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言の葉【詩】

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2022年12月の記事一覧

詩 『浮く耳』 (2022)

浮く耳

なんでもないからここにいたんです。
痛いのは耳
冷たい夜気
スピーカーから流れる
電子音のノイズ
電流が乱れると音量が振れるの
まるで心霊現象
みたいに。
驚かないでください
調光器が不安定なんです
少し不安なだけなんです
安定を切り離したら
定まらなくなっただけなんです
あなた、
どこに
いたんですか。

だからね、
なんでもないからここにいたんです
意味が必要だったんですか
意義が求

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詩 『巡、』 (2022)

巡、

それだから眠れなくて書き記す、ぼやけた思考が巡回している、きみはここにいた、その確らしさを求める数式には出会えなくて、「これは証明の問題ではありません」 言葉という記号すらも解体してしまいたい、表音の、裏側に、表意、憑依、されてしまった意図が、この文字列の表皮に爪を立てて、掻きむしる、快感と自責は隣り合わせだ、いつだって四隅を埋められなくて、ぱたぱたと真っ黒に染まってゆく盤面、ただ、こうし

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詩 『カウント零』 (2017)

カウント零

はたはたと
風を鳴らして鳥は去る
窓枠の形に切り取られた空
いくつかの影を追う、

二秒

ひらひらと
手を振り別れる
視界から消えたわたしが
あの子の手元のスマホ画面に
存在を忘れられるまで、

一秒

古いレコードの針が
刻まれた溝を撫でなかった
黒い刻印に封じ込められたままの、

零秒。

塗り替えられていく
再開発の駅前に
横たわっていたあのひとは
今はもう、
いない

消え

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