日本一おもしろい高齢者
「ちくしょう。負けてたまるかっ」
血が騒ぐ。
・・・
「おお。こんなみっともない体をして。情けない。もうしばらくしたら死ぬな。ヨボヨボになってしまって」
おどけて明るく話しているが本心だろう。浴室の鏡で自分裸、老体を見つめながら、その利用者さんは自分自身のことを嘆いていた。
こういう時、ぼくは口をつぐむ。「そんなことないですよぉ〜」なんて、安い大学生キャバ嬢みたいなおべんちゃらは言わない。
こころの悲しみにそっと寄り添い、背後で頷きただ黙って背中をみつめるだけだ。湯船に入ってさっぱりしたら、そんなことは水に流れしまえるから。
「いったい、いつまで生きるんだろうか。この体で。」
いや、あなたはまだまだ生きる。死んでもらったら困る。悲しむ人がここにいるじゃないか。なぁそうだろ。
「なぁ!どうやったら死ねる?」
「どうしたら死ねるかなぁ!なぁ!」
暗い燃える戦慄の語尾に、ぼくは流石に口を挟も・う・と・し、
「どうしたらいい。」すっと右を向き、
「どうしたらいい。なぁ、お風呂さんよぉ〜!」
「風呂に喋っとたんかい!俺に喋っとたんちゃうんかい!」
この爺さん。TikTokやったら間違いなくバズる。
「きちんとボケてくる高齢者」っていうコンテンツにしたい。
・・・
「屁!屁!屁!が出る!湯船にうんこしよ!」
「してもいいけど自分もクソまみれやで!」
・・・
「ブゥ!!」「あ!屁が出た!空襲警報だ!」
「引火して吹っ飛ぶから!」
・・・
「・・・」湯船に浸かって、押し黙り一点をじっと見つめる爺さん。
「あれ?〇〇さん!〇〇さん!〇〇さん!大丈夫ですか?」
「もう死んでるよ」
「生きとるがな!」
これは毎回のミニコント。
・・・
「おーい!パンツ履かせてくれぇー!」
「自分で履いてくださーい!」
「んなら、かぶろかなぁ!」その爺さんはリハビリパンツを本当に被る。
「昔ジャンプにそんなヒーローおったわ!(変態仮面)」
「くさ!」
「あんたのや!」
「このパンツいくらで売ってやろうか」
「あんたが金払って買ってもらうんや。いや誰が買うか!」
放送禁止用語も連発し、ぼくは巻き込み事故で毎回怪我をする。
ぼくが思うに、この爺さんは日本一おもしろい高齢者だ。小柄で禿げていて仙人みたいな髭を生やし腰がイカれていて歩幅が小さくヨチヨチで歩く。
フォルムも100点を超えている。Rー1に出たら準決勝までは行くだろう。
ぼくは嫉妬している。
魂が震えている。血が騒いでいる。あの時の。
介護は大変。介護職はキツイ。そんなネガティブなイメージを覆したいと思っています。介護職は人間的成長ができるクリエイティブで素晴らしい仕事です。家族介護者の方も支援していけるように、この活動を応援してください!よろしくお願いいたします。