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ショートショート 「This Could Be The Last Time」

🟥一郎(20歳)の日記

1973年1月9日(火)

ストーンズの来日公演が中止になりそうだ。
麻薬所持の前科があることを理由に、外務省がメンバーの入国を拒否したらしい。
主催者側から正式な発表はまだないが、お上がそう判断したのなら99.999%中止だろう。
徹夜して並んでやっとの思いでチケットを手に入れたっていうのに、ふざけんじゃねえぞ外務省のBitchどもめ。
クソ! クソ! クソ!
いつの日か来日公演が実現したら、その時はなにがあっても駆け付けるぞ。
親が死んでも駆け付けてやる!

🟥一郎(35歳)の日記

1988年3月23日(水)
15日の大阪公演を皮切りにスタートしたミック・ジャガーの来日ツアー。
昨日と今日は東京ドームで公演が行われた。
幸運なファンたちがコンサートを楽しんでいるまさにその時、俺は会社で、土嚢みたいに積み上がった書類の山に埋もれ、吸い殻がてんこ盛りになった灰皿を睨み付けながら、自分の運命を呪っていた。
ウチの会社は音羽にある。
東京ドームは目と鼻の先だ。
チャリンコを立ち漕ぎすれば10分くらいで着くだろう。
でも、昨晩と今晩に限っては、このわずか3キロの距離が無限の隔たりのように感じられた。
サラリーマンなんかやるんじゃなかった。
こんなの人生じゃないよ。
Sad Day…。

🟥一郎(37歳)の日記

1990年2月14日(水)

ローリング・ストーンズの初来日ツアーが、今宵行われた東京ドーム公演で幕を開けた。
ラッキーなことに、俺はこの歴史的瞬間に立ち会うことが出来た。
脱サラして本当によかった。
自営業バンザイ。
もう死んでもいい、思い残すことはなにもない。
…いや、ひとつだけある。
親子で東京ドームに行きたかったんだよな〜
だから少しMixed Emotionだ。
でも、二郎はまだ17歳。
今は「ストーンズなんか聴かねえよ。あんな商業主義のアリーナロック」なんて生意気なことを言ってやがるが、いずれ分かるはずだ。
ストーンズがいかに反骨精神に溢れた連中であるか、ストーンズの音楽が本質的にはあいつが普段好んで聴いているヒップホップやレゲエと同じブラック・ミュージックなのだということが。
次に来日公演が行われたら、その時は強制連行しようと思う。
でも、ミックとキースってもう46なんだよな。
現実的に考えれば、やっぱりこれが最後なんだろうか…。

🟥一郎(42歳)の日記

1995年3月17日(金)
Happyだ。
二郎と一緒にストーンズのコンサートを観ることが出来た。
あいつも大人になったもんだ。
かつてはあんなにストーンズを、と言うかクラシックロック全般を毛嫌いしていたくせに、最近じゃ「なあ親父。レコード貸してくれよ。渋谷のクラブでDJやるんだ。『Miss You』のディスコヴァージョンと『Hot Stuff』のプロモ盤と…」なんてことを言いやがるんだから笑っちまう。
いつか二郎と三郎と、親子三代でストーンズを観たいものだ。
でも、ミックとキースってもう52なんだよな。
現実的に考えれば、やっぱりこれが最後なんだろうか…。

🟦二郎(22歳)の日記

1995年3月17日(金)
親父とふたりでストーンズの東京ドーム公演を観て来た。
嫁と三郎はウチでお留守番。
ライブを観るまでは、ビル・ワイマンが抜けてしまったことにかなりガッカリしていたのだが、サポートのダリル・ジョーンズの堅実なパフォーマンスを目の当たりにして、そんな思いはどこかへ吹き飛んだ。
今のストーンズには、適切にチューンナップされたクラシックカーのような安定性がある。
ミックのハーモニカが聴けたのも嬉しかったし、セットリストも素晴らしく、頭から最後まで大満足のショーだったが、個人的にはキースの「Before They Make Me Run」と「Slipping Away」が白眉だった。
カッコ良すぎるよ、キース。
俺も歳を食ったらあんなオッサンになりたい。

🟥一郎(45歳)の日記

1998年3月17日(火)

