【フジ・中居問題】権力で握り潰したタブーは白日の下に晒され社会から圧殺される
いま、多くの企業やメディアが「権力と性的搾取」の問題に直面している。それは有名タレントやテレビ局のみならず、スポーツ界や学術分野などでもじわじわ顕在化し始めた深刻な構造的リスクだ。昔は“隠してしまえば何とかなる”と思われていたが、SNSの猛烈な拡散力や社会の倫理意識の高まりによって、もはや黙殺が難しい時代に突入している。
そもそも、力を持つ側が弱い立場の人を意のままに利用しようとする行為は、古代から常にあった。ただ現在は、被害者が声を上げやすく、加害側を糾弾する世論の勢いも強い。ほんの一昔前まで、示談や“うやむや”な対応で終わらせていたケースが、いまや大炎上につながる。スポンサー企業や投資家は企業イメージとコンプライアンスを重視し、ちょっとでも疑わしい案件にはすぐに手を引く。それが企業経営に打撃を与え、結局はトップの責任が問われる構図になっている。
特に芸能・テレビ業界は、「番組を成功させる」「視聴率を取る」という大義名分のもと、昔からあいまいな接待や飲み会の慣行を抱えてきた。出演者や関係者との距離感が近い分、グレーゾーンの体質が温存されがちだったともいえる。しかし最近では、視聴者や株主が“そのやり方、大丈夫か?”と本気でチェックし始めている。ハラスメントや示談のもみ消しがバレれば一瞬で炎上し、番組スポンサーは離脱し、企業の株価も下がる。だからこそ、テレビ局は第三者委員会の設置を急ぎ、外部弁護士を交えて事実を明らかにする流れになっている。要するに、かつてのような「内輪で処理」は通じなくなっているのだ。
この現象はテレビ界に限らない。スポーツの世界では有名監督によるパワハラやセクハラが選手の告発で一気に表面化したり、大学の研究室で教授が学生を不当に支配していたことがSNSで拡散されて問題になるケースもある。どれも「強い立場にある人物が弱者を従わせる」構図であり、ハラスメントの呼び名こそ違えど本質は同じ。“権威”をちらつかせて何とかしようとする古い発想が破綻に向かっているとも言える。
さらに、社会の雰囲気を左右する要素として「ESG投資」や「CSR(企業の社会的責任)」への注目がある。投資家は企業がどうコンプライアンスを守っているかをシビアに見ており、倫理的に問題がある会社には資金を投じたがらない。つまり、企業は自社の信頼を守るためにも徹底したガバナンス体制を築くしかなくなっている。ちょっとした疑惑でも、社長が曖昧なコメントを出して逃げようとすれば一層疑念を呼ぶ。結果、ひたすら隠蔽するどころか、迅速に調査をして正直に公表し、改善策を打ち出さないと状況は悪化する一方だ。
この流れの背景には、被害者が“声を届けやすくなった”という変化が大きい。SNSやメディアに訴えかけると瞬時に情報が広がり、企業や組織が“示談”で済ませるだけでは収まらない。それゆえ被害者も勇気をもって告発しやすい環境が整いつつあり、組織側の隠蔽体質は猛烈な逆風を受けることになる。陰で取引していたような話がどこからともなく表面化し、周囲から総叩きに遭う時代なのだ。
ただし、あまりにも「被害者=絶対の正義」「加害とされる側=悪」という二項対立に陥りすぎると、新たな問題も出てくる。ごく少数ながら、自らの立場を“売名”や“利得”に利用しようとする人がいることも事実だ。とはいえ、だからといってハラスメント被害を疑う声まで黙らせていいわけではない。最終的には第三者による厳正な調査と、証拠に基づく判断が必要だということになる。
こうした一連の動向を見渡すと、完全に元の世界には戻れないように思える。企業やテレビ局は自主的に問題を洗い出さなければ、いざスキャンダルが起きたときに大炎上を避けられない。視聴者もスポンサー企業も、古い体質や不透明な接待や示談がある組織を見限りやすくなった以上、“クリーンであること”が生き残る必須条件になりつつある。
したがって、今後ますます求められるのは、当事者が声を上げやすいシステムと、公正な調査を担保する仕組みだ。会社としてはハラスメント通報窓口や社内研修を強化し、問題が起きたときは徹底的に調査して処分を公表する。人権尊重やジェンダー平等を建前だけでなく、具体的な行動で示さないといけない。もはや「権力で押し切る」方策はリスキーすぎる。
“誰にも知られずに解決できる”時代ではなくなったことで、被害者が報われやすくなるのは確かだ。しかしそれは、企業や組織にとって甘い話ではない。意思決定に時間やコストがかかるし、ちょっとした接待もルールを厳格化しなければならない。だが、グレーゾーンを放置すれば、炎上リスクと株主からの追及によって企業価値が深刻に損なわれるという現実に直面することになる。
最終的には、誰しもが“これはもう避けられない流れだ”と認めざるを得なくなるだろう。従来型の権力ヒエラルキーや隠蔽体質は、一度火がつけば世論が容赦なく企業を叩き潰す。時代の変化に合わせてクリーンさをアピールし、真摯なリスク管理を掲げることこそ、組織が生き残るための不可欠な条件になりつつある。