なぜ性別のない人を描くのか?
画家の琴乎あおいです。
現在私が主宰するアイオライトのSNS企画展が開催中です。
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今回のテーマは中性または無性。
この機会に私の作品テーマについてお話します。
私は"性別のない人"というテーマを軸に作品を作っています。
※美少年テーマの展示の為に美少年を描くこともあります。それ以外の作品でも美少年と形容されることもありますが、それは見る側の自由な解釈で良いと思っています。
男女どちらにも属さない、曖昧なセクシュアリティを持つ体を理想美として掲げています。
「睡郷」2021年制作 油彩/パネル
私の描く人物に性器はありません。
女性の身体的特徴(胸のふくらみ、曲線的な体のライン)は排除しています。
それらは私にとって、自己嫌悪の象徴であるからです。
思春期から自分の体について沢山悩んできました。
小柄で丸い体と高い声が何よりコンプレックスでした。自分の体のすべてが受け付けませんでした。心は私なのに、体が私じゃないのです。
生理がくるたび、神様に「お前は女だ」と言われている気がして泣いていました。
女の体を持っていること自体が苦痛でした。
女がいやなら男になりたいのかも、と男性ホルモンを打ったら体がどう変わるのか、調べたことがあります。
髭が生える、体毛が濃くなる、声が低くなる、ガタイが良くなる、肌が油っぽくなる…
どれも欲しいものではありませんでした。
私が出した結論は、男にも女にもなりたくないでした。
しかし、何事も"ない"ことを体現するのは難しいものです。
何より私の体は女性です。痩せても体の曲線は削れないし、髪を短く切ってメンズの服を着ても、中性的な雰囲気というよりただボーイッシュな女の子になるのです。
自分が生まれ持った女性らしさを変えるのは現実的に難しい。
とにかく苦しい。この体を捨てたい。
絵を描き始めた当初は、女体への嫌悪感をぶつけたような作品を作っていました。
高校の卒業制作。女体への嫌悪と恐怖。当時、性的違和は思春期の一時的なもので成長とともに消えることがあると本で読みました。大人になったら自分が女性であることを受け入れ、当たり前のように結婚し子供を生んで女として生きているかもしれない。今苦しんでいることすら忘れるのではないか?と考え、未来の自分へのメッセージとして残そうと「17歳」というタイトルをつけました。
ある日のアトリエで。
展示に向けて作品を描こうと考えていたときに閃きました。
私がなりたい、美しい人を描けばいいじゃないか!と。
"女であることが苦しい"よりも"私はこうなりたい"を描けばいいじゃないか。
絵の中でなら、何でも好きに表現できる。
なれないなら描けばいい。生み出せばいい。
本当の私になれるじゃないかと。
何かがスーッと降りてきた感覚でした。
20号のキャンバスに夢中になって描き、ほぼ1日で描きあげました。
「X」2016年制作。アクリル/キャンバス
これを描いたあとは憑き物が落ちたようでした。
現実には叶わない性自認でもいい。
でも自分の理想とのギャップは確実に存在する。
その苦しみから自分の体を嫌悪するのではなく、理想は絵の中で形にし、叶えよう。絵の中でなりたい自分になろう。
そして、現実の体が理想ではなくてもこれが生まれ持った自分なんだから大切にしよう。
そんなふうに自分の心と体を認めてあげられるようになりました。
それまでは自分のセクシュアリティを他人に理解されないことにも悩んでいましたが、自分で自分を認めて絵に昇華することで、他人からどう捉えられても構わないと思えるようになりました。
「どうみても女なんだから認めればいいのに」「女がいやって、おなべなの?」そんな言葉にいちいち心が反応することなど、なくなりました。
私が私をわかっていればいい。なりたい自分を絵の中で叶えること、そして現実の自分を大切にすること、それだけでいい。
そんな思いで描いた絵を発表していると
私の描いた絵を見て、「こんな風になりたい。女性であることで苦しいことが沢山あった。美しいこの絵の世界にいたい。」と言ってくれる人がいました。
自分の為に描いていますが、私と同じように苦しんでいる人もいるんだと私まで救われました。
「綺麗な女性と思ったのに体が男みたいで残念。買わないよ。」という人もいましたが…
見た人がどう思うかなんて極論どうでもいいのです。
これからもなりたい自分を叶えるために、自分を愛するために、私は"性別のない人"を描き続けるしかないのです。
描くのは自分の為ですが、同じように苦しんでいる人がこの世に一人でもいるなら、あなただけじゃないよと言うために、また私の絵を好きだと言ってくれる人のために、描いた作品は発表し続けます。
どこかにいる、たったひとりのあなたに届けば良いです。