ストーンズの東京ドーム公演に行って来た。
今回も二郎と一緒だ。
俺個人としてはこれが3度目のライブ鑑賞になる。
今回もストーンズは最高だった。
奴らにとっては年齢なんかただの数字に過ぎないんだろう。
本当にRespectableな連中だ。
それにしても、こんなに早く再来日してくれるとは思ってもみなかった。
なんなら毎年来てくれよ。
三郎はいま5歳だから、あと数年すれば親子三代で観ることが出来るし。
でも、ミックとキースってもう54なんだよな。
現実的に考えれば、やっぱりこれが最後なんだろうか…。

🟦二郎(25歳)の日記

1998年3月17日(火)
親父と二人で東京ドームにストーンズを観に行って来た。
嫁も誘ったが、あいつは来なかった。
曰く「お母さんに三郎を預けて遊びに行くのは流石に気が引けるわよ。と言うか、そもそも私ビートルズは好きだけどローリング・ストーンズには興味ないのよね。なんかゴチャゴチャしててうるさいし…」だとよ。
ふん。
今回キースは「Thief in The Night」と「Wanna Hold You」を演ってくれた。
特に「Thief in The Night」には痺れた。
個人的には「How Can I Stop」も演って欲しかったけど…。
モニターに大写しになる度におどけて見せる、ロニーのショーマンシップに感服。
彼のひょうきんなキャラクターがバンドにもたらしているであろうものを垣間見た気がした。
すぐにでも再来日して欲しい。

🟥一郎(50歳)の日記

2003年3月16日(日)
ベストアルバム「フォーティー・リックス」の発売に合わせて行われたツアーの一環で、ストーンズがまた日本に来てくれた。
今度こそ親子三代でライブを観たかったのだが、息子の嫁が反対したので、三郎を連れて行くことは叶わなかった。
「まだ10歳だし…」と息子の嫁は言う。
「いや、もう10歳なんだから…」と思わず反論しそうになったが、身内とはいえ、他所の家庭のことに首を突っ込むのは良くないと考え、自重した。
腰は痛いし、生え際は交代して来たし、気力も体力も無くなって来ているけど、ストーンズのライブを観て、俺は思い直した。
老け込むにはまだ早過ぎるぜ、一郎。
まだ50だろ?
I Go Wildの精神で行かなきゃ。
ストーンズよ、頼むからもう一度日本に来てくれ。
親子三代でオメーらのライブを観るまでは、俺は死んでも死に切れないよ。
次に来日公演が行われたら、その時は息子の嫁を縛り上げてでも、三郎を連れて行こうと思う。
でも、ミックとキースってもう59なんだよな。
現実的に考えれば、やっぱりこれが最後なんだろうか…。

🟦二郎(30歳)の日記

2003年3月16日(日)
ストーンズ、やっぱり最高だった。
三郎も連れて行きたかった。
嫁を説得することが出来なかった自分の不甲斐なさに腹が立つ。
親父と俺の影響で、三郎は10歳にして、すでに一端のストーンズ・フリークだ。
ポケモンに夢中になっている同級生たちを尻目に、レコードジャケットやインナースリーブ、雑誌の記事などを頼りにストーンズのことを調べ上げている。
歴代メンバーの名前はもちろん、レコーディングに参加したゲストミュージシャンやライブのサポートメンバー、および彼らの経歴、さらにはプロデューサーやレコーディングエンジニアの名前まで知っているのだから頭が下がる。
キースは今回「Slipping Away」と「Happy」を演ってくれた。
最近、車に乗る時はいつもキースのソロアルバムをかけている。
もう一枚作ってくんねえかな…。

🟥一郎(53歳)の日記

2006年3月22日(水)
ついに親子三代でストーンズのライブを観ることが出来た!
感無量だ。
生きてて良かった。
欲を言えばキリがないが、将来三郎に子供が出来て、親子四代でストーンズのライブを観れたら最高だろうな。
タフな奴らのことだ。
80歳になっても現役で世界を飛び回っている可能性は充分にあるし…。
いや、これは単なる空想だ。
Just My Imaginationだよ。
テンプスのオリジナルが聴きたくなって来た。
とにかくまた日本に戻って来て欲しい。
でも、ミックとキースってもう62なんだよな。
現実的に考えれば、やっぱりこれが最後なんだろうか…。

🟦二郎(33歳)のブログ記事

2006年3月22日(水)

