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忘れられないことば 〜訪問言語療育の現場から〜
2023.3.20 stand.fmの配信より
Summaryfmを活用して(抜粋した内容)
突然の音声ライブ配信
今日嬉しいことがあってね。このお子さんに関わった1年を、ちょっと振り返ってみました。
4月が始まって、お子さんが卒園する、入学するっていう時期。それで、結構出会いと別れの季節なんですよね。私にとっても。
お子さんたちにとっては、すごく環境の変化が大きい、年度末、新年度になろうかと思います。今日ことば支援で訪問したお子さんが、ラストデーだったんですよ。3月で終了になって、4月からは学校に行く。1年前に契約して、年長さんの1年間を一緒に過ごしたっていうお子さんで。
コミュニケーションの基礎「三項関係」へ
電車が好きなお子さんでね、プラレールでよく遊んでいました。
ただこれは[プラレール]と[俺]っていう2点の関係で、そこに相手がいないの。それが遊びを観察してると、それがありありと分かって。
うーん、なるほど。ここは[私]と[あなた]とその[遊び]っていう、その3点の関係をまず作る。そこで遊びを共有するっていうところから始めなきゃなっていうお子さんだったんですね。
発語はあったけど、それは動画の受け売りだったり、オウム返しだったりして、会話の道具としては言葉が使えてないっていうような感じ。
まずは、お子さんがプラレールで遊んでるところにそっとそれを私が隣で見る。それを許してもらうと。その後、私が彼の持ってる電車を一緒に遊んでいいかいって言って、おもちゃを触らせてもらう。これで遊べば?みたいに渡してきてくれる時もあって、一緒に遊ぶみたいな感じ。そんなところから始まって。
なかなか、座って課題をやるっていうのはなかなか苦手なお子さんだったので、体を使った遊びもやったりして。
なかなか会話にならないっていうのと、遊びを共有するのが難しいっていうような、ざっくり言うとそういうお子さんだったんです。
そこで、インスタグラムで有名な言語聴覚士 小原先生の、ストローに電車のシール貼ったおもちゃを、その時たまたま見て。これじゃ真似っこしようって思って。紐にストローをどんどん通していくと電車が長く繋がっていくよみたいなそういう遊びだったんですけど、ただストローと紐を渡して「通しなーっ」て言うだけだと、やっぱり一人遊びになっちゃう。
はじめに、ストローの色分け作業をして。その後「なにが欲しいですかー」って言ってお店屋さんみたいに。"あか、ください"と言うとか、指差したら。のように、発信してくれたら渡すよ。みたいな感じで。
どうぞ-ありがとうの練習と役割交代
繰り返し遊んでいくと、「赤いこまちください」「こまちとかがやきください」とか言葉を繋げて要求してくるようになっていきました。
「ください」はできたけど、その後「ありがとう」の練習するまでは、なかなか出なかった。ありがとうって言うまで待って。言えたら渡す。の流れで根気よく進めていきました。
その後は私が「ください」って言って「どうぞ」の、逆の物の受け渡し練習へ。お店屋さん遊びで、りんごくださいって私が言ったら「どうぞ」って彼がカードを渡してくれる、みたいな。
立場が違えば"ありがとう"って言うのか"どうぞ"って言うのかっていうのか。
あげる人はどうぞっていう、もらった人はありがとうっていう、それが逆の立場になれば自分がどうぞっていうそれが逆になる。ただいま、おかえりもそうなのよね、結構苦手なお子さん多くて。
間近に感じた成長
そんな感じで最初は、[電車]と[俺]っていう感じだったのが、
私を交えて遊べるようになり、
意識して的に物のやり取りができるようになり、
「赤い電車長いね」みたいに語れるようになって、だんだん言葉が増えてきたんですよ。関わり遊びも上手になってきて。
ちょうど4月から始まった関わりがちょうど1年間近く。お母さんも働いてるから3、4ヶ月に1回ぐらいお会いできるくらいで、その時点ではおばあちゃんが見てるっていう感じで。
遊ぼうよ!って名前を呼んでくれた
2月の終わりくらいに急に名前呼んでくるんですよ。「さとうさん、まだ来ないでー」みたいなこととか、自分から追いかけっこに誘ってきたり。他者と遊ぶっていうことを自発的に遊びを始めるわけですね。すげーなって思って。それまで私がなんとかグイッと入って一人遊びにさせないように関わってたのに!
驚くほどの成長で。
今までこの10ヶ月、近く名前も呼んでくれてないのに急に名前呼び出すんですよ。きゅんきゅん♡しますよね。ときめいちゃう。
そうやって、関わり遊びに自分から誘ってくれるようになったんですよ。物と遊ぶんじゃなくて[あなた]と遊ぶっていう。嬉しくて。
三項関係が身を結んだ気がした
あるときに、久々に私の訪問にママが同席してくれた日があって。なかなか、その、シチュエーションは本人にとっても、珍しい訳です。
とてもテンション高かったですね。私とママが喋ってる時にも、「さとうさん、みてみて!」って何度も言ってくるの。名指しで笑。
「みてみて」っていうのすごくないですか?
共感したいっていうことでしょ?
その時、お魚のDVDかなんか流れてて。「さとうさん、みてみてー黄色い魚だよー」「早いねー、可愛いねー」とかって言うんですよ。
9か月前には、オウム返しだったお子さんがそうやって言うんです。俺の見てる世界を、あなたも見てって、共感してっていうことなんですよ。ここに来るまでにどれだけかかるかって。それが当たり前じゃないんですよね、彼らは。
当たり前じゃなかったっていうのがわかるから、いやー感動しましたよ。
「ママピンクの魚だよー。逃げられちゃったねー、食べられちゃったねー」
みたいなことを実況中継みたいにちゃんと言うんですね。で、ちゃんと動詞とか形容詞とか形容動詞なんかもちゃんと入ってくるんですよ。「青い電車、長いねー」みたいなことも言うんですよ。心から感動しました。
そんな彼の、訪問言語療育。
今日最終日だったんですね。でママさんがメールをくれたんですよ。
忘れられないことば
訪問に行く前に毎回、体調確認も含めて朝にメールをさせてもらうんです。
そのメールのお返事が。
お世話になってます
花粉症で少し咳が出てるけど、
それ以外は元気です
本日最終日ですけど
仕事を早退できませんでした。
おばあちゃんがつきそうから
よろしくお願いします。
最後に今まで本当にお世話になりました。
「さとうさんに出会えてよかったです」
このメール見て、そこから訪問行くわけですよ。嬉しすぎて、胸が熱くありました。
私の感情が揺れ動いたからこれは喋って残しておきたいなと思って、今に至ります。
私、お子さんの訪問支援の経験って本当に数が少ないんですよ。今もお子さんの担当が、訪問で3件4件ぐらいあって。言葉の支援って本当に形がないものなんです。
私が関わったことで、絶対に言葉が伸びるとかコミュニケーション力が高まるっていう保証はないわけですね。
子育ての不安だったりとか、分からないこととかがあれば調べるし。不安なことがあれば話を聞きますし。コミュニケーションに対して、好影響というか悪くないかなっていう遊びはさせてもらいます。精一杯の対応はしたいと思ってる。
ただどうなるかは本当に結果は分からないんですよ。自信もないし。
でも。
お子さんがやっぱり変わって、遊び方が変わっていって、言葉数が増えていって。今までの関わりが無駄じゃなかったかな。と思える経験でした。
これは「忘れられないことば」でしたね。
これを励みにまた
ことばのしごと。頑張っていきたいと思います