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恋ジャズ #24「楽園~September in the rain」
その腕の中にいれば、幸せでいられる。
そんなこと、彼女はとうに知っていた。
穏やかであたたかい、愛というものに包まれて、
彼女はただ微笑んでいればいい。
そこは、楽園だった。
ところが、
そこを捨て去ることは愚かだと、
誰よりも知っていたはずの彼女は、
その腕から逃れようとしていた。
穏やかな愛よりも欲しいものを、
彼女は知ってしまったから。
どんなに足掻いても手に入らないもの。
けれど、けっして諦められないもの。
すべてと引き換えても欲しいものを、
不幸にも彼女は知ってしまったのだ。
その腕の中にいれば、幸せでいられた。
けれどそれは、もう過去の話だ。
彼女の心に起きた変化とともに、
穏やかであたたかかったその腕は、
彼女を囲う檻となった。
すり抜けたいと願い、逃れようともがいた。
かつて心地いいと想った腕の中から。
けれど、優しい言葉で拘束され、ぬくもりに呪縛され、
彼女は楽園に閉じ込められた。
穏やかであたたかい、愛というものに囚われて。
二度と出ることの叶わない、永遠の楽園に。