【ライブレポート】ローリング・ストーンズのドームライブに行って来た!
東京ドームで行われたストーンズのライブに行って来ました。
いま帰って来たところです。
連れ合いは、親父と13歳になる息子です(笑)
ドームはもちろん満員で、雰囲気も最高でした。
なにより親父の喜ぶ顔を見れたのが嬉しかったです。
やっと親孝行出来たなー、と思いました。
それにしても前座でリッチー・コッツェンが出て来たのには驚きました。
速弾きが得意なギタリストというイメージしかなかったんですが、意外なことに、この夜彼が演奏したのは本格的なブルーズロックでした。
結構良かったですよ。
歌も悪くなかったし。
ストーンズはいつもながら絶好調でした。
特にチャーリー。
魔法でも使って若返ったのでしょうか?
もの凄くタイトな演奏を披露してくれました。
今回キースは「This Place Is Empty」と「Happy」を演ってくれました。
「ビガー・バン」をかなり聴き込んでいたので、「This Place Is Empty」を選んでくれたのはすごく嬉しかったです。
私が初めてストーンズのライブを観たのは1995年のこと。
その時も親父と一緒でした。
時の経つのは早いもので、当時22だった私は33になりました。
でもストーンズのメンバーに比べれば、まだまだ若造ですよね(笑)
とにかく楽しかったし、みんなに一度は観て欲しいです。
ストーンズのライブに行くたびに、私はそう思います。

🟥一郎(61歳)の日記

2014年1月4日(土)
もう思い残すことはない。
2006年、息子と孫と一緒に東京ドームで行われたストーンズのライブを観たあと、俺は確かにそう思った。
いつ死んでもいいとさえ思った。
でも今は違う。
生きたい。
せめて、あと2ヶ月生きたい。
生きて、8年ぶりに来日するストーンズのライブを何としても観たいのだ。
もちろん二郎と三郎と一緒に。
出来たら5〜6年後にひ孫の四郎も一緒に、親子四代で観たい。
いや、それはさすがに欲張り過ぎというものか。
なんせミックはもう71なんだから。
それに俺は…。

毎日iPodでストーンズを聴いている。
床頭台の扉に貼り付けた、息子がとってくれたストーンズの東京ドーム公演のチケットを眺めながら。
最近の楽しみは3月4日のセットリストを予想すること。
外は曇っているが、心は晴れている。
それもこれもストーンズのおかげである。
奴らのロックンロールが俺を絶望の淵から救ってくれているのだ。
どんどんキツくなって来ているが、俺は負けない。
副作用なんかに負けてたまるかってんだよ。
頼むぜ、神様。
It's Only Rock 'n Roll, But I Like It!!

🟦二郎(41歳)のブログ記事

2014年3月4日(火)
【ライブレポート】ローリング・ストーンズのドームライブに行って来た!
東京ドームで行われたストーンズのライブに行って来ました。
いま帰って来たところです。
まだ興奮状態にあり、冷静に感想を書くことが出来ないので、明日改めてブログ記事にまとめようと思います。
そもそもは、親父と息子と3人で行く予定だったのですが、残念なことに、親父は先月亡くなってしまったので、嫁と息子と3人で観て来ました。
ちなみに一番盛り上がっていたのは嫁です(笑)
帰宅してから、お袋と留守番をしていた1歳の孫の寝顔を見て、私は思いました。
いつかこいつと一緒にストーンズのライブを観たいなあ、と。
それにしてもミックとキース、ヤバいです。
もう70歳ですからね!
では、また明日〜

🟨四郎(41歳)のブログ記事

2054年3月4日(水)

【ライブレポート】ローリング・ストーンズのドームライブに行って来た!
東京ドームで行われたストーンズのライブに行って来ました。
いま帰って来たところです。
まだ興奮状態にあり、冷静に感想を書くことが出来ないので、明日改めてブログ記事にまとめようと思います。
そもそもは、親父と息子と3人で行く予定だったのですが、残念なことに、親父は先月亡くなってしまったので、嫁と息子と3人で観て来ました。
ちなみに一番盛り上がっていたのは嫁でした(笑)
お袋と留守番をしていた1歳の孫の寝顔を見て、私は思いました。
いつかこいつと一緒にストーンズのライブを観たいなあ、と。
それにしてもミックとキース、ヤバいです。
もう110歳ですからね!
では、また明日〜

P.S.
キングカズこと三浦知良選手。
JFL最年長出場記録更新おめでとうございます!

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