地方自治とはなにか。団体自治・住民自治を整理しよう

問:地方自治について、150字以内で説明しなさい。

ダメな解答例:
まあ地方を治めるやつね。


解答例:
地方自治とは、一定地域の住民が、その地域における公共事務を自主的に決定し処理することをいう。国家の領域を多数の地方自治体に区分し、国家から一定範囲内で独立してその地域を統治する権限を地方自治体に与えるという団体自治と、行政事務をその地方の住民が自らの責任と意思に基づき処理するという住民自治がある。(149字)


《団体自治と住民自治》


地方自治とは、広い意味では、国内の一定地域の住民が、その地域における公共事務を自主的に決定し処理することであり、この意味では、ギリシアの都市国家、中世末の自治都市の政治なども含まれる。近現代の日本の文脈においては、地方公共団体の政治が国の関与によらず住民の意思に基づいて行われることであるが、団体自治と住民自治に分けて議論されることも多いので、まずはその違いを明らかにする。

 団体自治とは、国家のもとに一定の地域を基礎とする団体 (地方公共団体) が、自己の目的、意思、およびこれを具体化すべき機関をもち、上級統治団体である国家から独立してその地域内の行政を処理することである。国家政府とは別の地方政府がそれぞれの地域に存在して、当該地域の行政を運営していくということである。これは主に制度的な権利保障が論点となる。国家や地方の政府が、どういった事柄に対してどういった働きかけが出来るのか、誰にどこまでの権限があるのかといったことは、予め法的に規定されるものである。よって、団体自治の良し悪しについて論じる時は、法的・制度的なシステムが望ましい形で整備されているのか、という点が重視される。

 住民自治とは、団体自治と相対され,地方行政が当該地域住民の意思に依拠して処理されることをいう。憲法 93条にある地方公共団体の議会の設置、その長、その議会の議員、法律に定めるその他の吏員などの当該地域住民の直接選挙制の規定、また 94条にある条例制定権の規定はこれを示す。こちらは割と、意識的・メンタル的な問題である。国家政府が何かをしてくれるのを待っているのではなくて、自分たちの街の問題は自分たちで解決するべきだというスローガンのようなものである。地域ごとに議会や行政主体を持ち、その地域の住民の意見を入れながら運営していくということである。
条例制定権などはわかりやすいと思うが、要するに「自分たちの街のルールを自分たちで作る」ということである。場合によっては国の法律よりも厳しい条例を作る地域も存在する。京都の景観条例などはまさにその例で、国の法律で禁止されていないことが京都市の条例で禁止されている場合もある。(建物の高さ制限、看板の色彩等)
この住民自治の考えは、「地域の問題の解決策はその地域の人が考えた方がいい」という、ある種当然ともいえる事実を基にしている。京都の問題について東京の会議室で考えていても埒が明かないのである。


《地方自治の本旨》


日本国憲法92条には次のように記されている。


第九十二条
地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。

また、地方自治法1条も参照されたい。


第一条
この法律は、地方自治の本旨に基いて、地方公共団体の区分並びに地方公共団体の組織及び運営に関する事項の大綱を定め、併せて国と地方公共団体との間の基本的関係を確立することにより、地方公共団体における民主的にして能率的な行政の確保を図るとともに、地方公共団体の健全な発達を保障することを目的とする。


これら以外にも、地方公務員法第1条、地方交付税法第1条などの地方自治に関する重要な法律の目的規定において、「地方自治の本旨」という言葉が繰り返し用いられているが、その定義について明文化した法規範は、実は存在しない。一応法学会においては、『地方自治の本旨』とは、「地方自治の本来のあり方」のこととされ、「団体自治」と「住民自治」の2つの要素からなる、という学説が一般的である。本稿はそれを前提に説明を加えている。

 団体自治と住民自治は車の両輪に例えられる。当然の事ではあるが、どちらが欠けても地方自治は成り立たないのである。地方公共団体の行政運営の制度だけが存在してもその地域の住民にやる気が無いのでは意味がないし、反対にやる気だけがあっても自治運営をするための法的に正当な権限を持たなければ自治は不可能である。また、どちらが先にあるというものでもなく、相互に支え合いながらその街の中で自治の在り方が見いだされていくことが望ましい。

 「地方自治の本旨」の概念は曖昧なままであるが、議論は為されている。佐藤竺の1965年の論文では、「通説はこれを、一方で中央と地方の新しい協力関係であるとしながら、他方で旧憲法下の解釈をそのまま踏襲して、ドイツ法的な『団体自治』と『住民自治』との結合という形でとらえる。…官治的集権化への復活の根拠が生まれる」として、当時の日本の地方自治は不十分であり、戦前のような中央集権的な行政に戻ってしまうことを危惧している。
また、2003年に発表された『今後の地方自治のあり方に関する答申』においては、「補完性原理※1の考えにもとづき、地方自治体優先の原理をこれまで以上に実現していく」「団体自治ばかりでなく、住民自治が重視されなければならない」と記されている。

※1 補完性の原理(subsidiarity)
権限を分担すること。自治や問題解決はできるだけ小さな単位で行い、対応しきれない部分のみ大きな機関で補うこと。自分で解決できることは自分でやる、出来ない時は家族や地域の人に頼む、それでも出来ない時は市町村の役所へ、都道府県へ、国へ、という要領で、小さな問題は小さい単位で解決していくことが望ましいとされている。補完性原理が実現されるには、市民一人一人の意識も当然必要であるが、必要に応じてより上位の機関にアクセスが出来る正当な権利が保障されていることも大切である。

※ワンポイントアドバイス


地方自治の本旨に関する見解は議論が分かれるところであるので、他にも様々な資料に目を通してみましょう。今回は住民自治の方にウェイトを置いて説明をしていきましたが、団体自治の制度を整えていくことで自然と住民の意識が変わっていく、としているものもあります。
学問として重要であるだけでなく、これから自分たちが暮らしていく地域の在り方も左右する問題なので、一人一人がしっかりと考えていくようにしましょう。


※追記

ここまで読んでいただいてありがとうございます。
学びがあったと思っていただけましたら、SNS等でシェアしていただけますと幸いです。

また、現状としては読者の方がどういった点を解説してほしいのか、どういったテーマを掘り下げてみたいのかということがあまりわからないまま記事を書いています。
ご意見やリクエスト等、コメント欄に打ち込んでいただけないでしょうか?
「こういうことがわかりました」「こういうことが難しかったです」といったアウトプットの場にしていただいても構いません。
よろしくお願いいたします。

いいなと思ったら応援しよう!

森本@何度も大学いくマン
放送大学在学中の限界サラリーマンですが、サポートは書籍の購入にあて、更に質の高い発信をしていきます!