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ショートショート 「失念」

蟹江は寝込んでいた。
昨日、猿田から青い柿の実をぶつけられて大怪我を負ったのだ。
夜になって、事件のことを聞きつけた臼井が見舞いに訪れた。

「蟹江さん。大丈夫かい?」
「参っちまったよ。心配掛けてすまねえな、臼井さん」
「あのエテ公め! 蟹江さんよ、今晩仇をとってやるからな」
「...ほ 、ほんとかい?」
「ああ。仲間も呼んであるんだ」
「そいつぁ頼もしい」
「…お、来た来た」

と、戸口に臼井の仲間が現れた。

「よお、蟹江さん」
「おやおや、蜂谷さんじゃないか。あんたも仇討ちに協力してくれるのかい?」
「ああ、もちろんだとも」
「ありがてぇなあ。なんと礼を言っていいものやら…」
「水臭えことは言いっこなしだぜ。そうだ、俺も仲間を呼んだんだ」
「ほんとかい?」
「ああ。もうすぐ来るよ」
「持つべきものは友だねぇ。涙がちょちょ切れらぁ」
「...ほうら。来たぞ」

と、戸口に蜂谷の仲間が現れた。

「こんばんわ〜。蟹江はん」
「こりゃどうも。あんたも来てくれたんだね」
「この度はエラい目ぇに遭わはったんですって?」
「そうなんですよぉ…」
「あの猿、ワイらがいてこましたりたりますわ」
「ありがてぇこった。えーっと...」
「…」
「えーっと、えーっと...」
「蟹江はん、どないしやはりました?」
「…あれぇ、どうしちまったんだろ? 思い出せねえんですよ。あんたとは毎日顔を合わせているような気がするんだけど。よっぽど打ちどころが悪かったのかなぁ…。ねえ、旦那?」
「なんでっしゃろ?」
「恐縮ですが、お名前を伺っても?」
「連れないなぁ、蟹江はん。馬場でんがなぁ…」

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