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檸檬とけん玉 【久しぶりのこもれび日記】

1.17 Friday

  • 朝から3つの授業を終えて、友人の著作の出版記念発表会に行く。
    アウシュビッツから生還したギリシャのユダヤ人1944ー1955年の軌跡を追う専門的なテーマ。
    地下1階の会場は、ユダヤ人らしい風貌の人々で満員。

  • 友人のスピーチの前に、3人の専門家が講演し、1時間半に及ぶセミナー。専門的なギリシャ語もなんとか理解できたことが地味に嬉しかった。でもこれは去年の夏、「溺れるものと救われるもの」を読んだことも大きい。あれは、なんて深い読書だったことだろう。

  • 同時に、それこそが今日のテーマだから当たり前なのだが、あまりにもユダヤ主観の歴史見解が延々と続くことに、少々引く自分がいる。

  • ギリシャもそうだけれど、絶対的被害者という立場、戦勝国により地位が護られ続ける立場の民には、常にわかりやすく非難すべき敵が与えられる。ギリシャの全小学校にもれなく、娘たちの通った学校でもドイツを、唾棄すべき完全悪として描く寸劇が毎年、毎年繰り返し演じられ、当時の悪を糾弾する。追撃の手をゆるめないヨーロッパの一貫性に言葉をなくす感情の底には、尊敬とともに、どこか言葉にできない、なんというのだろう、娘たちにはこれのみの思考には染まってほしくないという、西洋では絶対に口にしてはいけない思い。

  • 「悪」を他者の中に糾弾する教育に、疑問を感じるのは、「悪」を自身の中に認めざるを得なかった敗戦国日本人としての、自分に流れる血のせいだろうか。

  • 会場は安藤忠雄の設計に似た、コンクリート打ちっぱなしの小洒落たInstituteの地下1階。エントランスをくぐると、階下までぐるりと壁に沿って階段が降りている。踊り場のところから会場全体を見渡せるポイントがあり、ちょうどそこから乗り出すように会場を見回している、長身の黒いコートの男性がいた。もしここでカラシニコフをぶっ放されたら一発だなあと、ふと思う。会場はほとんどユダヤ人。

  • ひやっとしたので、頭を切り替え小説の筋を考える。私の心の中のテロリストは、ここで銃はぶっ放さない。
    ……そんなの、檸檬を置いていくにきまってるじゃん。

  • 最後に友人のスピーチは、最も短く、最も感情を横に置き、足で集めた史実や生存者の声を率直に述べるに徹した、物静かなものだった。
    心に響く。10年に渡り、淡々と史実を集積した彼女の寡黙な横顔の、なんと雄弁なことだろう。

    いい金曜日だった。


1.18 Saturday

  • 年若い方と対話する。
    最近感じている、「愛すべき場所でたまに感じる違和感」について、同じ場にいるその人に、私からお願いして、いただいた対話の時間。

  • でも話を持ちかけた時点ですでに、「”違和感を聞いてもらえますか”と、安心して話せる人のいることの、なんと豊かなことか」とその豊かさのほうに気づき、不穏さ解消。笑。

  • 相談したときに、決して悪意の誤解をせず、またたとえ私が特定の個人を例えとして用いても、私の見方に寄せることもなく、物事を正当に解釈できる強い思考の幹がある、と信じられるから話せることがある。

  • だからその先の対話も豊かで楽しかった。
    場の力について、同調圧力について、書くことについて。

  • こういう対話の場に出逢い、以前は「違和感=不穏アラーム」だった信号が、「違和感=豊かさの金塊!」に、直接変換されつつある。

  • ただ、これはこれで気をつけないと。
    世の中、みんなが「違和感=豊か!」ではないことをちゃんと認識しておかないと、相手に失礼な言動をしてしまうこともあるだろう。

  • 午後から、娘たちのボーイフレンドが、それぞれにやってくる。どっちもいい子たちなんだな、これが。下の娘のボーイフレンドは食道楽で、たまたま訪れた町にアジア食品店があって、お土産にラムネを買った!と持ってきてくれる。なんと可愛い。

  • 上の子のボーイフレンドは超絶シャイで、お付き合いして一年がたつ今も、うちに来た時に親の私と目が合わせられない笑。いわゆる、オタク気質のコミュ障タイプなのかな? 見た目はぱっと目を引くハンサムだし、運動も成績も抜群。「そのギャップがまた何ともいいよね~」と娘に言うと「そういうところがママは!」と怒られる。

  • 自分の彼氏をオタク系コミュ障枠に入れられたことではなくて、オタク系コミュ障系をステレオタイプで見る私のポリティカル・コレクトネスの低さにおかんむりなところが、なんとも上の娘らしくて良い。
    はい、その通りです。すみませんでした。

  • ちなみに私も昔から、好きなタイプは断然オタク系コミュ障男子。そういうところ、親子で似るもんなんだな。言葉ではペラペラ話さない彼も、以前あげた「けん玉」の上達っぷりを、帰り際にいつも披露してくれる。

  • 現在長女17歳、次女14歳の彼氏がどちらもとてもいい子なので、ついつい老婆心でいらんことを言う。
    「こういういい子は、彼氏じゃなくてずっといい友達でいて、結婚適齢期の直前でつき合ったらいいのに」とか、「もし別れるときは、くれぐれもいい別れ方をしなさいよ。いい人との縁というのは恋愛よりもずっと大切なのだから」とか。もちろん毎回、激怒されている。

  • 二日で結構長くなったので、いったん投稿。

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