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スマホ注文、ちょっと待ってくれ

外食産業の現場に「スマホ注文オンリー」が浸透し始めた。QRコードを読み取ってメニューを見ながら、自分のスマホで注文を完結できるシステムだ。
表向きは「効率化」「人件費の削減」「接触を減らす」などのメリットをうたう店が多いが、実際に利用した客からは「使いにくい」「指が汚れるのが嫌」「アプリやLINE登録を強要されるのが不快」といった声が絶えない。なんとなく“最新のDX”っぽく見えるこのやり方が、本当に双方にとってハッピーな解決策なのか、改めて検証してみる必要がある。

1. 店側の思惑とブームの背景

そもそも、なぜ飲食店がスマホ注文をここまで推すのか。一番大きな理由は、人手不足という構造的な問題だ。アルバイトを確保しようにも若者が減り、時給の高騰で予算も厳しい。そこで「オーダーを自動化すれば、スタッフが減らせる」という論理が生まれる。タブレット端末を各テーブルに配置するより、客のスマホを使ってもらうほうがコストも抑えやすい。
さらに、顧客データの収集も魅力的だ。アプリやSNS登録させればリピート来店を促すクーポンを配れる。たしかに仕組みとしては理にかなっているが、一方で「そもそも登録したくない」「バッテリーが切れそう」「外部ページに飛ぶたびにエラーが出る」などのクレームが後を絶たないのも事実。

2. 客が感じるストレスの正体

あちこちで「スマホ注文はめんどくさい」という意見が噴出しているのには、いくつかの要因がある。ひとつは、紙メニューや口頭でのやり取りに慣れた人が新しいUIに適応できないケース。ましてや年配層が相手だと、店員が端末の操作説明からしなければならず、当初期待していた“オペレーション簡略化”は夢物語に終わりがちだ。
もうひとつは、食事とスマホが相性悪いと感じる人もいること。手づかみやソースで汚れやすい料理を扱うとき、いちいち画面をタップするのは憂鬱そのもの。オシャレなカフェでも、操作手順がやたら煩雑だとイライラが先に立つ。
このように一部では「機械が苦手な客はお断り?」という印象を与えてしまい、店自ら客を遠ざけるリスクすら抱えている。

3. 全体のオペレーションは本当にラクになるのか

「注文はスマホが受け持つからスタッフの負担が減る」と思いたいところだが、実際にはそう単純ではない。料理やドリンクは誰かが運ぶ必要があり、テーブルが散らかれば片付けも必要。トラブルシューティングで呼び出しを受ければ、その都度ホール担当が対応しなくてはならない。
一部の客層は使いこなしが早いかもしれないが、不慣れな客がいる店では逆に問い合わせが増えたり、説明に手間取って以前より混雑が激しくなる事例も報告されている。
また、売上面でも一長一短だ。気軽に追加オーダーできるぶん客単価が上がると期待されるが、「面倒だからもう頼まない」と消極的になるケースもある。店のコンセプトや客層によっては「注文数が増えるどころか減った」という悲鳴も聞こえてくる。

4. タブレットやハイブリッド方式への回帰

大手チェーンでは、各テーブルに端末を置く“タブレット注文”を積極的に導入している。導入コストはかかるものの、全客が同じデバイスを使えば説明もしやすいし、操作トラブルも統一しやすい。それすら嫌なら、口頭か紙メニューで対応すればいいだけだ。
一部の店舗では、紙メニューとQRコード注文を共存させるハイブリッド方式を実施している。慣れている客はスマホを使い、苦手な人はスタッフを呼んだり紙を使ったり。店の規模や客層を踏まえて、こんな柔軟な選択肢を確保することこそ現実的ではないか。

5. 無理なアプリ強制は逆効果

囲い込みマーケティングという言葉に踊らされると、客にとっては「まずアプリを落として」「次に会員登録をして」「最後にクーポンゲット」みたいな煩わしい導線にハマる。せめて“任意”の登録にとどめるとか、ワンタップで注文に飛べるUI設計を考えないと、利用者のストレスは消えない。
一度悪印象を持たれると、リピート率どころか二度と来店しない可能性もある。本人が何も言わなくても、SNSで店名を挙げて批判されるリスクがあることを忘れてはいけない。

6. 飲食店DXはゴールではなく手段

飲食業界は人件費の上昇や人材確保の難しさ、さらにコロナ禍での非接触ニーズも加わって、従来のやり方だけでは経営が難しくなっている。それでも「最新ツールを入れたからうまくいく」とは限らない。
オペレーションをどう最適化し、客に不快感を与えない導入プロセスを組めるかが勝負どころ。単にスマホ注文を導入しただけで店の課題が全部解決するなんて幻想にすぎない。
人の手が足りないなら、まず仕組みを見直すこと。どこを自動化し、どこをスタッフがフォローするか。その線引きを誤ると、結局イライラが増えるだけだ。

7. 結局は「店づくり」の話

テクノロジーが進んでも、外食の魅力は“料理のおいしさ”や“居心地のいい空間”にあると思う人は多いはず。だからこそ、注文の手間一つ取っても、店の雰囲気や客層と合致していなければ逆効果になる。
もし高齢者が多い街の個人店なら、タブレットか紙メニューのほうが親切かもしれない。若者をメインターゲットにしていて、アプリを使いこなす客ばかりなら問題ないだろう。要は、無理に流行に乗らなくてもいいし、かといって頑なにアナログでいる必要もない。
大切なのは、どんな客が来て、どんな体験を求めているかを踏まえたうえで「どう店づくりを設計するか」であって、単純な“デジタル化”だけが答えではない。


まとめ

スマホ注文が飲食店を劇的に変えると思われていたが、実際はそうでもない。「必要な場面もあるが、使いこなしが下手だとむしろトラブルの温床になる」というのが現状だ。効率化のメリットもあれば、客のストレスやスタッフの負担増につながる部分もある。
要はテクノロジーをどう使いこなすか。店のコンセプトや客層に合わせて選択肢を柔軟に組み合わせられるかが鍵になりそうだ。中途半端に導入して客の不満を高めるくらいなら、従来の紙メニューや接客の良さを伸ばしたほうがはるかに利益になる可能性もある。スマホ注文は、魔法の杖でもなければ悪魔の仕組みでもない。現状をふまえて、上手に付き合っていくしかないわけだ。

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