10年の歳月を経て
ハタチで実家を飛び出して、10年後に芸人を辞めて実家に帰ってきた。
10年前に実家を送り出してくれた母も、ぼくと同じように10歳歳をとる。
10年の間、実家に帰ったのは指折りぐらいの回数。実家に帰る目的といえば同級生と会うためで、実家でゆっくりすることなんてなかった。
心も体も住所も実家に戻り、10年ぶりに母親とゆっくり話す。
深い時間リビング。ぼくは缶ビールを片手に、母親は寝る準備をしていた。
ぼくは、東京での暮らしや10年間の懺悔を告白しようと思っていた。
台所で洗い物をしている母。こんなに背丈が低かったかな?と、少し丸まった背中が10年の歳月を物語っている。
ぼくと入れ替わるように兄は実家から出て行って、父親は母と離婚していてとうにいないもだから、ぼくが実家に帰ってきていなければ、この2階建の一軒家にひとりで暮らすことになっていた。そう思うとやはり、ぼくは実家に帰ってきて正解だったのかなと、夢破れた慰めにもなった。
そんなことを考えていて、話しかけようと思ったら母が先に振り返った。
顔が縮んでいた。母のアゴが縮んでいた。
台所で入れ歯を外し洗っていた。
クシャおじさんだった。
ダイエットのビフォー・アフター写真のような急激なギャップにぼくの頭はカルチャーショックを受けて思考が停止した。その急激に老け込んだ顔面は、なんだか見てはいけない恥部のような、着ぐるみの中の人間を見てしまった感じがして、ぼくは怖くて切なくて泣き出しそうになった。
今、ぼくは高齢者施設で働いていて毎日高齢者と接している。高齢者を見慣れているからちょっとやそっとの「老い」ではたじろぐことはない。
一歩引いた目線で冷静に、心の落ち着け方や対応を考えることができるようになっている。しかしそれは、いいことなのか?マヒしてるのか?
とはいえ、言いたいことは、
同世代、両親と離れて暮らす息子さん・娘さんに告ぐ。
「親とちょいちょい会っておいた方がええで!マジでエグいぐらい老けてるときあるで!」
総入れ歯はビビったなぁ。