太のことが好きだと知っているからだった。


「翔太くんって、すごくかっこいいよね。」
昼休み、美咲は明るい声でそう言った。その無邪気な笑顔に、陽菜はうまく笑い返せなかった。

「そうだね、優しいし、誰にでも平等だし……」
自分の声が少し震えているのがわかった。美咲の目がキラキラと輝くたび、陽菜は自分の気持ちをさらに深く胸の奥にしまい込むしかなかった。

美咲とは、小学校の頃からの親友だ。彼女が笑うだけで場が明るくなるような存在で、陽菜にとって大切な人だ。それなのに、自分の想いがその友情を壊してしまうのではないかという恐れが、陽菜をずっと苦しめていた。


放課後、美咲が声をかけてきた。
「陽菜、一緒に帰ろうよ。」

二人で校門を出ると、校庭の隅で一人ボールを蹴る翔太の姿が目に入った。陽菜の胸がきゅっと締め付けられる。すると、美咲がポツリと言った。
「私、翔太くんに告白しようと思ってる。」

その言葉は、夕焼けの空に吸い込まれるように消えたが、陽菜の心には重たく響いた。友達として美咲を応援したい気持ちと、翔太への想いが交錯する。その狭間で、陽菜の心は揺れ続けていた。


家に帰り、ベッドに横たわりながら、陽菜は天井を見つめていた。翔太のことを思うと、どうしても自分の気持ちに素直になりたいという想いが湧き上がる。けれど、それを言葉にすることで美咲との友情が壊れるかもしれない。そう考えると、言葉が喉の奥で引っかかり、出てこない。

「どうしたらいいんだろう……」
彼女の呟きだけが静かな部屋に響いた。


翌朝、教室に入ると、美咲がいつものように笑顔で手を振った。その明るい笑顔を見て、陽菜はふと思った。
「たとえこの気持ちが伝わらなくても、私はこの瞬間を大切にしたい。」

翔太への想いも、美咲との友情も、どちらも陽菜にとってかけがえのないものだった。

校庭に朝日が差し込み、陽菜はそっと微笑んだ。自分の気持ちと向き合う日が来るまで、もう少しだけ、この揺れる時間を抱きしめていたいと思った。

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