聞こえるかホーミー
先日、彼氏が私のいびきを聞いて笑っていた。
「お前はマッコウクジラか?!昼間はゴリラで夜はクジラか?!随分と野生的だな!」
そう言って、夜中に録音したであろう私のいびきを聞かせてくれた。
そこには間違いなく、声帯を震わせながら太平洋で仲間を探すクジラの声が刻まれていた。
地鳴りのように低く、クラブミュージックばりに響く重低音。ブタとは違う、おっさんとも違う、これがヒト科の女の出す音とはとても信じられない、ビブラートの効いたざわつく騒音。
夜中にこんなものが隣から聞こえてきたら、即刻フラれてもおかしくないと思った。
「えっ、嘘でしょ?ダウンロードしたクジラの鳴き声でしょこれ。」
「違うよ、ほんとに昨日の自分のイビキだよ、夜中にクジラ語でしゃべってたんだよ!」
そんなクジラと交際出来るのか。
クジラ語をしゃべる女と結婚するというのか。
すごい決意だ。
陸の生物と海の生物の異種混合恋愛だ。
種を超えての進化である。
改めて考えてみれば、暖かな気候の南の海で育った彼と、緑と雪しかない山奥の集落で生まれ育った私。
明るくて人懐っこい彼と、内気でコミュニケーションが下手くそな私。
お互い、真逆と言っていいほど違うことだらけだ。
それでも私達は一緒にいる。
同じ屋根の下で暮らし、同じ物を食べ、同じ布団で眠り、そして同じ気持ちでお互いを想い合う。
これってすごいことだ。
恋愛は異種混合競技なのかもしれない。そこに勝ち負けがあるのなら、私はいっそ負けでいい。彼の愛にひれ伏したいし、むしろそれが幸せかなのかもしれない。
かっこいいから好き、可愛いから好き、優しいから、賢いから、お金があるからなどといった綺麗な好きではなく、
ブスだけど好き、野良だけど好き、頭臭くても好き、のように、人間らしくてどろどろとした理由を持って「あなたを好き」になれてよかった。
あなたが、私のクジラのようなイビキを「愛おしい」と思ってくれてよかった。
人のことを愛することが、こんなにも気持ち良いことでよかった。
東京は、今日も快晴です。